表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/60

30話 セキュリティを専門に扱う会社にあってはならないこと

 以下は、テレワークでも利用可能な、全社員用端末のスカイプでのメッセージやり取りだ。

 同じシステム班で、プロジェクト・ルーム内の紅一点(こういってん)であり、ぼくのフォロアーでもある幡中さんからだった。


「Hatanaka> 監視カメラの映像を確認しました。ですが、一部のデータが欠損していて……何か心当(こころあ)たりありませんか?」


 幡中さんは、昨日の櫻田さんとぼくのやり取りに、何かしらのハラスメント疑惑(ぎわく)を持ち、実態(じったい)を調査すべく監視カメラの映像を確認していたみたいだ。


 それにしても……一部のデータの欠損って!?

 監視カメラ本体の一時的な故障?……それとも録画コントローラのバグ??

 そもそも監視カメラの映像の確認って、手順は知ってはいるが(ひさ)しく(さわ)っていないし、実際(なに)もしていない……。

 ここは正直に返事する。


「Okamoto> まったく心当たりありません」

「Hatanaka> そうですか……岡本さんから提示された時間帯、かつ岡本さんが映っているであろうエリアのみ、データ欠損しているんですけど」


 そんなことがあるのか……。

 監視カメラだって、このプロジェクトに属するフロアだけで数十台ある。

 その中から、あの時間帯、あの場所に限定(げんてい)って……偶然にしては、条件が(かさ)なり()ぎている……。


「Okamoto> そうなんですか……すみません、本当に何も知らない……です」

「Hatanaka> 承知しました。この件はシステム班の班長に相談の上、必要に応じてベンダに調査してもらおうと思っています」

「Okamoto> こちらも承知しました。お手数ですが、よろしくお願いいたします」


 監視カメラのデータ欠損……。

 しかもピンポイントで正確にデータを削除する……おそらく人の手によるもの……。

 人に見せたくない映像が録画されているから……?

 ってことは、櫻田さんか……??

 でも、監視カメラの録画コントローラを(あつか)うアカウントは、(みな)が共通で使用するシステム管理者アカウントだから、個人の特定は難しい……はず。


『そんなことは朝メシ前だ。該当(がいとう)の映像データ削除時刻と同時刻にシステム・メンテナンス用端末で操作している人物は1人だけだった……当然、犯人は彼だ』

「は、早……これじゃベンダはおろか、某金田一君や某コナン君も()らないじゃないですか」


 櫻田さん……元システム班だけあって、システム管理者アカウントのパスワードも入手済みってことか……。

 ってゆーか、もうこれ、立派な犯罪じゃね……??


 ……。

 なんか釈然(しゃくぜん)としない……。

 身の危険を(おか)してまで、会社の資産であるデータを削除する……。

 そんなことわざわざ()るくらいなら、最初から会社でセクハラしなければいい……。

 その方がリスクが確実に低い……というかリスクゼロだ……なのになぜ?……わざわざそんなリスクを(おか)すの……??


『みんながみんな、君のようにリスクをヘッジする、とは限らない』

「リスクって危険じゃないですか?……回避できればそれに()したことはないし、せめて低減したいと思いますけど」


『それは正しい……だが、それのどこがおもしろいのか……リスクはテイクすることによってスリルが生まれ、感情も高ぶり、莫大(ばくだい)なリターンをも期待してしまうものだよ』

「確かにおもしろそうですけど……それ以上にぼくは恐いですね」


 またもやレイカさんと、価値観(かちかん)の違いで少々言い合ってしまった……。

 レイカさんからしたら、ぼくの行動が慎重(しんちょう)()ぎて、おもしろくないのだろう……だって、元おっさんなんだから……と言い訳してみる。


 とりあえず、櫻田さんの件は、警戒(けいかい)こそすれ、今はあまり考えないことにする……。

 (かり)に彼のセクハラを立証(りっしょう)しても、ぼくには何の利益もない……はず。

 こんなこと考えているだけでも時間がもったいない……だ。


 ……。

 さぁ、仕事、仕事っと。

 荒海さんがこちらを見ている……子犬のような素振(そぶ)りが、何かしてほしい(ふう)だ……。


「岡本さん、メールチェックお願いします」

「了解です……どこ宛てですか?」


 これはいつもの仕事のやり取りだ。

 荒海さんが作成したメールの宛先や標題について、誤りがないかチェックする……それとメールのフォーマットについても。

 指摘する箇所があったら、モニタに(ゆび)さして丁寧(ていねい)に説明する……そして彼が理解を示すか否か、仕草(しぐさ)や表情からそのフィードバックを受けとる。


「OKです……メール送信しちゃってください」

「ありがとうございます」


 ここで、荒海さん、右拳(みぎこぶし)をぼくの方へ向けてくる。

 当然ぼくも右拳(みぎこぶし)を彼のものにガツンとぶつける。

 

 彼は、売店にある最後の焼きそばパンをゲットした時の少年のように、ニカっと笑う。

 ぼくも負けじと、その少年の幸運を心から祝福する少女のように微笑(ほほえ)……んでみた。


 職場でのこの一体感が……ぼくにとっては、とても心地がいい。

 テレワークだと、こうはいかないな、と本気で思う……オンラインって慣れてないせいか、やっぱり寂しい……早くコロナ禍が収束して、元の密環境になることを願うばかりだ。


 ……。

 今日は何事もなく仕事が終わった。

 現在時刻は17:10……朝当番(あさとうばん)のぼくは、もう帰っていい時間だ。


 4台の端末のシャットダウンして、オフィスを出る……その前に荒海さんを含め、システム班のみんなに帰るあいさつをした。

 ロッカーからスマホを取り出し、入れ替わりに、特別なICカードをロッカーに戻す。

 続いてドアをくぐり、タイムレコーダーの打刻を済ませる。

 廊下に(つな)がる最後のドアを()け、ぼくは今日も帰途についた。


 スマホをおもむろに見る……LINEメッセージあり……おぉ、タクミ君だ……元気にしてるかな?

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

幡中茉莉菜ハタナカマリナ:女性、24歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマンかつ隠れLGBT社員、アツヤの同僚、システム班所属

荒海千春アラウミチハル:男性、53歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、システム班所属、アツヤとは席がとなり同士で仲良し

櫻田昌史サクラダマサシ:男性、48歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、運用班所属、得意技はマッサージとペッティング

橘拓海タチバナタクミ:男性、21歳、独身、大学3年生、イケメン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