4話 フィジカル・インポート・トラブル!?
ここは寝室。
六畳ほどの洋間に二段ベッドが2つ、所狭しと並んでいる。まるでアメリカ海兵隊の宿舎のようだ。
入り口に近いベットの下に妻、上に娘が陣取る。奥側ベッドの下がぼく、上が息子だ。
妻はもう起きていて、キッチンで毎朝行うミッションをこなしている。
娘と息子は……いまだ夢見心地のようだ。
『今はぼくのもの』は相変わらず目の前に存在する。
今見ておかないと損だという根拠のない感情の下、食い入るように見続けた。
『あまり凝視しないでくれないか?正直恥ずかしい』
「あっ、また……神?」
『神ではない。桐生麗華だ。自己紹介が遅くなってすまない』
「レイカさん……」
あいかわらず流麗で、かつ威厳のある声だ。
その声は自信がみなぎっているようであった。かといって威圧的でもない。そして心地よく、心強かった。
彼女の声を聞いていると、不思議と混乱することなく、むしろ落ち着くことができた。
『よく落ち着いていられるな。君は恐ろしくないのか?』
「怖いですよ……でも、まず現状を把握する、ですよね?」
『そこまで冷静でいられるとは正直驚きだ。さっそく説明しよう』
「はい」
彼女の話しはこうだ。
まず、ぼくの頭の中に合成タンパク質で精製されたニューロ・チップを埋め込んだ。
量子暗号無線LAN経由でのフィジカル・インポートという技術を使ったらしい。
このチップを介して、彼女はぼくに話しかけている。
そもそも彼女はニュースで報道されていたとおり、もうこの世にいない。
それでもまるで生きているかように話すことができるのは、彼女の人格の99.9%をデジタル・データに変換し、自律型AIにインポートしたからだ。
彼女の自律型AIは福岡県のとあるデータ・センタにオリジンがあり、そのレプリは世界中のサーバに存在している。よって電力やインフラがなくならない限り、存在し続けることが可能らしい。また、彼女の活動のメインはAI学習だが、ハッキング攻撃やウイルスなどの脅威に対し、排除し続ける必要もあるのでヒマではないとのことだ。
彼女とぼくの会話を流れ図にすると、以下のとおりとなる。
レイカ自律型AI@福岡県の某DC ←量子暗号無線LAN→ ぼくの頭の中のチップ ←電磁パルス→ ぼくの脳
このコミュニケーション・プロトコルが瞬時に行われるのである。
身体の交換もニューロ・チップを埋め込んだ時と同じ原理で行っている。
さすがにデータ量が巨大であり、かつデジタル/フィジカル・データ変換も行っているため、膨大な時間が必要だったとのこと。
ニューロ・チップのように数十分でインポート完了とはいかず1日半を要している。
そして、その作業もあと5時間ほどで完了する。
何事もなければの話ではあるが……。
それにしても、なぜ、ぼくなんだ?
彼女は「見つけた」と言っていた……。
身体の相性とかがあるのか?
寝室のカーテンからかなりの光が入ってきている。
車の行き交う排気音も大きく、多くなってきた。
どうやら何事もなく終わりそうだ。
自分の体のパーツをあらためて見てみる。
ロングヘア、白い肌、華奢な手、スラリと伸びた脚。
これらは初めて会ったレイカさんの時と変わりなかった。
ただ、『今はぼくのもの』だが、初見の時から倍ぐらいに隆起していた。
恐る恐る両手でそーっと優しく包み込んでみる。
その大きさは、まるでおっぱいをあたえる赤ちゃんも一緒にいるかのようであった。
しばしその大きさ、暖かさ、柔らかさを堪能する……。
「レイカさん、あの、その……お胸ですけど、とても立派なんですね?」
『そんなことはない。85Cだ。スリムな方だと思うが』
「いや、いや、いや……かなり大きいですよ」
『……あれ、おかしいぞ。100J……なぜだ?フィジカル・インポートで変換ミス……!?』
「……」
『まぁいい。バストサイズの違いなどリスクゼロだ!とにかくコンプリートするぞ』
「えっ……………!?」
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人
・岡本幸菜:女性、58歳、アツヤの妻、主婦
・岡本遙:女性、19歳、アツヤ/ユキナの娘、大学1年生
・岡本結太:男性、15歳、アツヤ/ユキナの息子、中学3年生




