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二人目の誰か

二人目の誰かのある日の話。

 やぁやぁ、どうもごきげんよう。

はてさて一人目のある日はいかがだったかな?今日は余計な話はせず早速、誰かのある日の話をしようか。


 ◇


 ズボンの両ポケットに手を入れ、猫背気味の少し丸みを帯びた背中に鬱陶しいランドセルを背負い小石を軽く蹴る。

小さな足で一歩、一歩と下校する。一歩、一歩と小石を軽く蹴る度に少し重く鬱陶しいランドセルがカタッ、カタッと音を立てそれが余計に鬱陶しく感じさせた。


 途中で大通りを渡ってしばらく真っ直ぐ進み左へ道を曲がると、ひっそり静まりかえった住宅地。

少し大きな建物の陰に佇む小さな二階建てアパート、そこの一階の真ん中が僕とお母さんが住んでる場所だ。


 積雪対策で一階は各部屋ごとに僕の背丈より少し高い所まで階段がある。

僕は階段を上り、玄関からほんの少しずれた位置で群れて飛んでる羽虫に「ただいま」とボソリと呟きながらランドセルを下ろし、中から家の鍵を取りだした。

この羽虫はなぜか決まって僕が下校してくる時にだけいる。

朝、登校するときや休みの日、その他この玄関を出入りする度に確認していたがやはりなぜか僕が下校してくる時だけ飛んでいるのだ。

それに気が付いてからなんとなくその羽虫たちが僕の帰りを待ってくれているように思えて、ボソリとだが「ただいま」と言うようになった。


 僕らが住んでる部屋には二部屋のうち玄関横の台所と奥の部屋に窓があるのだが、奥の部屋の隣に少し大きな建物が建っているせいで朝から電気をつけないといけないくらい薄暗く、そして今みたいな冬の時期はすごく部屋の空気がひんやりとしていた。

よって帰ってまずやることは手洗いうがいではなく、電気をつけてストーブに火をつけることだ。

 手洗いうがいをし、鍵をランドセルにしまいストーブで少しばかり暖をとる、今日の宿題はプリントのみだが面倒だ。

かといってやらないわけにもいかないので、ある程度部屋が暖まってからプリントを終わらせてお母さんが仕事から帰ってくるまで遊ぶことにしよう。

 カリカリ、カリとプリントに書き込む鉛筆の音が静かな部屋に吸い込まれていきながら、僕は宿題を終えた。


 次に寝転び週刊マンガを軽く読む。正直、僕にはこの週刊マンガの面白さがわからないがクラスで話すためなんとなく買って読んでいる。

なぜこのマンガはどの話も戦っている話なのだろうか?

修行したり必殺技を覚えたりして毎回戦っている。それのどこが面白いのかよくわからなかった。


 マンガを閉じ机に向かう、机の引き出しから携帯ゲーム機を出し電源を入れる。

画面がつきボリュームを一番小さく設定していてもゲームの音が一人静かな部屋では大きく聞こえた。

カチッ、カチャカチャ、カチカチッ、カチャとボタンの音をたてながら単調なゲームを進めていく。

静かな部屋にゲームのBGMとカチャッ、カチカチというボタンの音だけが響き途中ゲームオーバーのもの悲しい音が流れ、また始める。


幾度もゲームオーバーを繰り返しては挑戦したが先に進めなくなり僕はゲームをやめた。

気が付くともう夕方だが、まだお母さんが仕事から帰ってくる時間ではない。

僕はストーブの火を消し、机の引き出しから財布を取り中身を確認し百円だけ取ってポケットにしまい財布を戻した。

脱ぎ捨ててあった上着を着てランドセルから鍵を取り出し、ストーブの火が完全に消えていることを確認して家を出た。


 夕方といっても外は既に暗くなっていた、冬の冷たい風が鼻先をかすめ僕はいつものようにポケットに手を入れ、少し背を丸め歩き始めた。

目的地は駅前の大型スーパー二階にある小さなゲームコーナー。

そのゲームコーナーには一回五十円でプレーできるゲームがあり、ゲームが下手な僕のお気に入りでもあった。


 目的のゲームコーナーに着き、店員さんに百円を両替してもらいゲーム機の前に座る。

このゲームは確か映画をもとにしたものだ、その映画の内容は知らないけれどタイトルと出てくるキャラクターはテレビのCMで見た覚えがある。

横スクロールのゲーム、いつもと同じような場所でゲームオーバーになり五十円を再び入れてコンティニュー。

できれば今回は前回より先に行きたいが、結局いつもと同じような場所で二度目のゲームオーバーとなった。


ゲームコーナーをグルッと見渡す。

近所のおばさんがこのゲームコーナーで働いており、たまに「内緒だよ」とメダルゲームのメダルを何枚かくれるのだが今日はいないらしい。

そろそろお母さんも仕事から帰ってくるだろうから僕も帰ろう。


  ◇


 ポケットから手を出し玄関の鍵をあける。

やはり羽虫たちは僕が下校してくる時だけいるみたいだ。

靴を脱ぎ揃えてから玄関の鍵を閉める、またすっかりと部屋の空気は冷たくなっていた。

再びストーブに火をつけ、痛いくらい冷たい水で手洗いうがいをし上着を今回はきちんと椅子にかけた。

ランドセルに鍵と明日使う教科書を入れ、ストーブの前で暖をとる。

一人静かで寒い部屋も少しずつ暖まってきた、ふいに玄関の鍵を外から開ける音がした。


僕は開いていく玄関に向かい笑顔で言った。


「おかえりなさい。」

読んでくださりありがとうございます。良き日々を。

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