クズ召喚されたら即刻撤退します! ~ 一般人でも最強です!? ~
以前に書いて放置していた作品を手直ししました。
キーワードと内容がイマイチ合っていない気もしますがご容赦を。
召喚された側が無力じゃなかったら? と思いついて書いた作品です。
時間つぶしにでもどうぞ。
それは、ある初秋の昼下がり。
盛りを過ぎたけれど、太陽からの日射しはまだ十分に熱を放っている。
舗装された道に遠く近く陽炎が揺れる、午後。
その中に学生4人の姿が見えた。
テスト期間でもあるのか、彼らはカバンも持たずにいる。
「それでさぁ、この前コンビニでやられたんだよね、宅イチの先コウに」
「お前馬鹿か、あそこはガッチガチにマークされてるトコだぞ。ドアホ」
「それはボクも同情できないね~」
「てめっ、それでもダチか! もうちょっと言い方あるだろうがよ」
「キミの注意力散漫が引き起こした事態です。あきらめて受け入れるべきだと考えますけどね」
「この冷血非情な眼鏡男がぁ! ああぁ、反省文三枚、どうしよう~~」
「ふむ、文章作成は手伝いましょうか、せめて」
「回避する方向で案を出してくれ!」
彼らの会話が聞こえてくる。仲の良い友人のようだ。
その後ろから、紺色のスーツを着た女性が小走りで走ってくる。片手のスマホを見ながら、何やら焦っているようだが……そのまま行くと4人組に突き当たってしまう。
「おっと、あぶない!」
「え? きゃっ! ご、ごめんなさ……」
ぶつかりかけたところで不意に、地面が発光した。白く、スパークして。その中に浮かび上がる、魔術魔法円。
それは学生たちと女性を飲み込み、そのまま時空を転移していった。
****************
ある石造りの建物の中、その地下。
古来からある魔術魔法円が強い光を放ち、白い光の筒となった。
その中で徐々に実体化している人影は5つ。立ったり中腰になっていたりしている。いや、中にひとり、腰を抜かしたように座り込んでいるのは女性、か?
その光を囲むのは老若男女合わせて20数人。白いローブを纏い、節くれだった杖を持つ老人を囲む一団と騎士たち。そして彼らの中心に位置する老年の男と妖艶な美女。
眩しさを避けて目を細めながら、満足そうに唇が弧を描いていた。
「陛下、姫殿下。召喚は成功しましたぞ!」
杖を掲げていた老人が発した声に、安堵と喜びが唱和する。
「うむ。魔術魔法円の効力が収まったなら、次の段階に移れ。手筈どおりに、だぞ?」
「委細承知しております」
「わたくしも力を貸しましょうか?」
「姫殿下には暫しお待ちを。まずは我らで話を通します故、それがならぬ時はお力を」
「ほほほ、ではそのように」
何やら黒い会話がされているうちに光の筒は消えて、5人の姿が顕在した。
だが、動揺した様子が見られない。
立ち尽くしているのかと思った男、いや少年の眼には強い警戒の色があり。
中腰で窺っている少年の背には長い棒が見えている。
眼鏡を光らせた少年は片手をポケットに突っ込んで周辺を見やり。
ゆるく波打った茶髪の少年は、片膝をついて座り込んだ女性に寄り添っていた。
まさに、臨戦態勢だった。
今まで幾度か召喚してきた者たちとは違う様子に、やや気圧されながらも白いローブの老人が声を上げる。
「勇者方よ、よくぞ我らが願いに応じてくだされた。恐れることはありませぬ、こちらへお越しくだされ」
声が届いているはずなのに誰も動かないのを見やり、計算通りと内心ほくそ笑む。
「おお、言葉が通じませぬか。どうぞこの腕輪をお付けくだされ。翻訳機能を持たせておりますで遠慮はなさらずと」
そう言って一歩を踏み出しかける。と、
「ああ、ありゃ駄目だ。隷属魔法がかけられてる。受け取るなよ」
立ったままの少年が口を開いた。
「そっか。何にも云わずに僕たちをこき使おうってんだね。アウト~」
膝をついた少年が軽く受ける。その内容は決して軽くはないが。
「な、な……!」
言葉が通じ、おまけに言い当てられて狼狽える白ローブの老人。さらに、
「あの姫さんにも注意だ。『魅了』持ちだぞ。それもかなり性質が悪そうだ」
姫殿下のユニークスキルまで言い当てていた。
(こ、この小僧は、何故わかるのだ……!)
