47話 彼女はぼくを抱きたい……らしい。
「いえ、私とお付き合いいただきたい……のです」
いきなり……しかも路上で、かつ同性(?)に告白されたのは初めてだ。
同じくいきなりだが上半身を触られたり、お風呂に乱入されたりしたこともあるが、これは同じくらいのインパクトである。
横山由佳……。
彼女は、顔は童顔だが後ろやサイドから見れば、いわば宝塚……男装の麗人のようである。
ゆえに女性であるぼくと突き合い……いや、付き合いたいって気持ちは分からなくもない……。
駅近くの路上で175cmクラスのスーツパンツ女が、ほぼ同サイズ、同見てくれ女の腕を掴み、突っ立っているという異様な光景……これは、いくらなんでも目立ち過ぎる……通りかかった人が何事かと振り向いているし……。
どうしよう……とりあえず、やんわり断るか……。
それにしても付き合うって、一体何するんだ……。
デート……いや、待て……まさかの肉体関係……。
『それしかなかろう……彼女は君を抱きたいのだよ』
「レ、レイカさん……他人事じゃないでしょー、もー……」
落ち着け、落ち着くんだ、アツヤ……。
ここは余裕のある大人……つまり仕事できる風な女性ロールプレイで対処すべきだ……問題を課題に落とし込み、一つ一つ解決していく……これだ。
そうすれば恐い物など何もない……はず……。
駅の改札に通じる歩道は人が多かった。ちょうど会社からの帰宅時間と重なったからだろう。これから帰宅する人、レストランや飲み屋に行く人と、そのありようは様々だった。
まず、路上でデカい女が二人、腕を取り、取られ、見つめ合っている……この状況を打破するのが先決だ。
とにかく屋内に退避すべきだ……そして座り、落ち着くこと。
とりあえずいつもの珈琲店にするか……かつてこの店は橘拓海、鈴原倫と出会った時に使ったおなじみの店である。
彼女を珈琲店に誘ったところ、OKが出る……言葉を発せず、コクっと頷くだけだった。
その後、珈琲店へ移動するまで、彼女の行動が妙……であった。
左手を握って口許に寄せ、右手でぼくの肘あたりを、親指でちょこんと摘まんでいる。
顔は俯き気味で、肩を落とし、背中も丸めた状態でぼくに付いてくる。
さっきのぼくの腕をグイっと引き寄せた態度はどこへとやら……もー、ワケわからんですよ……。
店に入り、ボックス席に向かい合って座る……いつもどおりカフェオレを注文する……彼女はミルクティーにしたようだ。
ぼくが開口一番、話しかける。
「あの、横山さん……ぼく、結婚してるんですよ」
「岡本さん……いや、アツヤさんさえ、よろしければ……私はかまわない……です」
彼女の顔をマジマジと見る……その表情は虚ろで、なぜか涙目だった……。
「あの……ぼく、身も心も女ですけど……」
「私はまったくかまいません……それから私のこと、ユカと呼んでほしい……です」
どうしたんだ、ユカとやら……仕事の時や、さっきの駅前とでは、まるで態度が違うじゃないか……。
なぜか自信なさげだし、さらに半泣き状態だし……。
それにしても、私はかまわない……って本気ですか、ユカさん……ここは冷静に、無難な落としどころな提案をする。
「ユカさん……付き合うことは難しいと思う……でも友達なら問題ないですよ」
「はい……アツヤさんの言うとおりにします」
やけにあっさり引き下がった彼女であった……いやはや拍子抜けである。
ここでまた定番の連絡先交換となる……お互いのスマホでいつもの登録作業を行った。
スマホを見ていた彼女は眼を見開き、意を決したように声を発する……あいかわらず涙目ではあったが、その双眸から強さを感じた……。
「正直に言います……会社でアツヤさんに逢った時、私、思ったんです……この女性を手に入れたい、と……そんなことは無理ですよね……だけど、止められなかった」
「はい……?」
「ですから、私と付き合ってください……お願いします」
えぇーっ!?……まずは友達ってことになったじゃん……。
刹那……どこからか、声がした……。
「ちょっと、待ったぁー!」
「ちょっと、待ってください」
「ちょっと、待つの……」
こ……この聞き覚えのある声は……しかも複数……マ……マジですか……。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・横山由佳:女性、28歳、独身?、アツヤとは違うIT企業に勤めるサラリーマン、過去に男アツヤと一緒に仕事をした仲である




