46話 アツヤの過去を知る者
マークされた外部の者とは、顧客であるK法人のベンダ社員である。
そのベンダ社員とはK法人との会議の席上でたまたま再会した。
彼女はK法人から業務委託を受けていたITエンジニアという立場であり、サーバ、ネットワーク及びデータベースなどの業務システムの運用・保守を行っていた。
会議の冒頭でお互い名刺を交換し挨拶を交わした……そこで、ぼくのことが分かったらしい。
会議終了後、彼女に声をかけられ立ち話をした。
「岡本さん、私を覚えていますか?L法人の業務システムの構築プロジェクトです。一緒でしたよね?」
「そうですね……横山さんは目立ってたから覚えていますよ」
「そんな……岡本さんも当時は年の割りに若く、そこそこイケメンだったんで……まさか女性になっているなんて……」
「はは……いろいろありまして……」
何気ない会話のようだが、改めて考えるとスゴい内容である……。
全然別人になっていることが、まったく問題視されていないとこ……がである。
遠い昔、おっさん手前であった頃、一緒に仕事したみたいだ……確かにこんな感じの大きな女の子がいた気がする……。
さすがに四半世紀もの長き年月の間、一度も転職することなく、同じIT企業に所属し続け、様々なプロジェクトに参画してきた……ゆえにこうゆうこともしばしば起こるのであった。
多くの顧客、関連会社、外注会社そして自社と、様々な人と仕事を通じて知り合ってきたのであるから。
彼女は横山由佳という。
確か当時は独身であった……あれから数年経っているのでアラサーってことで妙齢……である。
ぼくと同じIT企業のサラリーマンだが、別会社……いわばライバルだ。
身長175cm、女性としては長身である。
ボリュームそこそこのモデルような体型……髪の毛は肩ぐらいで前髪は流している。
彼女もぼくと同様スーツパンツで、誰がどう見てもできる風な女性だ……美人というよりかわいい童顔であるため、背が高くても近寄りがたいという雰囲気はない。
それにしても外観はまったくの別人なのに、なぜぼくだと分かったのだろう……??
名前だけで……??
ぼくのフルネーム、よく覚えていたな……。
『雰囲気だよ……アツヤ君……キミ特有のな』
「どんな雰囲気なんです?……それでよくわかったなー」
『ンー、なんと言うか……アツヤ君となら一緒に居ても安心できる、と言うか……』
「それって男として役立たず! みたいな……ひどいなー(笑)」
……。
こんなほのぼのな感じで、本日の会社の業務は無事終わった。
定時過ぎたのでさっそく帰ることにする。
いつもの複雑怪奇なドア群をくぐり抜け、オフィスを後にした。
エレベータで1Fに降り、ビルのエントランスを越えてそのまま駅に向かう。
……。
なんとなく人が着いてくる感じがした……振り向いて、確認する……10mほど後方にスーツパンツ姿の女性が立ってスマホを操作している。
よーく目をこらす……なんと横山女史である……たまたま帰り道が一緒だったのか……??
……。
まさか彼女に限ってストーカーとかあり得ない……ので、そのまま帰ることにする。
東京メトロ駒込駅から乗り継ぎ、自宅の最寄り駅である葛西までノンストップで移動した。
駅に着き、とりあえずレンタル・ショップでも寄ろうとしたところ……なんと横山女史に捕まってしまった……正確には左腕を掴まれたのである。
えっ!?……同じ町に在住ぅー……??
彼女はそのままの体勢で、少し上からぼくを見つめ声を発した。
「岡本さん……つきあってください」
「へっ!?……どこへ?」
「いえ、私とお付き合いいただきたい……のです」
「はい……?」
久々にビジネスの席上で会ったかと思ったら、その日のうちにいきなり告白されてしまった……そもそもぼく、既婚なんですけど……って言うか、今は女性なんですけどー……??
頭の中が真っ白になり、なんて答えていいか分からず途方に暮れてしまった……ようだった。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・横山由佳:女性、28歳、独身?、アツヤとは違うIT企業に勤めるサラリーマン、過去に男アツヤと一緒に仕事をした仲である。