白ローブの老人の動揺がひどくなった。
「周りの騎士たちもそれにかかってる。気をつけろ。ああなると自分と相手の技量の差にも目がいかなくなる」
「チッ、いかにも王族らしい部下の無駄遣いだな」
舌打ちして、周りの騎士をにらみつける中腰の少年。背中の棒を引き抜き、中段に構えると。
その姿から濃厚な威圧が放たれて誰もが身動きできなくなる。
「な、な、なんですかここ……」
一人座り込んでいた女性がか細い声を出す。
「あ、お姉さん初めてなんだ、こういう事」
隣りの茶髪が顔を覗き込んだ。
「え? あの、どういう……」
「大丈夫、僕らに任せてよ。お姉さんはここで黙って見ててくれるかな? すぐに終わるから」
「あ、は、はあ」
「ま、待て、待つのだ!」
妖艶な美女の隣に立っていた老年の男が慌てた素振りで前に出る。
「余はこのファルシオン王国の国王である! 勇者たるそなたたちを害するつもりはないのだ!」
「害するつもりはない、だと?」
中心に立つ少年の口から出た言葉が王の足を止める。
「ここへ召喚した時点ですでに害を及ぼしてることに気づけよ、ジジイ!」
「なっ! 陛下に対して何たることを!」
「あんたらにとっては大事だろうが、こっちにしてみりゃ赤の他人だ。それも特大の迷惑をかけられてる最中の、な」
かなり口が悪い。おまけに目つきもだ。だが、全身から放たれる覇気は、横の少年からの威圧に勝るとも劣らない。
「ま、待って、そなたたち! わたくしたちのお話を聞いてほしいのです!」
姫殿下が一歩前に出て、細く高い声で呼びかける。
「お、恐ろしい魔族が、国を滅ぼそうと仕掛けてきているのです! このような召喚がそなたたちの思いを捻じ曲げていることは重々承知の上! それでもっ! それでもあえてお願いを!!」
両手を胸の前で組み、うるんだ瞳と震える声で少年たちへ切々と訴えかける。
「このままではわたくしたちの国だけでなく、世界中が魔族に蹂躙されてしまいます! そうなる前に、そなたたちの力で、この国を世界を救って……っ」
「それで?」
返ってきた言葉はそれだけだった。
「な! 何故っ」
「何故かだと? 俺たちの精神操ろうとしてるじゃねぇか。本当にそうなら、声に『魅了』なんぞ乗せるんじゃねぇよ」
「……っ!?」
「最初の段階で隷属魔法付きの腕輪とはな。俺たちを対等に見ていないだろ、あんたたち? やり方が手慣れてたしな」
自信満々だった『魅了』が効かず、万策尽きた姫殿下が悔し気に唇をかむ。
その様子を見ながら、立ったままの少年が呼びかける。
「どうやらクズの召喚に引っ掛かったようだ。みんな、分かってるな?」
「応」
構えを解かずに少年が答える。
「ラジャー。お姉さんは僕が見てるよ~」
茶髪が軽く返す。
「了解です。今この魔法陣を解析していますので、少々時間を」
眼鏡を光らせて中空に何やら描きながら少年が答える。
「あとどのくらい必要だ?」
「そうですね……1分弱もあれば十分でしょう」
「よし。逆発動させた後も……頼むぞ?」
「ええ、当然です」
眼鏡に当たった光を乱反射させた少年の笑みがなぜか黒く見えた。それに頷き返してから、
「さてと。時間があまりないから端的に伝える。俺たちはお前さんたちに協力はしない。力も知恵も貸すことはしない。その理由は、お前さんたちの方がよっく知ってるよな?」
「「「「「っ!」」」」」
「ああ、勲章だとか領地だとか、訳わからんモノなんぞ要らん。その姫さんも不要だ。第一、この国の現状を考えると協力すらしたくないし、な?」
