48話 そこは誰もが憧れる密な場所
スーツかつ妙齢な大人の女性二人で、なにげに過ごしていた珈琲店のボックス席。
突如、有無を言わさず乱入される……しかも若者どもに……。
二人で占有していたボックス席が瞬時に五人になる……座席占有率125%……はっきり言って定員オーバーだ。
ぼくの隣に鈴原姉妹が、正面に横山由佳と橘拓海が陣取っている。
当ボックス席は一気に密になった……コロナ禍の昨今、大丈夫か……??
タクミはカフェオレを、リンはミルクコーヒー&ショートケーキを、レンはミルクコーヒーをオーダした。
彼らの出で立ちを見る。
みんなそこそこ冬の格好だ。ジャンパーなりコートなりを着ている。ズボンやロングスカート、長めのソックスといったところである。
「アツヤさん、この方はアツヤさんの会社の同僚の方ですか?なぜ、告白しているんですか?」
両手をテーブルに出し、リムレスメガネのブリッジを中指で上げる仕草をして、橘拓海は声を発した。そして、カフェオレを一口啜る。
ダ、ダイレクト過ぎだよ、タクミ君……オブラートに包む、というスキルを獲得する必要ありだ。
それより、ぼくに息子がいることで、かなりショックを受けていたようだったけど……。
あの時、君はがっくりと肩を落とし、まるで寒い冬の雨に打たれて凍えている犬のようだった。来た道を戻っていく、その後ろ姿は哀愁を漂わせていた……今は何事もなかったように会話している……が、吹っ切れたのか……??
「アツ姉と同じ会社の人なのに、コクっちゃうんだ?」
「アツヤは誰にも渡さないの……」
双子の姉である鈴原倫はショートケーキの一部をフォークに刺して振りながら、その妹の鈴原憐は両手でミルクコーヒーを啜りながら話した。
リン&レン……お主ら、一緒に外出できるではないか。
てっきり仲が悪いと思っていたが、勘違いのようである。
それにしても彼女たちはいつも……ぼくを殺る/殺らない、なんだよね……なんか、もー、ぼくは人間でなく物なのかと……。
好かれることは悪いことではないけれど……もう、誰の物とかやめません……??
「あ、あの……アツヤさん?……こ、この人たちは誰ですか?」
横山由佳は両手を包むようにして握り、胸に寄せていた。そして肩を振るわせながら小さく声を発した。あいかわらずの涙目のままで……その眼はぼくに助けを求めているようだった。
そうだよね、ユカ……あなたの反応はまっとうです。
すまんが、今は……耐えるしかない。
まるで犯罪者扱いされているあなたの立場……なんとかしてあげたいけど……とにかく、今は動けんのだ。
その、つまりだ……ぼくと付き合うと、こういうことが起こるのだよ……懲りたでしょ、もう?
心細いよね……痛いほど、分かかります、その気持ち……。
ぼくだって、逃げ出したい……今すぐ、ここから。
このボックス席、端から見ると女子会にタクミが乱入している、いわばハーレム化している、と言える。
彼はこの天国状態をこれぽっちも感じてなさげだ……鈴原姉妹や横山由佳は眼中にないのか?……かわいいのに……。
もうここまで来ると会社のランチ・ミーティングのようでもある……こうなったら、旅は道連れ世はなんちゃらだ……お互い親睦を深めればよかろう。
ぼくだって、全員を全員、相手にすることができないし……。
誰か、リーダーシップを取ってくれないかな……??
そもそも、なんで彼らは乱入……というよりここに居るのだ……??
さらに一緒して良いなんて、ばくは一言も言っていないぞ!
この、いきなり始まったお茶会というか女子会+αというか……この会だが、こうなってしまうと特に目的もないため、グダグダに成り下がるのが目に見えていた……。
ユカとはすでに連絡先を交換した……ぼくの目的は達成している……であるなば、ここは、お暇すべきであろう。
ぼくはスクっとその場に立ち、声をかけた。
「あの……ぼく、帰るから……お先に……」
「「「「ダメ……」」」」
みんなからの返事が轟いた刹那、両腕、両肩を鈴原姉妹に引っ張られ、もとどおりに座らされてしまった……。
やっぱり、ダメか……まったく落としどころが分からない……どうしよう……??
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・橘拓海:男性、21歳、独身、大学3年生、イケメン
・鈴原倫:女性、19歳、独身、大学1年生、レンの双子の姉
・鈴原憐:女性、19歳、独身、リンの双子の妹
・横山由佳:女性、28歳、独身?、アツヤとは違うIT企業に勤めるサラリーマン、過去に男アツヤと一緒に仕事をした仲である




