表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/60

3話 エンカウント

 自宅に着いた。

 暗いトンネルのような廊下を抜け、リビングに入る。

 テレビのスピーカーから、ニュースを読み上げるアナウンサーの声が聞こえる。その声は感情による抑揚がなかった。


「福岡県博多市在住の桐生麗華キリュウレイカさんは、何者かに腹部を果物ナイフで刺され意識不明の重体でしたが、本日22時15分に亡くなりました。福岡県警は殺人事件として捜査を進めています」


 視線を画面に向けたところ、女性の顔が映っていた。

 笑顔はない。

 証明写真のようだ。

 それでも美しく整った顔だった。おそらく誰もが振り向かずにいられないような、そんな美貌だった。


 ちょっとまて、ついさっき会社のエレベータで会った人ではないか。

 あれは夢だったのか。

 いや、違う。

 そういえば彼女は「見つけた」と言っていた。

 何を見つけたのか……?


 しばし思考を巡らすが、答えを導けなかった。

 時間も時間だったし、サクっと風呂入って、歯磨いて、寝ることにした。


 翌日になった。

 普段から健康には気を付けていることもあり、休みの日でも早く起きることにしているが、この日に限ってはなぜか起きられなかった。

 心配した妻が声をかける。


「パパ、大丈夫?」

「ちょっと体調が悪いみたい。しばらく寝ている」

「そう……」


 このしばらくが、丸一日となってしまった。

 熱はなかった。

 ただ、だるかった。

 せっかくの休みなのに、こんなことになってしまって、自分の健康にいまさらながら不安になる。

 ぐぅーっとベットに潜りこむ。まるで甲羅に頭を引っ込めるカメのように。


 日曜日の早朝4時ごろ。

 聞き覚えのある女性の声が頭の中に響く。

 声は小さかったが、流麗で威厳があった。


『アツヤ君、おはよう。今日からよろしく頼む』


 まどろみの中、心地良いその声に聞き入ったまま、ぼくはベッドに体をゆだね続けた。

 

『聞こえないのか?私に声かけられて無視した輩は、君が初めてだぞ』

「ど、どなた?夢……?」

『夢ではない。とにかく眼を開き、自分の体を見てみたまえ。』


 それは、ふたつ存在した。

 パジャマで覆われてはいるが、ロケットの先端のような迫力ある突起が見える。

 にもかかわらず、たわわに実った瑞々しい果実のようでもあった。 

 愛おしくもあり神々しくもあるその存在に、ぼくは目だけではなく心も奪われた。


「……おっぱい?」

『私のだがね。いや、今は君のものだったな』

「……」


 窓の外から車が去っていく排気音が微かに聞こえた。

 静寂な闇が去ろうとして、代わりに澄んだ光が差し込んでくる。

 まるで時間が止まったかのような錯覚の中、『今はぼくのもの』をぼーっと見つめた。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人

岡本幸菜オカモトユキナ:女性、58歳、アツヤの妻、主婦

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