「な、何を申すかっ、この、異世界の小僧がっ!」
「それが本音だな。自分たちだけが至高、とか思い込んでる、イタイ奴には付き合いたくないんでね、さっさと失礼させてもらう………イケるか?」
「あと少し頼みます。複数発動は操作が厄介ですから」
「おう、間違えないでくれればいいさ。どうせこいつらには何もできないから」
その言葉に、怒気を纏った王が叫んだ。
「生意気を申す小僧どもがっ! 騎士団よ、あれらを引きずり出せ! 何でも構わん、隷属魔法で縛り付けよ!!」
「「「「「「ははっ!!」」」」」
敬礼してすぐに、白い鎧の一団が殺到する、が。
「があぁっ!」
「ぐうっ!!」
「ふぐっ!」
「ふん、お前らごときにやられてたまるかってんだ」
木刀とは違う、細い木を縛り合わせた棒一本で騎士たちをたたき伏せた少年は、つまらなさそうに鼻を鳴らす。
その時、
「遅くなりました。準備、整いましたよ。もう一つの方も、ね」
その言葉とともに、眼鏡の少年の両手が空中に複雑な文様を描き出していく。
それを見た白ローブの老人が悲鳴を上げた。
「ば、馬鹿なっ、こんな、ことは、あり得ないィっ!」
「どうした、何を驚いているのだ!?」
「王よ! あれは秘中の秘、界渡りの魔術魔法円でございますぞっ!!」
「な、なんだとっ!!」
「そ、それともうひとつ、同時に術を組み上げてっ!! あり得ん、そんなに膨大なマナを、こんな若造が扱えるなどとは! 絶対に認めんぞぉっ!!」
「あんたに認めてもらえずとも関係ないさ。俺たちはこいつができることを知っている、それだけだ」
惑乱して叫んでいる白ローブの老人を目の端にかけ、当たり前のように言い捨てる少年。
彼の周りからは覇気があふれ、他の4人を光のドームのように覆っている。そのため魔導士も騎士たちも、そばへ寄ることが叶わないでいた。
「あ、それとひとつ伝えておくな。今後、この魔術魔法円は使えなくなる。クズな召喚をこれ以上やってほしくないんで」
「な、どういうことだ!!」
「後のお楽しみ、って奴だな。んじゃ失礼する……よし、やれ!」
「了解、発動です!」
眼鏡少年の右手にあった魔術魔法円が白く発光して5人を包み込んだ瞬間。
「さて、お待ちかねのお土産ですよ。確実に受け取ってくださいね?」
からかい半分の言葉とともに、眼鏡少年の左手から舞い上がった魔術魔法円が5人が消えていく下にある魔術魔法円の文様にピッタリ張り付いた。
「な、何だあの魔術魔法円は! どうなっておるのだ!」
「わ、分かりませぬ、王よっ! こんな、張り付く魔術魔法円など、我らの知識の中にはございませんっ!」
混乱する王と白ローブの老人の前で、張り付いた魔術魔法円が一瞬カッと光り、消え失せた。
「発動、が、終わったのか……?」
恐る恐る、白ローブの老人が近づく。覗き込んだ途端、腰が砕けたように座り込んだ。
「い、いかがいたした、魔術師長!」
「へ、陛下……魔術魔法円が……」
「魔術魔法円がどうしたのか?」
「魔術魔法円が……召喚用の魔術魔法円が、消え失せておりまする……!」
「なんじゃとぉっ!!」
「なんですってぇっ!」
転げるようにして、王族二人が駆け寄る。その前には。
「な、何も、無い……消えた……?」
愕然とした王の口が絶望を紡いだ。
この国は召喚した異世界人を使って周辺の国々に戦を仕掛けたり、いちゃもんをつけたりして賠償金や土地を奪ってきていた。その横暴さに我慢の限界を超えた周辺の国々が、一致団結してこの国へ攻め込んできている現在、いつものように異世界人を召喚の上、隷属させようとしたのだが……
