33話 この容姿では息子がいるとは考えにくい。
「ぼくの家はこのあたりだから……ここで別れよう」
「そ、そうですね……では、また」
タクミ君はがっくりと肩を落とし、もと来た道をたどって帰っていった。まるで寒い冬の雨に打たれて凍えている犬のように、その後ろ姿は哀愁を漂わせていた。
ぼくに息子がいるのが相当ショックだったみたいだ……これからぼくとの明るい未来を想像していたところ、それが突然瓦解してしまったのだから……と思われる。
『見た目はどおり、そもそも私は独身なのだよ』
「そうですよね……普通、独身だと思いますよね……結婚指輪もしてないですし……」
レイカさんは25歳だった。
結婚年齢が年々高くなりつつある現代日本では、20代独身は結構アタリマエだったりする。
30代や40代になってから結婚という女性も、今では珍しくないようだけど……それも芸能人を見てる限りではあるが。
タクミ君にはまだカミングアウトしていないが、そもそもぼくは世帯主、いわば一家の大黒柱なのだ。
息子だけではない……なんと、大学生の娘がいる。
しかも彼女らを扶養する義務がある……それだけではない……妻もだし……あとカメ……。
『おいおいアツヤ君、私を忘れているぞ』
「えっ!?……そもそもレイカさんは扶養というか……一心同体ですよね?」
『それを言うなら……二心同体だが』
「そ、そうですね……二心同体です、うん……これからもよろしくお願いします」
『うむ』
そう……今はもう1人、自律型AIとはいえレイカさんはぼくにとってもはや家族同然だ。
誰がどう思おうが、この事実は決してねじ曲げることはできない……。
もう後戻りできないし、進むしかない……。
ぼくは、ぼくの今を大切にする……例えレイカさんと意見が分かれても。
『ン……私はアツヤ君の家族が好きだぞ……以前、盗聴じゃなかったモニタリングしたら、私に対して悪い感情はなかったようだ』
「そうなんですか……うーん……ちょっと複雑……」
『なぜだ?』
「だって、レイカさんが肯定されて……元のぼくが否定されてるみたいで……」
『ン……そのとおりだが……何か問題があるのか?』
「わー……分かってても知りたくなかったー……はぁー……」
それにしても、今更だが、なぜぼくの身体がレイカさんの身体に変わったのだろう。
しかも、レイカさんのオリジナルはもうこの世にいない、と言うし……。
『ン……それは、まぁ……実証実験というか、人体実験というか……』
「じ、実験なんですか……だ、大丈夫なんですか?……今更ですけど」
『私の計算では問題ないはずだ。彼女の99.9%はフィジカル・インポートに成功している』
「そうですか……ありがとうございます」
とにかく、周りがどう思おうと、自分を見失わず愚直に生きるのだ。
ぼくは今までそうやって生きてきた……そして、今後も。
『あ……私がフィジカル・インポートする際の候補として、年齢を参照していたのだが……』
「は、はぁ……」
『そこを……少し……読み違えてしまって……』
「は、はい……?」
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・橘拓海:男性、21歳、独身、大学3年生、イケメン




