39話 お風呂に誰かが入ってきた。
ここはリンさんが住んでいるマンション。
ぼくは今、彼女の家のお風呂に入っている。
ひととおり洗い場でのミッションが完了したので、湯に浸かり寛いでいた。
すると……誰かが入ってきた!?……のである。
女の子だ。
顔はリンさんに似ている……いや、彼女そのものだった。
身体のバランス、ボリューム感も彼女に似ている……いや、こっちも彼女そのものであった。
ただし髪型は違った……内巻きのショート。
うなじが少し露わになっている……まるで男の子のように。
ここでリンさんの姉妹と断定する……。
それにしても先客がいるのに無言でお風呂に入ってくるとは……一体どういうつもりなんだろ??
彼女はそのまま洗い場に腰掛け、髪を洗い始めた……。
シャンプーの香りがお風呂場に漂う……神秘的な森にいるような爽やかな心地がした。
……。
しばらく様子を見ていると、彼女はようやく湯船に浸かっているぼくを認識する。
彼女は眼を細め側まで近づいてきて、ぼくの頬を両手のひらで軽く触れる。
そのまま自分の顔を寄せ、声を小さく発した。
「想像どおり……綺麗……」
「あ……ありがと……」
「……」
しばらくぼくの顔を見て手を離す……何事も無かったように洗い場に戻ると、今度は身体を洗い始めた。
シャワーで流す時、こっちに湯が飛ばないよう、巧みにシャワーヘッドを操作していた。
身体を洗う行程がすべて終わったところ、彼女はおもむろに湯船に入ろうとする……。
大きなバスタブではあるが、さすがに二人だと狭いと感じるはずだ。
ぼくは十分に湯に浸かっていて、体の芯から暖まったので出ようとした。
「出ちゃダメ……」
「えっ!?……」
「……」
どういうこと!?……と思いながら、なかば強引に元の位置に戻される。
この娘、無言の圧力がハンバない……と思った。
お互いの脚をそれぞれ逆サイドに伸ばし、向かい合うようにしてお湯に浸かる。
このままだとのぼせてしまいそう……胸の上から肩にかけて湯から出し、バスタブの縁に両腕を乗せた。
彼女が声を発する。
「アツヤのことはリンから聞いてるの……」
「そうなんだ……リンさんの姉妹の方?」
「双子……妹の方……」
「双子の妹さんね……名前教えてくれるかな?」
「憐……」
「レンさんね……よろしく」
「……」
ここまで会話が続いたがここで無言に移行……眼を細めてぼくをじーっと見つめる。
リンさんと違って彼女はあまり感情を表に出さないようである……良く言えば冷静沈着……悪く言えば何を考えているか分からず不気味と言える。
気がつくと、彼女が湯の中から手をのばしてきた。
ぼくの胸を、両手で下から優しく包み込むように触れる。
このクセになりそうな感覚は……以前どこかで経験した気がする。
「大きくて柔らかくてスベスベなの……」
「あ……ありがと……」
「……」
またもや無言……会話のやり取りにディレイがかかり、スムーズに進まず、少しストレスを感じてしまう。
しかもリンさんと同様、あいかわらずの主導権握られまくり……さすが姉妹、と関心している場合ではない……な。
うーん、このようなタイプにはこちらも沈黙を持って応じるべきか……。
……。
もうかれこれ15分ほど湯に浸かっていたので、そろそろ上せ気味であった。
ここで体調を崩したら、明日の仕事に差し障ってしまう……意を決して湯船を出ることにした。
「レンさん、お先に……」
彼女に一言告げ、お風呂から出ようとしたところ、左の手首をぐっと握られてしまった。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・鈴原倫:女性、19歳、独身、大学1年生、レンの双子の姉
・鈴原憐:女性、19歳、独身、リンの双子の妹