「確かこの床に、魔術魔法円の文様が刻み付けられていたはず……」
「魔術師長、あの魔術魔法円は消すことができない物ではなかったの!?」
姫殿下に詰め寄られた魔術師長は呆然自失の状態だ。
「馬鹿な、ばかな、あり得ない……あれは古代魔法の【状態維持】と【時間停止】を掛けられた、我らでも触れることさえ叶わぬ防御の中に在ったというのに……」
上体がぐらりと傾き、前のめりになる。
「師長さま!」
「魔術師長さま、お気を確かに!」
「誰か、師長さまに水を!」
立ち騒ぐ周りの声も耳に入らず、魔術師長はつぶやく。
「我らは一体、ナニを呼び寄せてしまったのであろうか……?」
見つめる先には、昔から何も刻まれていなかったかのように、ただ風化した石畳の表面が連なっているばかりだった。
****************
昼下がりのアスファルト道路。
ゆらりと立ち上がる陽炎と共に、5人の姿が現れる。
周辺を見回し、中段の構えを解いた少年が竹刀を背に戻して息をつく。
「やれやれ、今回もクズな奴らだったなぁ」
「まったく。おかげで俺らはいい迷惑だ」
「ま~これもひとつの人助けかもよ。お姉さん、もう大丈夫だから立った方が良いよ。服が汚れちゃうからさ」
そう言って、紺色スーツの女性に手を貸す茶髪少年。
「え、あ、ありがとう、きみ。あれ、今までどこに居たのあたし?」
混乱気味の返答をする女性に、
「あ~、まあ、白昼夢、かなぁ。こんなに暑いから、一瞬意識が飛んじゃったんだね、きっと。熱中症にならないうちに冷たい水でも飲んだ方がいいと思うよ?」
「え、でも、なんか変な石の部屋とコスプレみたいな人達が居たような……?」
「これ何本かわかる?」
「指が、3本……え、やっぱり、夢、なのかな……」
「うん、まだ症状が軽いみたいだから大丈夫だね。それよりどっかへ行く予定だったんじゃないの、急いでいたみたいだし」
「あ、そういえばそうだった! そうね、このところ忙しかったからちょっと疲れてたのかも。ごめんね、変な事言い出して」
「構いませんよそんなこと。僕たちは何も聞いていませんから」
ここぞとばかりに眼鏡少年がにこやかに受ける。
「ふふっ、ありがと。じゃあ行くわね」
駆け出していく女性に手を振り、見えなくなったところで。
「相変わらずたらしだな、お前は」
あの場で発言を引き受けていた少年が茶髪少年を見て呆れる。
「え~、そんなことないよ。それに、あの場合のたらしはそっちでしょ~?」
指さす先に居たのは眼鏡の少年。当の少年は眼鏡の枠に手をかけて小首をかしげる。
「僕のどこがたらしなんですか?」
「ほらほら、その顔だって! 女性のカッコ悪い発言を聞かなかったことにするなんて高等テクニック、どこで覚えてきたのさ!」
「テクニックとはまたひどい。相手のことを思いやる気持ちから出た言葉をそんな風に曲解してほしくないですね」
「う~わ~、冷血数学人間が相手を思いやるなんて、世も末だよ~」
キャンキャン言い合う二人をよそに、他の二人はため息をつく。
「それにしても、やたらと増えたなクズ召喚が」
「ああ。おかげでこいつが手放せなくなってきた。いつ来るか分からんしな」
背に負った竹刀を軽くたたく少年。
「お前はいいよな、剣道3段で、そいつ持ってても違和感ないし。オレが使える得物、こっちじゃ危険物になっちまうから携行できないんだよ」
「そういやそうだな。片手剣、両手剣ともに使えるってのに、包丁ひとつまともに扱えないのも不思議だが」
「一体いつの話だよ」
