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54話 君は愛、夢、希望、目標があるか?

 ユウタの話はこれくらいにしよう。

 ブッダの息子でさえ、ブッダの言うことを聞かなかったのだ。

 ましてや今はレイカさんとなったぼくの言うことなんか、彼は聞く耳持たないだろう。


『ちょっと待て……私の言うことであれば聞くかもしれないぞ』

「おぉ、確かに……」


 そうかもししれない……そう、フォース・チェンジである。

 1分間とはいえ、彼女そのものとユウタが会話すれば……ユウタは何か変わるかもしれない。

 よし、善は急げである……さっそく……。


『また、いきなり胸触られたら……その時は(ひね)ってしまうぞ』

「さすがにそれはもうないんじゃないですか……??」


 ……。

 彼女にとってユウタは他人だ。

 息子のように接しようと思っても難しいだろう。

 ここではやっぱり彼女を頼ってはいけない。

 ぼくがなんとかすべきだろう。


 さて、ユウタについては心配しても仕方ないし、コントロールできないのであるからして、放置……ではなく、見守ることにしたのだった。

 というワケで、ぼくである。

 ぼくは愛、夢、希望、目標を持つことができる……なぜなら一応定期的に安定した収入があり、かつ健康だからだ。


 まずは、愛……か。

 愛なぞという言葉を忘れて、もはや四半世紀……。

 妻である幸菜(ユキナ)は居るには居るが……いまさら愛とか……正直ありえない……。


『そんなもんなのか、夫婦愛とは……』

「ですね……夫婦愛は大概、子供の誕生によって子供愛に完全にシフトしますんで」


 続いて、夢。

 残念ながらと言うか、うれしいと言うか……もう夢は叶っている。

 レイカさんになったからだ……夢、終了ーである。


『夢、終了ーって……アツヤ君、我々の夢はこれからではないのか?』

「へっ!?……そうなんですか?」


 どうやらレイカさんには夢があるらしい……彼女の夢はぼくの夢でもある。

 なんとか実現してあげたい……にしても、その夢って何なんだろ???


 そして、希望だ。

 希望っていうか、その逆の絶望がまずない。

 なぜなら身体がレイカさんに入れ替わって、持病がすべて解消されているから。

 これで定期的な通院も解消された……というわけで、もう希望しかない……変な言い方になってしまったが……。


『そうか、アツヤ君は持病持ちであったか……それは難儀であったな』

「いやいや、これはホントにレイカさんに感謝ですよ……ありがとうございます」


 最後に目標だ。

 ぼくの目標は現状維持である。

 これ以上の望みはない。

 欲張ってもいいことないからだ。

 達観しているとも言える。

 そこそこ平和で充実した生活が送れれば満足なのだ。


『本当に満足しているのか?』

「さすがに(よわい)50歳ともなると、欲無くなるんですよね……」


 あえて言うならIT企業に勤めている手前、高度情報処理技術者試験の突破といったところか。

 まっ、半年に1回試験があるんで惰性で受けているだけだが……一応、休みの日には勉強もしているけれど。


『その年になって、資格を取得するため勉強しているとは……少し感心した』

「いや、単なる欲望です……高度情報処理技術者試験のコンプリ-トという名の……」


 とにかくだ……主体性が大事……そう、主体性。

 これがないと、何のために生きているのか、さっぱりわからない……人生、受け身じゃダメですよ、受け身じゃ……。


 日々、たばこ吸って、酒飲んでいれば幸せって人、本当に幸せなんですか?

 それって、単なる現実逃避なんじゃないんですか?


 ぼくは思う。

 何かしらアウトプットしないと、人生充実しない……はずだ。

 インプットばかりだと、頭でっかちになってしまう……はずである。

 だから、アウトプットするのだ……今日も、明日も。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある


・2020.11.30.Mon 誤字等修正しました。

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