45話 桐生麗華という名のアバター
鈴原姉妹のマンションを出て、西葛西駅に向かっている。現在時刻は6:40。南に位置する駅に向かって会社や学校に向かう人たちは割と少なくまばらだった。
昨夜は結局鈴原倫に押し切られ、双子の姉である彼女とともに、同じベッドで眠りにつく……この貴重な体験も早くも2回目であった。
ベッドの中では特に何事も起きず、二人で寄り添い朝まで爆睡した……お互いよっぽど疲れていたのであろうことは想像に難くない。
翌朝早く、彼女を起こさないようにそーっとベッドから出る……眠っている彼女の寝顔はにこやかでうれしそうだった……歯を磨き、服を着替えて彼女のマンションを後にした。
ふと双子の妹である鈴原憐のことが脳裏に浮かぶ……一緒にお風呂、一緒にコッペパン食べる、ソファでの感極まっての抱きしめ合いと……。
沈黙をこよなく愛するとても不思議な娘に思いを馳せ……レンさん、今度は一緒に寝るから許してね……と心の中でそっとつぶやいた。
そして、いつもどおり会社へ向かう……。
……。
通勤中、妄想モードに突入する。
今のぼくは岡本淳也ではない……正確に言うと魂というか意識のみ淳也だ。
つまり桐生麗華の身体にぼくである淳也の魂が宿っている状態だ……いわばMMORPGでいうところのアバターである。
そうなると彼女をロールプレイしなくてはならない、ような気がする……当然できる範囲であるが……見た目は女性なんだから自然に無理せず女性らしく……である。
彼女となったこの身体だが、当然、今までと同様労ってあげないとダメだろう。若いからって多少無茶していいだろう……は通じない。なぜなら、男ではなく女の子なんだから。
『妙齢ではあるが、女の子ではないだろう』
「いや、お言葉ですが……ぼくからしたら、あなたは十分女の子ですよ」
『ほう……私を女の子扱いするのか?』
「いや……ほら……男のようにバカみたく頑丈じゃないってゆうか、守ってあげたいとゆうか」
『ン……だが、君を守るのは私だ……決して誰にも傷つけさせやしない』
「そ、それはありがたいです……ど、どうもです……」
無意識とはいえ、さっきまで猫背で歩いていたのをここで矯正する。
顔を上げ、胸を張り、遠いところを見てスタスタと歩き出す。
マスクをしていたけれど、眼が笑っていないか心配しながら、ぼくは気を引き締め……歩いた。
……。
会社に着く。
今日もいつもどおり1日が始まる。
もう会社でドタバタはないだろう……美人は三日で飽きるというし……。
ところが会社ではなく外部の者にマークされる……そんなことは夢に思っていなかったアツヤであった……。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・鈴原倫:女性、19歳、独身、大学1年生、レンの双子の姉
・鈴原憐:女性、19歳、独身、リンの双子の妹