「ついこの間、おばさんがスーパーで愚痴ってたぞ。『うちの男どもはカレーも作れないぶきっちょばかり』って」
「あ、あん時はレトルトが切れちゃって、仕方なく野菜から刻んでったらやたらと小さくなっちまったんだ。肉が多くてうまかったけど」
「皮と一緒に実まで剝いたんだろ、それ。ったく、バスターソードを使わせたらドラゴンを鼻歌混じりにぶっ飛ばせる奴とは思えないな」
「向き不向きがあるんだよ、人にはな」
「お前は極端なんだよ」
「ね~ね~、それよりさ、今回の召喚で何回目だっけ?」
まだ何か言いたそうな二人に割って入った茶髪少年の言葉に、
「俺はこれで15回目だな。お前は?」
「ボクはまだ9回目だね。喚ばれてもあんまり役に立たないって怒鳴られる方が多いよ、アハハ」
「そうか? 俺たちの中じゃお前が一番いろんなことできるんだがな」
「ボクの能力はパッと見で分からないことが多いんだよ~。索敵とか隠ぺいとかはね」
「喚ばれた時点で隠してるからじゃないか、それ」
「そうとも言うね~」
「僕は17回、ですか。半分賢者で引っ掛かりますよ」
眼鏡少年が自己申告する。言われてみれば確かにそんな雰囲気だ。
「賢者~? 黒魔導師の方じゃないの~?」
「それも3、4回言われましたね。白魔導士が5回でしたか」
しれっと答えるところを見ると、言われ慣れているのだろう。
「そうか。俺は剣士か剣聖のどちらかだな。得物は槍まで持たされたが、やっぱり刀が一番しっくりくる」
「強面の剣聖だね~」
「だから、誰も近寄らない。それはそれで清々しているさ」
「ボッチなのか~」
みんなの言い分を聞いて目つきのよろしくない少年が肩を落とす。
「そっか、お前らはそんだけ幅があるんだ。羨ましいな」
「そういうお前はどうなんだ?」
竹刀を背負った少年が尋ねる。
「オレは勇者の一択なんだ。何度喚ばれてどこに行ってもそれだけ。しかもだ」
やや据わった目で3人を見る。
「喚ばれた回数、知りたいか? 今度を入れて36回だ。さんじゅう、ろっかい!」
最後のひらがな呼びに力がこもりすぎて思わず3人が引く。
「小学生の時はまだ年に1、2回だったから目立たなかったけど、中学になったらうなぎ上りに回数が増えた。初めは夏休みを中心にして、そのうち学期ごとに1回、酷い時には還ってきた次の日に別の世界へ飛ばされたんだ!」
「そ、それは何とも、やりきれないね」
眼鏡少年が言葉を探しながら相槌を打つ。
「その頃からだな、俺が一緒に巻き込まれるようになったのは」
剣聖の少年が訳知り顔に口をはさむ。
「え、そんなときから二人は知り合いなの~?」
茶髪少年が驚いた。
「ああ、中学になると学区がいくつか一緒になるだろ? 俺とこいつの家は近いんだが、道路を挟んで学区が違ったんだ。それが中学で一緒になったと思ったら、時々居なくなっててな。おばさんが探し回ってるのが気の毒で手伝ってるうちに、俺も巻き込まれるようになった、てところだ」
「結構筋金入りの召喚被害者なんだね~……」
あまりの多さに茶化す気も失せたのか、茶髪少年も同情気味だ。
「最初のころは切羽詰まった状態で召喚されて、そこからすぐに戦闘! なんて事態もあったんだ。召喚場所がダンジョンの最奥で、なんとかかんとか脱出したと思ったら目の前にラスボス登場! て時もあったし」
「なんだよその無理ゲーは」
「ボクもそうおもう~」
「鍛えるには絶好のポジションですけどね」
「そん時のオレは必死でさ、とにかく切り抜けるので精いっぱいだった。そのうち、前の召喚で覚えた技や動作が次の召喚でも使えることに気づいてからは、ちっと楽になったかな」
