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8話 コロナ禍での夏休み

「フォース・リロード!」

 ぼくの意識と身体が再びリンクする。

 自分の両手を見つめ、手のひらを閉じたり開いたりしてみる。

 ぼくの意思どおりに体が動くことを確認した。


 あらためて息子を見る。

 顔を横向きにテーブルの上にうつ伏せて、ぐったりしている。

 あと小刻みに震えていて、まるで陸に上がった魚のようであった。


 ぼくは両手を握り、腕を曲げ、手の甲を腰の脇にあてながら前屈みになる。

 続いて彼に声を浴びせた。

「ユウ、テメー……外でやったら一発退場だぞ、コラ!」

「うぅ、パパ。ごめんなさい……」 


 消耗して果てている息子を見て、少しあわれんでしまった。

 そして今回はぼくの態度もよくなかったと反省する。

 彼の痴漢行為によって、ぼくが悦に入ってしまったからだ。

 その時のぼくの表情や態度を見て、彼は更なる興奮に至り、痴漢行為を助長させたのだ。


 これが、外での出来事じゃなくてよかった。

 万が一同じようなシチュエーションになった時、毅然かつ冷静な態度で対処できるだろうか……。

 今回はレイカさんのおかげで助かったけど、そうそう頼るわけにもいかない……なんとか対処できるように努力するしかないだろう。


『そういえば、私の外観に合わせての敬語キャラ作り、やめたのか?』

「そうですね。実は某五つ子美人姉妹の五女を目指したんですけど……なんか誤解を生んじゃうみたいでリスクあるなと」

『そうだな。君はキミだ。キャラ作りは不要だよ』

「……ですね」


 その日はもう、大きな騒ぎは起きなかった。


 家族それぞれ、自分のやるべきことをやって過ごした。

 ママは家事、カメ子の世話とパート、娘は大学の課題やバイト、息子は高校受験の勉強である。

 ぼくは資格の勉強、読書、ブログや小説の執筆などだ。もうひとつの趣味である筋トレは一旦保留にしている。レイカさんと相談の上、おいおい再開する予定だ。


 とにかく、家族からはパパと認識してもらえたようだ。

 いかにも仕事できる風な女性のようであっても。

 彼女たちは、パパの役割は一家の大黒柱として今までどおり生活費+αを稼ぐことと考えている。

 よって、外見はともかく、いいから銭を稼いでこいや、というのが彼女たちの率直なウィルなはずだ。

 例えレイカさんのような容姿端麗な女性であったとしても、四六時中家でごろごろされたら、たまったものではないだろう。


『心外だな。私は四六時中家でごろごろしたりはしない』

「知ってます……例えですよ、例え」


 ぼくはその日のうちに自宅のパソコンから会社のVDI端末に接続し、上司及び上位上司宛てにメールを書いて送付した。

 内容は……企業秘密だ。


 ……。


 フィジカル・インポートしてから一週間が過ぎた。

 いよいよ夏休みも終わりである。

 

 この一週間で、特別なことはしていない。

 日本いや世界中がコロナ禍ということもあり、わざわざ外出はしなかった。

 GoToキャンペーンに乗っかって外泊した挙げ句、コロナに罹患したら洒落にならないし……。


 外出は生活に必要な服や靴を買ったりした時だけだ。

 あとは自宅で過ごす……である。 

 化粧の仕方やほぼ月一のあの日の対処法を、ママと娘から学んだ。

 これらの体験を通じ、あらためて女性の大変さ、厳しさが分かった気が少し……した。


 彼女たちの態度は、最初ギクシャクしていたが、みごと元に戻った。

 なじむというやつだ。

 残念ながら、美人は三日で飽きるということわざが証明されてしまったようだ。


 息子は当初、ぼくに対し特別な思いがあったらしく、何か感じるとトイレに駆け込み、オスとしての用を足していた。

 ところが最近、ぼくが全裸でも気にもとめない。

 正直言って少し寂しい……まるで、とうに興味を失ってしまった元恋人のごとしだ。


 我が家に女性がひとり増えたことで、化粧品の予算が足りないとママから改善要求が上がった。

 議論した結果、化粧品の予算を2倍とすることが決まった。

 最もこれからはぼくの髭剃り費用が一切かからなくなるので、支出が増えるばかりじゃないと納得したりする。


 さて、明日からいよいよ会社に行く。

 ぼくは朝型にシフトしているので、8時には出社しなくてはならない。

 連続休暇明けの初日から遅刻するわけにもいかないので、余裕を持って床についたのであった。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

岡本幸菜オカモトユキナ:女性、58歳、アツヤの妻、主婦

岡本遙オカモトハルカ:女性、19歳、アツヤ/ユキナの娘、大学1年生

岡本結太オカモトユウタ:男性、15歳、アツヤ/ユキナの息子、中学3年生

・カメカメコ:女性、?歳、ユキナの最愛の娘?、正式名称:ミシシッピニオイガメ


・2020.9.17.Thu 後書きを修正しました。

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