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悪魔の証明  作者: 雨足怜
1/5

悪魔の召喚

本日より新作を投稿します。

悪魔の証明、全5話となります。


全話予約投稿済みです。


主人公ガイと悪魔のやり取りを楽しんでいただければ幸いです。

「私を呼んだのはあなたですか?」


 魔法陣がまばゆく光ると共に現れたのは燕尾服に身を包んだ青年だった。長い黒髪に血の色をした瞳。シャープなあごの輪郭に、つんと尖った鼻。美青年と呼んで差し支えない外見をした彼は、けれどその人間離れした美しさゆえに人間ではないと証明していた。


 彼は悪魔だった。


「ああ。俺がお前を召喚した。俺はガイだ。お前は?」


 対して悪魔の青年を召喚したと告げるのは、いかつい男。剃り上げられた禿頭に、太い眉毛、鋭くつり上がった眦はそれだけで男に威圧感をもたらしていた。全身は分厚い筋肉で覆われており、右の眉尻に残る傷跡がいかにもその手の職業についていますと言いたげに男の風貌を厳しくしていた。

 男の金の瞳がぎろりと悪魔のことを睨む。


「ふむ、ガイ殿ですか。悪魔である私に名などありませんが……そうですね、ではノーマンとでも名乗りましょうか?」


「ノーマンか。分かった。ちなみに、何か意味があるのか?」


「もちろんですよ。名は体を表すというでしょう?名付けとは世界からそのものを切り離す行為であり、存在の定義に他ならないのです。私という存在と反する名前でも名乗ろうものなら、その時点で私という存在は消滅してしまいますよ。悪魔というのは、肉体を持たないぶん、存在が希薄ですからね」


「で、意味は?」


 三白眼を向けるガイの視線を受けて、悪魔は小さく肩をすくめて見せる。


「おや、これは失敬。ノーマンとはすなわち“No man ”、男に非ずということですよ。どうです、中々できた仮の名でしょう?」


「どこがいいんだ?というか、お前女なのか?どう見ても男だが」


「悪魔は肉体を持たぬ精神体なのですよ。ゆえに、人間のそれのように男女という識別が存在しません。まあ悪魔である我々もまた、男性体、女性体として区別することで効率的に人間を味わうことを可能としていますが……と、ああ。そういう訳で私は男です。それと、いい名前というのは、あなたの名乗りに対する適切な対応でしょう?という意味です」


「どういうことだ?」


「おや、ご理解いただけない?ガイ殿が『俺は男だ』とおっしゃるので、私も『自分は男ではない』と名乗って見たのですが、ご不満でしょうか?」


「……俺の本名はガイだ」


 ガイの眉間に青筋が走る。その怒りに気が付いているのかいないのか、悪魔は鷹揚にうなずき、ガイの顔の前にぴんと指を一つ立てる。


「ええ、ええ、存じておりますとも。契約のためにこの世界に降り立つ際、自身を召喚する者について情報を集めておくのは悪魔として当然のことですから。その怒りの感情、中々に甘美ですね」


「……さっさとまともな名を名乗れ」


「ではやはりノーマンと」


「ふざけてんのか?」


「いえ、今度は本気ですとも。ノーマンというのは私の通称です。過去に私を召喚したお方が、私を見て『その容姿で男だと、信じられるかッ』と暴言を吐きましてね。依頼悪魔の間で私はノーマンという識別名で通っているのです。いやはや、あの頃は私もずいぶん若かったですね」


「……まあいい。で、ノーマン。俺はお前と契約がしたい」


「もちろんですとも。私もまた、ガイ殿と契約をするために現世に足を運んだのです。さて、ではまずは契約内容を聞かせていただけますかな?」


「求めるのは、俺の双子の娘の片方が殺された事件の犯人が存在しないことを証明することだ。対価は……何を払えばいいのかわからん」


 ガイの言葉を聞いて、悪魔は顎に手を当てて考える。

 その思考を読み取ることはただの人間にできるはずもなく、ガイは何を対価に要求されるのか戦々恐々としていて――


「ふむ、犯人が存在しないことを証明しろ、ですか。ふふ、悪魔の証明というやつですね。実に皮肉が効いているではありませんか」


 ガイの怯えに反して、悪魔が告げたのはまったく別の内容だった。


「悪魔の証明?お前が悪魔だからか?」


「おや、ご存じない?……例えば、ガイ殿。あなたには息子がいらっしゃらないわけですが。『あなたが息子を持たない』ということを、あなたはどのように証明しますか?」


「ああ?どうって……国の戸籍を確認すりゃあ一目瞭然だろ」


「では、愛人との婚外子や、花街で一夜の偶然が生まれていたとしたら?それを証明することは可能でしょうか」


「俺は妻以外との女性と関係を持ったことはない」


「ええ、存じておりますとも。私は悪魔ですから。けれど、おそらくはあなたはそのことを万人に証明することは不可能です。全ての者があなたの人間性を知っているわけではなく、ましてや一夜の過ちが長い人生の中で起きていないと断言するよりは、男だからその可能性もあるだろ、という決着を迎えるでしょう」


「……なるほど、つまりそれが悪魔の証明ってわけか」


「ええ。存在しないことを証明する。実に難解ですとも。とはいえ今回は『犯人が存在しないこと』ではなく『事件は自殺だった』と証明すればいいわけですから、少し話が違うかもしれませんけれどね。どちらにせよ、私が悪魔である以上は『悪魔の証明』に他ならないわけですが。……どうです、理解した今、実に面白い言葉遊びだとは思いませんか?」


「あいにく、あまり時間がないんだよ。心の余裕がない今、そんなことを面白がっていられるかよ」


「ふむ、つまりあなたは急いでいる、と。はてさて、私の情報不足ゆえか、どうしてあなたが急いでいるのかはわかりかねますが……ひとまずは事件の内容を再確認するといたしますか」


 こうして、悪魔ノーマンと男ガイの、契約に向けて情報の共有を始めた。

この小説はシリアスしか書けない病にかかった現状を打破するために書いたものです。

これはシリアスではありません。

コメディーです。


コメディーの、はずです……

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