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25話 櫻田さん、アンストッパブル!

 櫻田さんの容姿(ようし)はこんな感じだ。

 身長は180cmぐらい、お腹は出ているがデブというほどではない。

 髪の毛の長さは普通、いわゆる調髪だ……ハゲではないが、年の割には白髪が多い。

 目は細い……彼の視力は運転免許証発行にギリギリみたいで、両目で0.7いくか、いかないか……らしい……ゆえにあごを引き、眼を細め、(にら)むように見るくせがある。

 彼はなぜか、いつもニコニコしている……本性を知る我々からすれば詐欺師のよう……である。


「うーん……岡本さん、肩こりが少し(むご)いようですね……ちょっとブラウスが引っ張っちゃって……なんかやりにくいですよ」


 と言いつつ、背後から肩越しに、両手をぼくの胸元によせ、ブラウスの第2、第3ボタンを手早く外してしまった……。

 ぼくは一瞬何が起こったかわからず、あたふたしている間も、一方的な会話は続いていく。


「あー……いい感じですよ……かなり、やり(やす)くなりましたよー」


 へっ!?……と思って自分の胸もとを見て、絶句(ぜっく)する!

 ちょっとオープンすぎ……ブラックなスポーティブラが丸見えになっていた。

 オイオイオイ……なぜ、ぼく、()がされているの?……AV男優かよ、おまえ……しかも真っ昼間から職場ってよくあるシチュエーションじゃん……。


 元おっさんとはいえ、今はレイカさんであるぼくの服を職場で脱がすこともいとわない、とは……。

 こ、この男をどうにかしないと……。

 

 ……。

 全神経を集中して仕事をする。

 ポータルのシステム画面から、該当アカウントのパスワードの初期化は完了した。

 あとはメール返信するだけだ。


「あとは、メール返信するだけですから……やっておきますんで……櫻田さん、もういいですよ、ホント」

「いやいやいや……最後まで見届けますから……さ、仕事を続けてください」


 うおおおおお……こうなったらメール、速攻終わらせてやる……。


 ……。

 ここで、なんと運用班から救いの声が……。


「櫻田さん、電話です」

「誰から?」

「ベンダの佐藤さんからです……なんか急ぎみたいですけど……」

「あー……折り返すって言っておいて……今、私も忙しいんだ」


 い、忙しいって……。

 背後霊(はいごれい)のようにぼくにつきまとうコトがかよ……と、無駄とはわかりつつツッコミを入れる……心の中で。

 それより……メール、メールっと……で、できた……あとはチェックしてもらって……。


 彼がまた話しかけてきた。


「あー……メール書き終わりましたね……ちょうどいい……私がチェックしますよ」

「いや、悪いですよ……システム班内でチェックしますから……ですから、櫻田さんは……」

「あはは……岡本さん、遠慮は無用ですよ」


 遠慮じゃねー……いいかげん、自分の班に戻れよー……これも、心の中。


 ……。

 彼は、ぼくの頭の上にあごを乗せ、上目遣(うわめづか)いでモニタを凝視(ぎょうし)した。

 この状態は、ぼくの頭頂(とうちょう)が強制的にキスされてしまっているに等しい……。

 さらに彼の両手は、ブラウスのボタンを外す動作と同じく、ぼくの肩越しからキーボードに伸ばされていた。


 彼の両肘が、ぼくの胸に上に、無造作に置かれる……。

 彼は自分がどのような体勢をしているか一切客観視せず、両手でキーボードを操作し始めた。


 ぼくの背後から(おお)いかぶさり、頭頂(とうちょう)をキスしながら、胸の上に両肘を乗せ、キーボードを操作するって……端から見たらスゴいことになってなくね?……こ、これ、誰かに見られたらマジでヤバくね??

 

 彼がまた話しかけてくる。


「メール文面がいけてないですね……ちょっと修正しますよ」

「いや、メール文面って……定型フォーマットですから、問題ないはずですよ」

「そうですね……この定型フォーマットがいけてないんですよ……どれどれ」

「あっ……操作しづらいでしょ?……ぼく、ちょっと(せき)(はず)すから……櫻田さんも移動して……」

「いいから、いいから……すぐ終わりますんで」


 この体勢、いつまで続くのかしら……??

 年下とはいえ同じおっさんに、背後から(おお)いかぶさられるのは……イヤとかじゃなくて、ダメでしょ、これ……倫理的(りんりてき)に……。

 ……もう……ダメ、限界……こ、この密着状態(みっちゃくじょうたい)……。


『アツヤ君、大丈夫か?私がこのセクハラ野郎を始末する。さ、代わりたまえ』

「いや……さすがに……職場ではちょっと」


 レイカさんと会話した刹那(せつな)、背後のドアがガタンと開いた。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

櫻田昌史サクラダマサシ:男性、48歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、運用班所属、得意技はマッサージとペッティング

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