「ああ、そうですね。前の経験値が引き継がれる、といった感じですか。それ、分かります」
眼鏡少年が大きく頷く。
「僕も、召喚されるたびにMPが増えていって、最初は無理だった大規模魔法や広域魔法が使えるようになったんです。前の時に覚えた魔法もOKでしたしね」
「そうだな。そういう点では回数が多いのも利点と言えるかもしれないな」
「でもでも、36回は多すぎないかな~? しかも最近はクズばっかだしさ」
「そうだよな。そう思うよな? ちょっとひどくないかここ最近は」
「迷惑しかないですね」
「止めてほしいよ、まったくさ~」
「本当にな。ああ、それより、反省文書かないと」
「大丈夫です。僕が文面を考えてあげますから」
「どうしたのさ、急に協力的になっちゃって」
「召喚が36回と聞いてちょっと気の毒になりまして。まあ、僕の独善です」
「そうか、助かる! さっそく始めよう!」
「じゃ帰るか。あ、こっちから行こうぜ」
ワイワイ騒ぎながら通りを目指して動き出した彼らの声が聞こえなくなったころ、ほど近い角から姿を現したのは、先ほどの紺色スーツの女性だった。
辺りを見回し、腕の装置をいじって起動させると、そのまま話し出す。
「本部応答願います。こちらミルシルク。時空#419302時点で召喚事案発生。現地人4名と共に召喚されましたが、約4分24秒で元の時空へ戻りました。特異な条件が発生していると考えられます。至急解析をお願いします」
「こちら本部。ミルシルク、了解した。不可視空間を発動したまま、その場で待機せよ。解析結果ができ次第、そちらへ送る。その時に質疑を行う」
「こちらミルシルク、了解しました。待機します」
本部との通信を終了し、発動している不可視空間を確認、インベントリから簡易デスクとチェアをセットしてPCを起動。通信モジュールを接続して連絡待ちの態勢で腰を下ろす。
軽いチャイム音と共にスリープしていた画面がアクティブモードとなり、本部と接続して開始状態となった。画面に上司の顔が映りこむ。
「こちら本部、バラックだ。ミルシルク、状況を再度説明してくれ」
「了解しました。報告します。
過日本部にて作成された予測データに基づき、召喚魔法発動の可能性が高かった時空#419302時点に接触したところ、確率98.76%の第3予測地点で召喚魔法の発動予兆を確認いたしました。本来ならその発動を止めるべくマナ吸収装置を使用すべきでしたが、予測外の歪みを発見したためマナ吸収装置の起動を停止し、次点の潜入行動へと移行しました」
「うむ、その判断を私も支持しよう」
「ありがとうございます。その作戦を決行すべく、ジャイロスィープ装置で召喚魔法発動のタイミングを計りながら、現地人との距離を詰めて発動の瞬間にその場へ到着、同じ現地人として紛れ込むことに成功しました。召喚先は時空#535672時点の第9ブロックで、以前にも他空間からの召喚をたびたび行っている要監視区域と判明いたしました」
「ふむ。またしてもあそこか……これまでに警告を3回してきたが。ん? 今回は戻ってきているな?」
「はい。そのことですが、まずは報告を先にお聞きください。現地時間1422に召喚魔法が発動、現地人4名と私ミルシルクが召喚陣によって時空移動した先は、第9ブロックのテオネニア界にあるファルシオン王国、その地に残っていた旧文明の祭壇跡地です。ファルシオン国王と姫殿下と呼ばれる女性、魔術師長をはじめとする一団、騎士たち総勢20数名の出迎えがありました」
「……」
