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16話 ぼく三人衆

 3人は電車を降りた。

 ホームのベンチに座る……電車内と同じ並びで。

 周りにも他の客がいる……誰もがマスクをして静かにしている。

 会話できる環境ではないことは一目瞭然だった。

 ぼくは2人に静かに話しかける。


「話できるところに移動しませんか」

「そうですね、一旦駅を出ましょう」


 彼が返事する。

 彼女も頷く。

 彼女は逃げる気がさらさらないようだ……どれだけ肝が据わっているんだと驚いてしまう。


 駅の改札を出て、近くの珈琲店に入った。

 ボックス席に座る……ぼくの正面に彼と彼女が並んだ。

 ぼくはメニューを見てドリンクを選んだ。


「ぼくはカフェオレにする」

「ぼくもそれにします」

「ぼくはミルクコーヒーとチーズケーキにするよ」


 偶然ではあるが、みんな一人称をぼくと言う。

 しかもうち2人は女性だ。

 不思議な集まりであったが、とても親近感が持てた。


 ドリンクなどを注文後、軽く自己紹介をする。


「お姉さん、アツヤって言うんだ。ふーん……なんかメイルみたいな名前」

「君、失礼だろ。女性でアツヤさん、素敵じゃないか」


 ありがとう、タクミ君。ぼくは君が好きになったよ、正義感MAXでイケメンだし……と、心の中で叫ぶ。


 注文した品々が配膳され、とりあえずそれぞれ口に含む。

 ほっこりしたところで、突然会話が始まる。


「あんな大声出さなくてもいいじゃない?」

「いや、普通の声だったよ。それより隣にぼくが居るのに、アツヤさんの胸を触るとは大胆過ぎるだろ?」

「肝心のアツヤさんは、まんざらでもなかったようだよ。違うかな?」

「……」


 ……まんざらでもない、か。

 認めたくない……が、認めざる負えない……ただ、気持ちよかったなど口が裂けても言えない。

 彼女、鈴原倫スズハラリンは続ける。


「ぼくの愛撫、気持ちよかった、アツヤ姉さん?」


 反射的におもわず、コクっと少し頷いてしまった……。

 ヤバい……また、やられっぱなしの人生に逆戻りというイヤな将来像が横切る。


「ぼくだけじゃないよ。タクの視姦もヤバかったよ。ぼくと姉さんのおっぱい交互に見ちゃってさ。このエロメン!」

「なっ……」


 彼、橘拓海タチバナタクミが少し慌てる……それでも爽やかであった。

 思わず顔を下に向けて、ちょっと笑ってしまう……。

 痴漢されたのに、ほっこりしてしまう……不思議なひとときだった。


 あらためて彼女の胸を見る。

 サイズこそ、ぼくほどじゃないが、カップはかなり大きい。


『見たところ95Hだ』

「彼女、完全に同士ですね」


 髪はサラサラで長い……レイカさんと同じくらいではないか。

 左右で結んでいる……ツインテール。ほとんど初音ミクちゃんだ。

 顔は童顔……美しさというより可愛さが前面にでている。身長も150cmちょいぐらいか。

 白の長袖シャツに黒い革らしきミニスカート、ピンクのハイカット・スニーカーという出で立ち。

 しかも、痴女の気あり……大丈夫か、と彼女の将来を少し心配してしまう。


 彼が反論する。


「君が勝手に密着してきたんじゃないか……不本意だったが、しばらく我慢したんだぞ」

「あー、そんなこと言うんだ。ぼくのおっぱい、タクのふとももに乗せてあげたのにー……なんか損したなー」


 な、な、な、なんちゅう会話だ!

 ぼくの人生でこんな生々しい会話が、リアルで起こるとは夢にも思わなかった……。


 よくよく考えてみると、ぼくがレイカさんになったからこそ、彼らと巡りあったのだ。

 前のぼくだったら見向きもされなかっただろう。

 やっぱり人の外観って、スゴい影響力がある……間違いなく。

 今さらながら、ぼくがレイカさんになったのが怖くなってしまった。


 彼らの会話を聞いていて、内心忸怩(じくじ)たる思いに駆られてしまった……。

 ぼくは今でこそ容姿端麗な女性であるが、そもそもアラフィフのおっさんなのだ。

 だから、彼らの若く清々(すがすが)しい言動に入り込めない……気がする。

 どうしても疎外感がつきまとってしまっていて、はっきり話すことができなかった。


 この会はいつまで続くのだろうか。

 注文したカフェオレも残り少なくなっている。

 この会を解散すべく、オチをどうするか考え始めていた。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている。電車内痴漢さわぎに巻き込まれた

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

橘拓海タチバナタクミ:男性、21歳、独身、大学3年生、イケメン、電車内痴漢さわぎに巻き込まれた

鈴原倫スズハラリン:女性、19歳、独身、大学1年生、電車内痴漢さわぎを巻き起こした

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