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5話 孤軍奮闘

 我が家のリビング&ダイニングルームは玄関から入り、廊下をまっすぐ行くとある。

 入って右に対面型のキッチンがあり、私の主戦場、かつ絶対不可侵領域だ。

 キッチンのカウンターテーブルの角、ちょうど部屋の中央あたりに水槽がある。高さ30cm、幅40cm、奥行き20cmの大きさで、その中には水棲の雌ガメが住んでいる。彼女は私の最愛の娘でもある。成体になっても15cmほどの手のひらサイズで、手頃なペットとしてとても気に入っている。

 キッチンの逆サイドがリビングとなっている。普通のリビングにはソファがあるが我が家にはない。代わりに横長の大型テーブルがあり、娘と息子が主に使う勉強机となっている。

 更に奥の壁際には1mほどの高さのタンスがあり、その上に46インチ液晶テレビが据え付けられている。キッチンで料理している時は、その巨大なテレビとは距離が3mほど離れる。それもあって、画面がちょうどよいサイズとなり、快適に視聴できる。

 キッチンの正面にはダイニングテーブルがある。こっちは普段2人がけ仕様にしている。ここは私がもっぱらくつろぐことができる場所だ。そして家族で食事する時はサイドに吊してあるテーブル面を90度跳ね上げる。テーブル面積はほぼ倍になり、大人4人が余裕で食事を楽しむことができる。

 

 今日は日曜日。

 もう10時になる。

 にもかかわらず、家族で起きているのは私だけ……。

 どうなっているのよ、この家は?と心の中でささやき、誰かを小一時間問い詰めたい気分だった。


 寝室から足音が聞こえる……誰かが起きてきたようだ。


 「ママ、おはよう。驚かないで聞いてほしい」

 「パパ、おはよう……って誰?ぎゃーーーーー……」

 

 リビングの入口に見知らぬ女が立っていた。

 一瞬、古井戸から爪を立てて這い上がってきた幽霊に見えて、おもいっきりパニクる……。

 たまたまキッチンで昼食の下ごしらえをしていた私は、包丁を手に取り、彼女に向け威嚇した。

 手に持った包丁に視線を合わせる。なぜかいくつにも見え、あごからガチガチという音も聞こえきた。


 彼女は胸のあたりに両手持ち上げ、手のひらをこちらに向けて、私に語りかけた。

「待て……女同士、話せばわかる」

「わかるわけないでしょ。あなた、誰なの?」

「信じてもらえないかもしれないけど……パパです」

「あのね……うちのパパは一応男なんですよ」


 彼女と立ったまま視線を交わし、数十秒が経過した。

 

 ……彼女は動き出した。

 両手をクロスして腰の脇あたりの服をつかみ、着ていたトレーナーを一気に脱ぎ捨てた。さらに、そのいきおいのまま今度は下のパジャマとパンツも脱ぎ捨て、生まれたままの姿となった。

 唖然としている私をチラッとみてから、両手をゆっくり肩まで上げる。

 それから、その姿勢のままくるり180度回転して背を向け、そしてまたぐるりと正面を向いた。


「ぼくはこのとおり何もできない。お願いだから包丁を置いてくれないか?頼むから……」


 丸腰であり、危害を加える意思もない、と言いたいのだろう。

 少し余裕ができたので、あらためて彼女をガン見してみる。

 腰まで伸びる黒く艶やかなロングヘア。

 卵型でスッキリした美人顔。

 雪のように白い肌。

 そして170cmオーバーの身長と、メリハリの効いた一切妥協のないフィギュア・ボディが、私をいらつかせるのに数秒とかからなかった。

 ……なぜかわからないが、いじわるな言葉を発してしまった。


「ははーん、あれね……刑事ドラマでよくある、犯人を説得する例のあれだ!残念でしたね、引っかかりませんよー。包丁を奪おうたって、そうはいかないんだから」

 

 彼女は目を伏せ、ふぅーと息を吐くと、あいかわらず手を上げたまま立ち続けていた。


 もう、こうなったら警察よ……警察に連絡するしかない。

 私はチラっとダイニングテーブルを横目で見た。

 私のスマホがそこにあるのを確認する。


「そのまま動いちゃダメよ。動いたらブスッだからね、ブスッ!」

「動かないって……」


 彼女を視界から外さないように、包丁を彼女に向けながらカニのように横歩きする。ゆっくりとキッチンの周りを越え、カメの水槽の脇をすり抜けた。その時カメも私を追って懸命に泳ぐ。包丁を左手に持ち替え、テーブルに近づき、右手でスマホを持ち上げる。


 一瞬、彼女から目を離し、スマホのロックを解除して110番通報した。

 そして彼女に目を戻し、警察と繋がるのを待つ……。


「バカ、よせ……やめるんだ!」


 彼女の制止する声が聞こえた……が、躊躇しなかった。


「はい、こちら警察です」

「もしもし、うちに夫の名を語る全裸女がいます。すぐ逮捕してください」

「しょ……承知しました。まず、あなたのお名前を教えてください」

「オカモトユキナです」

「続いて、住所を……」


突然、私の手からスマホが消えた。

続いて、彼女とは違った聞き覚えのある声が、私のスマホに話しかけ始める。


「すみません……母が、弟の家庭教師の女性を強盗とかんちがいしたようです。ですから、なんでもありません。お騒がせしました」


 娘は私に視線を移し、話しかける。

「ママ、まずは落ち着こう」

<登場人物>

岡本幸菜オカモトユキナ:女性、58歳、アツヤの妻、主婦

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン,

人格は変わらないが、外観はレイカになっている

・カメカメコ:女性、?歳、ユキナの最愛の娘?、正式名称:ミシシッピニオイガメ

岡本遙オカモトハルカ:女性、19歳、アツヤ/ユキナの娘、大学1年生

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