44話 ぼくはさっさと寝て明日の出社に備えたかった。
ここは鈴原姉妹が暮らすマンション。
リビングにあるダイニングテーブルにぼくの正面に鈴原倫、その隣に鈴原憐と3人が座って食事をした。
姉妹ドタバタ活劇により冷めてしまったお弁当だったが、せっかく倫が買ってきてくれたので、感謝しつついただいた。
お腹がいっぱいになったので、麦茶を飲みながら寛ぐ……。
そこへ憐がスマートフォンを持って声をかけてきた
「連絡先交換するの……」
「……は、はい……」
連絡先を表すQRコードを表示したスマートフォンを憐に手渡す。
彼女は自分のスマートフォンでそれを読み込み、ぼくの連絡先を登録した。
以後同じようなことを繰り返し、ぼくのスマートフォンにも彼女の連絡先を登録する。
これでいつでも彼女とも連絡取れることになった。
これほど真逆な性格の双子姉妹と知り合えるなんて……レイカさんになる前のぼくだったらありえない……まさに夢のような出来事である。ここは本気で姉様に感謝した。
ぼくは同じ女性として彼女たちと仲良くし、いろいろ経験を積みたい……本気で。
『いたずらしちゃダメだぞ』
「……し……しませんって……」
『ン……レンに襲いかかったのは気のせいであると?』
「……そ……そうでした……」
ダイニングの椅子ではなくソファに体をあずけていた時、憐を抱きしめ……そのまま抱きしめ返される……その時の彼女の温もりが脳裏に蘇った。
お互いに身体をあずけ心の底から安心し、とても落ち着いた一時であった……ドキドキもしたけど、とても心地よくずーっとこのままでいたかった……。
……。
憐が話しかけてきた。
「アツヤの家に泊まりたいの……」
「うーん……うちはレンさん宅のように広くないし、家族もいるし……」
……。
「そうだ……長野に別荘というか空き家がある……そこに行くのはどうかな?……かなり遠いし、コロナ禍だから大分先になってしまうけど」
「……うん……」
長野の別荘とは、長野県上田市にある空き家だ。
祖父が温泉療養をしていた当時、地元の人から土地を譲ってもらったのだ。
その広大な土地に平屋が建っている……トイレはあるが、温泉地なので風呂がない……この上なく不便である。
しかもブランコや鉄棒といったちょっとした遊具もあったりする。
畑のなれの果てや庭のようなものもあるが、木や草がぼうぼうに生えていて、木を切ったり草を刈ったりするのがとても面倒なところであった。
この土地一式はぼくの母の名義だが、彼女は足腰が弱くなっているため、ほとんど行けていない。
ぼくも行こうとしていたが、このコロナ禍であるためずっと行っていない。
今や木や草でジャングルのようになっていることだろう……。
……。
明日の仕事も朝早い。
そろそろ寝かしてもらうことにする……洗面所に行って歯を磨いた。
ここで倫に声かける。
「リンさん……ぼくはどこで寝ていいのかな?」
「決まってるでしょ……ぼくのベッドだよ」
「私のベッドで寝るの……」
こ、この展開はヤバい……このままだとループに陥ること間違いない……。
「アツ姉はぼくのゲストなんだから、ぼくのベッドで寝るんだよ!」
「……アツヤ……誰と寝たいの?」
正直な話シングルベッドでいいので一人で寝たい……。
だが彼女たちからの問答は二択だ……すなわち姉か妹、どっちと寝るかである。
当然姉の方にお願いして泊めてもらっているので、姉である倫と寝る、と言わないとホストとしてのメンツが丸つぶれだろう。
ただ新鮮さからいうと妹だ……少し強引でミステリアスなところもあるが、惹かれないといえば嘘になる……。
『正直に一人で寝たい、とダメ元でお願いすべきだ』
「確かに……」
「あ、あの……一人で寝たいのですが……」
「無理……ぼくと寝るんだって」
「……は、はい……」
憐ももちろん黙ってはいない……普段は黙っているけど。
「私のベッドで寝るの……」
うーん……これは埒が明かないな……もう、ぼくはどっちでもいい……明日も仕事は朝から早い……ゆえにとにかくもう寝たい。
姉妹どちらかの妥協に一縷を望み、いつでも寝れるように準備をするのだった。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・鈴原倫:女性、19歳、独身、大学1年生、レンの双子の姉
・鈴原憐:女性、19歳、独身、リンの双子の妹




