表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/60

24話 会社にはいろいろな人がいる。

 学校とは違って、会社にはほんとうの意味でいろいろな人がいる

 突然、おっさんから若い女性になったぼくが言うのもどうかと思うが、ほんとうにいろいろな人がいるのだ。

 社会人に成り立ての人は分かるだろうが、仕事という大義名分の下、かなり理不尽な要求が平気でまかり通る時があったりする……。

 特にこのIT業界は顕著かもしれない。


 例えば、この櫻田さんだ。

 彼はまず、自分がやりたくない仕事はしない、というかなり身勝手な利己主義者である。


 たとえ顧客の対応を行う当番の日であったとしても、気が向かなかったり、めんどくさかったりするとやらないのである。

 なぜ、やらないのか、聞くと……。


「他にやるべき仕事が山積みだから」


 ……らしい。

 彼のやるべき仕事というのは、顧客はおろか、上司を含め同僚の誰かに頼まれたわけではないこと……それは運用データの分析だ。

 具体的には過去と現在の傾向を比較し、現在の傾向が過去データと異なると判断した時、システムに異常があるのではないか、と騒ぐ……とにかく騒ぐ……仮に根拠が希薄(きはく)であっても。

 騒いだ後は、すべてシステム班に丸投げしておしまい、というのが彼得意のワン・パターンだ。

 残念ながら彼の分析結果のほとんどは、一時的だったり、アノマリだったりする。

 よって、同僚たる我々一同は、彼を無責任なお騒がせキャラとして認定している。


 彼が厄介なのは、同僚に迷惑かけている、とはこれぽっちも思っていないことだ。

 むしろシステムの異常となる前に警告したという、先見性を強くアピールしてくる……これにだまされるのは運用の班長くらいである。

 

 すなわち、このような彼が相談を持ちかけてくる、ということは少なくともウェルカムではない……。

 でも、無視するわけにもいかないので、話を聞くことにする。


「櫻田さん、何でしょうか?」


 彼は無言で、本来荒海さんが座るべき椅子に座ったままスライドし、ぼくのとなりまでぴったりと寄せてきた。

 そして、ぼくの端末の画面を見て、説明する。


「メールを見てみてください。あっ、このメールです。岡本さんに対応してほしいんですが……」


 メールを見る。

 ある法人ユーザアカウントのパスワード初期化などの対応だった。


「えっ!?……これって、運用班の担当じゃないですか……なぜ、ぼくが?」

「いやー……今日、私が担当になってて……ちょっと、手放せない急ぎの仕事があり、それで岡本さんに……」

「えーと……システム班のぼくではなく、運用班内でディスパッチしてもらっていいですか」

「いやー……私もそう思ったんだけど……みんな、忙しいみたいで、断られちゃったんですよ」


 そーゆーことか……。

 運用班において、誰にも引き受けてもらえていないのか……。

 彼に塩を送る義理はないが、顧客も困っているだろうし、とりあえず依頼を承諾する。


「承知しました。そのような理由であれば、こちらで引き取ります」

「岡本さん、ありがとう。恩に着ります。助かったー……」


 いきなり彼は、椅子から立ち上がりぼくの背後に回る。

 ぼくの両肩に手を置き、おもむろにマッサージを始めた……。


「岡本さん、お礼に肩こりを解消して差し上げます。さっ……さっさと仕事を片付けましょう」


 はっ!?……自席に戻らないの?……ってゆーか、マッサージ上手だな……まいったぞ、こりゃ。

 ちょっと待て……ぼくがおっさんだった時は一度もこんなことされたことないぞ??

 ……このままで……だ、大丈夫か??


「あ、あの……手放せない急ぎの仕事は大丈夫ですか?」

「あー……大丈夫ですよ。戻ったら瞬殺しますから。それより、お願いした仕事を片付けちゃってください。私は後ろで見てますんで」


 もー……後ろに立たれた上に肩を()まれまくり……しかも、モニタをガン見されてる……あのー、仕事しにくいんですけどー……と叫ぶ……心の中で。

 それにしても、ちょっと彼キモいな……仕事無茶振りしてくる櫻田さんが、ぼくの肩をマッサージって……どういうつもり??

 この状態はとても危険な気がしてならない……とりあえず、自席に戻ってもらおう……。


「あの、櫻田さん……後はやっておくんで自席に戻ってもらっていいですよ」

「岡本さん、困るなぁ……岡本さんがちゃんと仕事をし終わるまで見届ける義務が、私にはあるんですよ。ですから、気にせず仕事を続けてください」


 き、気にせずって……肩を()まれながら、キーボード打てないでしょ……と心の中でツッコミつつ、この男の対処に()(すべ)もなく途方に暮れてしまった……頼りの荒海さんは居ないし……ど、どうしよう……??

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

荒海千春アラウミチハル:男性、53歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、システム班所属

櫻田昌史サクラダマサシ:男性、48歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、運用班所属、得意技はマッサージ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