2話 レイカ、参る!
『ここか、アツヤ君の家は』
彼は文京区駒込から江戸川区葛西へ移動した。
そして最寄り駅から徒歩30分ほどかけて自宅マンションに到着した。
私こと桐生麗華がなぜ彼の行動を把握できるのか説明しよう。
まず、彼の頭部脳内に合成タンパク質で精製されたニューロ・チップを量子暗号無線LAN経由でインプラントした。
彼の五感情報はすべてデジタル・エンコードされ、このチップに流れる仕組みとなっている。これによって彼の行動をモニタリングできるし、感じていることも詳細に把握できるのだ。
彼は玄関から廊下をとおり、リビングに入った。
テレビからニュースが流れている。
「福岡県博多市在住の桐生麗華さんは、何者かに腹部を果物ナイフで刺され意識不明の重体でしたが、本日22時15分に亡くなりました。福岡県警は殺人事件として捜査を進めています」
「あれっ!?この人どこかで……」
『何言っている?さっき会ったばかりではないか』
……。
聞こえるわけないか。
ニューロ・チップは先駆けてインプラントしたが、彼の身体をデジタル・エクスポートするのに12時間、続いて私をフィジカル・インポートするのに24時間かかる。
お互い意思疎通できるようになるには、フィジカル・インポート率75%に達成してからだ。
となると、30時間後……日曜の朝4時か。
そしてフィジカル・インポートが完了する同日の朝10時、この時刻には本格的に活動再開できるはず……理論どおりに行けばだが。
ひとりでいろいろ検証していたら、彼はお風呂に入っていた。
とても気持ちよさそうだ。
ほっこりする……いいではないか。
……。
しこしこしこしこしこし……。
『ん?仁王立ちして、いったい何を?……んあっ!?ぎゃーーーーーっ!!!』
視線を逸らす……が、薄目も開けてしまっている。
見てはいけない!という天使の声とガン見しないでどうする?という悪魔の声が聞こえた。
しばし、逡巡……。
悪魔、Win!
マスターベーションか。
彼もオスだし、溜まるものはとうぜん溜まるのであろう。
定期的に抜かないとキツい、と聞いたことがある。
かわいそうだが、もうこの行為もできなくなる。
だから、これはこれでよかったと納得する。
……射精。
それにしても、ものスゴいパワーであった……。
子孫繁栄のための聖なる行為!
全体力及び全精力を一点集中しての渾身の一撃!
そんな崇高なる行為がショボいわけがなかろう。
……と、いろいろ自分が行った行為を正当化すべく、その行為について分析してみるのであった。
彼は何事もなかったのように風呂から上がり、歯を磨く。
そして、ベッドで横になった
『おやすみ。次に会うのは日曜の朝だ。それまでおとなしくしているのだぞ』
聞こえないとわかっていたが、それでも話しかけ、自らリンク・アウトした。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人
・2020.9.10.Thu 修正しました。
・2020.9.11.Fri 修正しました。