一人目の誰か
一人目の誰かのある日の話。
やぁ、ごきげんよう。
突然失礼したね、僕の名は「ハンプティダンプティ」って事にしておこうか。
というのも、僕の存在はこれから始まる様々な誰かのある日には直接関係してないんだ。
僕はただ誰かのある日の話をするうえでのちょっとした案内人みたいなもの、僕の事は気にしないでくれるとありがたい。
先に少し触れたけど、これから始まる話は様々な誰かのある日の話。
誰にでもありそうな何気ない出来事や時間の話、もしかしたら誰かの出来事や時間を君も経験したり感じたことがあるかもね。
それくらいありふれたある日の話。
やや。少しばかり長くなってしまったかな?僕の話はこれくらいにしておいて。それじゃ、今から誰かのある日の話をしようか。
◇
開け放たれた窓辺ではレースのカーテンがすすっそよそよと踊るように揺れ、心地よい風がダラッと床で横になっている私にそのまま眠るよう催促しているような穏やかな昼下がり。
ウトウトしながらぼうっと眺める空にはゆっくり、ゆっくりと流れる少し大きな雲、時折遠くの方から聞こえる子供たちのはしゃぎ声がより眠気を誘った。
平穏というのは多分こういう事なのだろう、そして私はこういう何もないゆったりとのんびりとした時間がとても好きだ。
ダラッと横になってる床にちょっとしたホコリがあるが、今ならそのホコリにすら愛着が持てる気がする。気がするだけできちんと掃除はするが、今はこの穏やかな時間を堪能することが私にとって最優先なのだ。
ゆっくり、ゆっくりと流れていた少し大きな雲はいつの間にか見えなくなっており澄んだ青空が広がっていた。横になってからどれくらい過ぎたのだろうか?
そういえば子供たちのはしゃぎ声もなく、静かでより穏やかな時間となっていた。
ウト、ウトウト、ウトと半分眠りそうになりながら心地よい風をさわ、さわわと感じ、このまま寝てしまいたい誘惑に完全に負けそうになっている。
これから何か用事があるわけでもなく、とくにこれといってやらなければいけない事もない、このまま全てが穏やかな状態で眠ってしまおうか。
ウト、ウトウト。ウトウト、ウトト。
心地よい微睡みの中あることが心と思考を埋めていった。
私は一般的に「夢」に分類される生業を「目標」として進んできた。
その生業を「夢」として進んでた仲間は時が進むにつれ諦めていった。
その生業を目標と定めた私は、気が付くとその目標に向かってのいくつもの小さな目標が出来ていき、少しずつ確実に達成しながら近づいていった。
そうしていくうちに私の目標とする生業に批判的だった人達がいつしか肯定的になり、口にせずとも応援し見守ってくれるようになっていった。
もちろん否定や批判的な声もあったが、「いつか必ず、、」とやり過ごした。
細かな目標を達成しつつ目標とする生業にさらに近づいたときに見守って応援してくれる人達は増え、そして定期的に声をかけて応援と支援をしてくれる人も現れた。
そしてそれと同時に否定や批判の言葉は呪いが含まれているかのように容赦ないものへと形を変えていったのだった。
その容赦ない言葉に心はどんどん疲弊していった。苦しいときこそ不敵に笑うような私でも耐えきれなくなっていた。
今だから気づけるが、そういう言葉を投げかけてくる人より断然見守って応援してくれる人達の方が多いのだがその時は吹き付ける風の強さと冷たさの中、太陽の光に気がつけなかった。
いや正確には私は目をつぶってしまったのだ、吹き付ける冷たい風に耐えられず目をつぶってしまい私は。
さわ、さわわ、さわと少し肌寒くなった風が頬を撫で微睡みからゆっくりと目を開けたとき、ふと目頭を「なにか」がつたった。
何かで読んだのか誰かから聞いたのかは忘れたが、私はある言葉を思い出していた。
挑戦しなければ負けることはない、ただし挑戦し負けた者には再挑戦する権利がある。そんなような言葉だ。
私は再挑戦するのだ、この次は呪いを含んだ言葉も祝福の言葉とし笑みを浮かべて受け入れよう。
肌寒い風になった夕刻、穏やかな時間から現実へ戻り窓を閉めたときにガラスに映った私は不敵な笑みを浮かべているように見えた。
読んでくださりありがとうございます。