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6話 パパは死んだ。

 パパは死んだ。 

 

 正確にはパパの肉体が滅んで、綺麗な女性に生まれかわった……らしい。

 あらためてその女性を見る。彼女はまるで別世界からきたモデルのようで、この狭い家の中にいるのがとても不自然だった。


 ママは何が起きたのかさっぱりわからず、とにかく事態を収拾すべく警察に連絡した……私が阻止したけど。

 それにしても手に包丁って……ヤバすぎ。


「ママ、危ないから包丁もどして」

「……はい」


「あとパパ、その無双ボディしまってくれない?」

「あっ……うん」


 おもむろに服を着始めた彼女のわきをとおって寝室に行く。

 奥側の二段ベッド上で壁に向かってうつぶせ寝している弟を、両手で揺さぶる。

「ちょっとした事案が発生した……起きろや」

「なんだよ、アネ……」


 彼は寝足りなさそうにあくびをし、簡易にベッドメイキングをすると、一日の終わりに幸せになれる場所から降りた。

 続いて一日の始めに幸せになれる、家の中で一番狭い場所に入る。

 まるで華厳の滝のごとく、若さありあまる勢いにまかせ、液体を放流し続ける音が聞こえた。

 ひととおり用を足すと、彼はリビング入り口に行く。


「ユウ……おはよう」

「おはよ、パ……んあっ!?」


 同じくらいの背丈の女性にあいさつされ、呆然と立ち尽くす弟……瞳孔と口腔が開きっぱなしだ。

 両方の手のひらをほおにあてていないものの、まるでゴッホの有名な絵のようだった。

 一方の彼女も、なぜか冷静な表情というわけにはいかなかった模様。

 弟に見つめられて恥ずかしかったらしく、視線を下向きにしたと同時に、ほおが少し桜色に染まったのを私は見逃さなかった……オイオイ、あんたの息子なんだけど……とツッコミたくなるのを抑える。


 これでステークホルダはすべてそろった。

 それにしても日曜の午前にこの騒ぎ……さて、どうしたものか。


 私は普段どおり落ち着いていた。

 ママがパニクってるんで余計に落ち着くことができた。

 そもそもパパが綺麗な女性になったことは、私にとってメリットこそあれ、デメリットはないと確信している。

 なぜなら、そこに存在するだけでウザいパパが消滅したから……ってゆーか、正直うれしい!……ママはお気の毒だけど。

 

「とりあえず顔洗ったり、やることやってテーブルに着こう」

 固まっていたり、目を伏せて赤くなったりしている親子に行動を促す。


 パパだと主張する美貌の持ち主は、パパの歯ブラシ一式をゴミ箱に捨てた。

 そして新しいもの一式を洗面台上の棚から取り出し、歯を磨き始めた。

 その際パパ専用コップ、及びパパ専用タオルも一切の迷いなしに使っていた。


 顔を洗う際は、わざわざ上半身裸になっていた。

 また長い髪の毛をどう扱っていいかわからず、タオルで縛って濡れないようにもしていた。

 さらに上半身前部の突起が想定外サイズのようで翻弄されまくっていた……どう見ても、ブラがないとダメそうである。


 彼女の観察をひととおり終え、ダイニングに移動。

 ダイニングテーブルの吊されているテーブル面を跳ね上げ、大人4人仕様にする。


 みんな朝の身体整容を終え、席に着く。 

 南側の窓際に彼女が、その隣にママが座る。

 彼女はわざわざ床から座布団を拾い、椅子の上に乗せてから腰掛ける。

 彼女の正面に弟、その隣に私と、それぞれ定位置に座った。


 さっきからずーっと彼女を見ていたが、いつものパパの行動そのものだったことに、あらためて驚かされた。

 何か、彼女が彼だと言う決定的な証拠がほしい……どうすればいい??


 ……ひらめいた!

「そういえばパパ、誕生日おめでとう!」

「ありがと……って、えっ!?違うだろ……ハル、誕生日おめでとう!ククク、これでまた一歩死に近づいたな……」


「えっ!?そんな……」

「マジか?信じられねぇ……」

 母と弟がびっくりしておもわず声を漏らす……。


 全裸グセに、うちの中におけるきわめて自然な行動……。

 本来おめでたいはずの誕生日を全否定するかのごとき誤った言動にいたってはもう……。

「「「パパ?」」」

「……はい」

<登場人物>

岡本遙オカモトハルカ:女性、19歳、アツヤ/ユキナの娘、大学1年生

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

岡本幸菜オカモトユキナ:女性、58歳、アツヤの妻、主婦

岡本結太オカモトユウタ:男性、15歳、アツヤ/ユキナの息子、中学3年生

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