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黄道を刻む二十四の時の詩

春の夜は暖かくも冷たくて

作者: 日浦海里

木々の枝に座ったりぶら下がったりする花たちが

(あで)やかな彩りを纏って軽やかに舞い始める朝の光


それは雪の彼女が残した優しさを柔らかく解いていく光



未だ彼女の息吹を思わせる冷たい風を連れた花たちが

(つや)やかな輝きを纏って優美に舞い踊る夜の光


それは地から芽を出した生命を包むように見守る光


どちらもあなたの灯した光

私達のように季節を巡ることもなく

常に皆と共にいるあなたが与えてくれる光

そこには

あなたの優しさと激しさと

内に秘めた憂いと嘆きと


どちらもあなたの宿した光

近づけば焼き尽くすほどの激しさは

手が届かぬほどに遠くの誰かを思う裏返し

だからこそ

誰にも触れぬように身を隠さなければならない嘆きは

時に地を濡らす恵みとなって

光と共に生命(いのち)(たす)


夜の闇に迷わぬようにと

夜兎に衣を纏わせた光仄かに

安らぎを共にと眠りを誘えば

あなた自身は休むことなく

この(そら)を海を照らし続ける


その胸の内がいつか裂けることのないよう

私はただ側にいる


あなたの光で芽吹く春があるのだと

あなたの光を待つ冬があるのだと

やがて訪れる実りの季節のために

あなたを待ち望む子達(こら)がいるのだと


その事をあなたが忘れぬように

その事をあなたに伝えるために


私はあなたの側にいる


内の闇と

外の光とが

分かたれぬよう

共にあるよう


今日は春分。

太陽の出が真東から、入りが真西になる日で、

昼夜の長さがほぼ等しくなります。

二十四節気では、『立春』からが「春」になりますが、

天文学的には『春分』の日から『夏至』の前日までを

「春」とするそうです。

また、春のお彼岸の中日にもあたりますね。


近頃は、早い地域だと桜の花が咲き始める頃にもなりました。


【登場人物紹介】

○陽ざしの君

 太陽です。

 生命を包み込む優しさと

 生命が生きていくために必要な温もりの力を持ちながら、

 全ての生命にその力を届けることが出来ないことと、

 その力のために生命を苦しめる事があることを

 不甲斐なく思っています。

 遠くに届けようとすれば、近くを傷つけ、

 近くを傷つけぬようにすれば、遠くには届かず。

 そして、その力を制御できるかと言えば、

 思い通りにもならず。

 季節の大半を雲に覆われた空の下で過ごす冬姫は、

 彼の優しさの一面だけしか知りません。

 「柔らかな陽射しの君と凍ったままの私」の中で、

 「凍ったままの私」こと冬姫が、

 春姫と仲良く寄り添う様を羨む言葉を述べているのは

 そのためです。


○冬姫

 別名 氷姫。

 温められた世界を冷やす力を持ちます。

 彼女もまた陽ざしの君とは同じく、

 自らに与えられた力を制御することは出来ず、

 ただその力で世界を凍りつかせることしか出来ません。

 その力は生命の温もりすら奪いつくすこともありますが、

 一方で、彼女によって生み出される氷や雪は、

 地の下で新たな生命を育む役割りも持っています。

 彼女は自らの役割を知り、そのように振舞いますが、

 自分にできることは奪うこと、

 眠りにつかせることだけで、

 生命を育むことは出来ないし、

 他の生命に触れることもできない、と思っています。

 彼女は常に孤独なのです。


○春姫/秋姫

 春姫であり、秋姫。

 彼女自身は温度を操る力をは持ちません。

 彼女はただ、世界に水を与えることが出来るだけです。

 雪解けの水が正しく流れるよう、

 世界を熱する力が訪れる前に、世界が潤うよう、

 雨を降らせる事が出来る。

 彼女自身が温もりを持たないために、

 陽ざしの君の事も冬姫の事も、そして夏姫の事も、

 冷静な立場で眺めることが出来ます。

 彼らが皆、一様にして生命を慈しみたいと思いながら、

 思い通りにいかないことを悩んでいることを知り、

 彼女はただ、その心が乾かないように、

 潤いを与えたい、そう願っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幻想的な描写がとても美しい作品ですね。 あたたかさと冷たさが同居するこの季節は、待ち遠しい春への期待と、去りゆく冬への惜別に満ちているように思います。 あたたかく世界を照らす「あなた」と、そ…
[良い点]  ドームの天井に太陽を据えて。  円形に取り巻く壁に描いていく、季節の物語。  だんだんと、そんな印象になってきました。 [一言]  月の光も日の光。  知っているはずなのに、改めて教え…
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