「彼らはこちらが言葉の通じない種であると考えていた節があります。その証拠に翻訳機能を付与したブレスレットを示して手渡そうとしてきましたが、それにはもうひとつ、隷属魔法がかけられておりました」
「なんだと? それは被召喚者の自意識を縛り付けて奴隷化するものではないか! なるほど、それでこちらの警告など無視してきた訳か」
「おっしゃる通りです。さらに、姫殿下と呼ばれた者は魅了のスキルを持っており、それを使って被召喚者を意のままに操るつもりであったとも考えられます」
「ううむ、聞けば聞くほど胸糞が悪くなるな。だが、どうやってその者たちから逃げられたのだ?」
「それが今回緊急連絡しました案件です。ブレスレットの隷属魔法、姫殿下の魅了スキル、どちらも見破ったのはほかでもない現地人たちでした」
「は? 現地人と言うのは、召喚魔法で狙われた者たちのことだな? 彼らが見破っただと?」
「はい。おかしなことだと思われるのは承知の上です。ですが、映像を残してありますのでご覧ください」
そう言ってミルシルクは召喚されてから戻るまでの映像をPCに流す。一方向しか取れないが、音声はしっかり入っていてやり取りも明瞭だ。
しばらくしてから報告を続ける。
「ご覧いただいたとおり、そのすぐ後に送還魔法で戻ってきました。さらに」
「まだ何かあるのか?」
「戻る直前、もう一つの魔法が作動した感触を得ました。おそらく召喚魔法を消滅させるものではないかと思います」
「…………ミルシルク」
「はい」
「これは事実か?」
「信じがたい事ですが、事実です。私が戻ってきていることが何よりの証明になるかと」
「確かにそうだな……だが、訳が分からん」
「それにつきましてですが、私が離れた後、巻き込まれた現地人の話を聞くことができました。それも併せて流します」
さっきまでの4人のやり取りを同じようにPCへ流し込む。
「ふうむ。これは何とも奇妙なことだな」
「はい。確かにこの時空への召喚が増加しているのは事実ですが、特定の現地人に集中して発生しているというのは聞いた事がありませんでした」
「それも、その現地人同士で身近に固まっているとはな……」
PCの向こうで上司が考え込む。
「もうひとつ、被召喚者が何度も召喚されていくうちに、その者の異世界適応度数が高くなることも問題だと思われます」
「それがレベルの高い魔法や技を使える原因にもなっている、という事か」
「はい。あくまで私の推測に過ぎませんが」
「わかった。この件については上層部に対処をしてもらおう。ミルシルク、詳細な報告のためにもこちらへ戻ってきてほしい」
「了解しました。直ちに帰還いたします」
紺色スーツの女性は通信を終了して簡易デスクとチェアをインベントリへ戻すと、不可視空間を作動したままその場から消えた。
後には陽炎の立つ道路が、変わりなく揺れているだけだった。
「青春」→「異世界」→「無双」→「日常?」→「SF?」
の流れとなっています。詰め込みすぎ、かも……^^;
設定がゆるゆるなので、突っ込まれたら自爆一直線の作品です。
大きな心で見逃していただけると幸いです。
(生ぬるい視線……でもOKです)
「勇者」の彼の召喚回数一覧を貼っておきます。
小学1年~4年 各1回
5年、6年 各2回
中学1年 5回
2年 6回
3年 8回
高校1年 9回 計 36回
彼の学力が心配でこれ以上は気の毒になり…卒業できるかしらん??
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!