三人目の誰か~after~
三人目の誰かに関するその後
人類の移住先の1つとなる惑星を開発するための土台作り、通称「穴ぐら作り」に着手してからもう何年地球に帰っていないのだろうか?
人々の生活の場となる惑星内部を掘削し崩れないように固め続けている。
この‘穴掘り’が終わったら、次は他の奴らが掘り終わった穴に人が生活出来るように新たな土台作りをする。
この‘穴ぐら作り’は人類が惑星に移住するための一番最初のとても重要な仕事だ。
そして、この仕事はあまり人々に認識されてない仕事。
掘削機を起動停止させて休憩に入る、穴の中でしばしの休息。
そしてゆっくりと目を閉じ、この仕事に就く前にした記憶体験の記憶を静かに思い出す。
古い時代の町並み、しかも海辺の町だ。記憶ではただ一人静かに砂浜と海辺の町を走る。
それだけの記憶だがその記憶があったからこそ‘この穴ぐら’での作業を続けられてる。
砂浜を走りながら見る‘本来の海’とそこから昇る太陽、そして太陽の光が‘本来の海’に反射して輝く光の道が出来る。
もう、この光景を何度思い出しているのだろうか?それだけこの穴ぐらで支えになる大切な記憶だ。
◇
アラームが鳴る前に起き、走るための服に着替える。
外に出て感じるのは本来の海の匂いをイメージ感覚として感じ、心は静かで。
そしてすごくゆっくりと走り始める。
今では考えられないくらい低い堤防の横を走り、そして砂浜へ。
記憶体験の記憶で初めて‘砂浜’と‘本来の海’の姿を知ったときは、その美しさに涙ぐむ程だった。
砂浜を走っているうちに太陽が昇りだし、走る速さを落とす。
そして太陽が昇り海に一筋の光の道を作り出す。
そこまで思い返したところでそっと目を開けた。
ごつごつとした惑星の内部、さっきまで思い返してた記憶の光景との落差に軽くため息をつく。
思い出す美しい光景と実際自分がいる場所の光景のもの凄く大きな違いにうんざりするが、こんな惑星の穴の中の光景だけを見続けて掘削するなら時々あの美しい光景を思い出した方が良い。
そして、思い返し現実の光景を見て毎回強く心に決めることが
「地球に帰ったらもう一度記憶体験を受けられるか診査してもらい、大丈夫だったらまた新たな記憶を体験しよう。」
ということだ。
◇
いつだったか新しく穴ぐら作りに加わった奴から聞いた話だ。
今は記憶体験を安価でそして過激な記憶シナリオを体験させる‘非認定施設’というのがあり、非認定施設で記憶体験させる者と記憶体験した者を‘ネズミ’と呼び、非認定施設向けの記憶シナリオを書く者を‘ネズミ屋’と呼ぶらしい。
そしてそれを取り締まる‘ネコ’と呼ばれる者がいて、ネズミはネコに狩られないようあらゆる‘センサー’を張り巡らし、ネコはそのセンサーを逆手にとってネズミ狩りをしてるとのことだった。
ネコに狩られたネズミには重い罰則が。
重い罰則とはどんな罰則なのかそいつに聞いたらそいつはにやけた顔で
「ここも罰則の1つですよ。」
と言った。
職人として誇りを持ってこの穴掘りをしている、あまり知られていない仕事だが重要な仕事だ。
そこに知らないうちに‘ネズミ’と呼ばれる奴らが罰則の1つとしてこの惑星に来て、穴掘りをしていることに腹が立つよりなんともいえない悲しさがあった。
だが別にいい、限界まで更新した契約もあと僅かで終わり地球に帰るのだから。
地球に帰ればもう働かなくてよいほどの額と新しい住居がある。
先日地球に帰った後に住む住居手配の話しをし、その時に自分にぴったりだと勧められた仮想空間用の部屋がある住居。
仮想空間では記憶体験の記憶にあるような古い時代の世界もあるようで、‘記憶の話し’を覚えていたらしく勧められたのだ。
即答でそういった住居を希望し、手配してもらうことになった。
掘削再開のガイダンスが流れ掘削機を再起動させ、記憶の中の光景を支えにもうしばらくこの惑星に穴を掘る。
いつも読んでくださってる方も今回初めて読んでくださった方も、誰かのある日を読んでくださりありがとうございます。
昨年十一月に書き始めてから二日続けての更新は初めてです。このままあまり次話まで期間を空けないようになるべくしたいですね。
それではまた次話で。良き日々を。