表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/60

15話 背筋を伸ばして……

 仕事が終わったので、まっすぐ自宅を目指す。

 会社のビルを出て、東京メトロ駒込駅に向かう……人とぶつからないように慎重に歩いた。

 現在時刻は17:10。

 まだこの時間帯の帰宅者はまばらだった。 


 レイカさんの言葉がフラッシュ・バックする。


(アツヤ君、君が私のこの身体からだを得たのに、楽しもう・遊ぼうとしないのが極めて遺憾だよ)


 この身体からだを楽しむ、遊ぶかぁー……。

 ま、まさかっ!?……マ、マスターベーションっ!?


『それは違うな』

「ですよね……すみません」 


 自分の行動を顧みる。


 ぼくはいつも……何事も無難に、事を運ぼうとした。

 あらゆるリスクをヘッジした。


 日々の勉強や筋トレ、散歩などを優先した。

 いづれも社会で役立つことや、健康によいことばかりだ。


 楽しまず、遊ばず……。


『冒険しないよな、君は』

「……そうですね」


 何事も「先ず隗より始めよ」だ。

 できることから少しずつ実行すればいい。


 考えたことを実行し、失敗したら反省して、また、考えて実行する。

 そう、楽しむ……そして、……遊ぶんだ!


 とりあえず、だ!

 せっかくレイカさんになったのだから、自信を持って行動する、から始めよう。

 そう、まずは、ぼくが彼女レイカさんであることを楽しむのだ。

 そして、いづれ真剣に遊ぶこともしたい……、


 顔を上げた。

 やや猫背気味だった状態から、ピンと背筋を伸ばす。

 さらに胸を張る……100Jレイカさんお胸は、隠す必要などないのだ……ってゆーか、いくら猫背でも隠せませんけど。

 そして艶やかなロングヘアをなびかせ、颯爽さっそうと歩く。

 暗かった表情が、自然と笑みになっていく感じがした。


 萎縮する必要はない……堂々としよう。

 だって、何も悪いことはしていないのだから。

 さぁ、大いに楽しんで、遊ぼうではないか。

 あはははは。


『アツヤ君、いいぞ。なんか私もワクワクしてきたぞ』

「そうですか……そう言ってくれるとうれしいですよ」


 ……。

 帰りの電車。

 東京メトロの南北線の駒込駅から飯田橋駅へ行く。

 東西線に乗り換え、葛西駅まで行く……あとは自宅まで徒歩だ。


 東西線では降車ホームの階段近くの車両に乗る。

 ドアが開く側のはじっこ席を確保した……なかなか座れない貴重な位置である。

 自宅最寄り駅である葛西駅まで、いつもどおり小説を読んで過ごす。


 あれっ!?……なんか左のお胸が触られている。

 でも、暴走したユウの時とはまるで違う!

 さわり方がとても優しい……まるで赤ちゃんの手に触れられているようだ。

 ほんとうに痴漢なのか、と錯覚してしまう……。


『こんなに優しく触れることができる痴漢も居るのだな。正直驚きだ』

「うーん、感心している場合じゃないんですけどね……」


 となりに座っている人を見る。

 男だ……ぼくより5cmほど背が高い。

 肩幅があってガッチリしている……が、太っているわけではないようだ。

 耳まで流れる爽やかなヘア。

 知的な雰囲気を醸し出すリムレスのメガネ。

 大学生かな……とてもイケメンなんですけど。

 余裕を感じるクールな表情でスマホの画面を見ている。

 

 彼が痴漢なのか??

 でも、彼の右手にはスマホがあるし……。

 わざわざ左手をお腹から回して、ぼくの左胸を触っているのか……マジか……。


 もー、やられっぱなしのぼくじゃないのだよ。

 ここは一発思い知らせてやる!

 しかもこれは威厳を取り戻すチャンスでもあるし。

 よ、よし、注意するぞ!……3、2、1……。


「い……」

「いい加減にしないか、君っ!」


 はっ!?……なんで?……痴漢されているぼくが怒られたぁー……??


 となりの彼の顔を見た。

 彼の視線はぼくではなく、彼の左どなりの女の子のほうへ向いていた。

 彼女は目と口をぽかんと開けたまま、グレーに染まり固まっている……。


 次の停車駅が近づいてきたので、電車は減速し始めたようだった。

 ぼくら3人はそこで降りた。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、人格は変わらないが、外観はレイカになっている。会社でLGBT社員として公認された

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

岡本結太オカモトユウタ:男性、15歳、アツヤ/ユキナの息子、中学3年生

電車男デンシャオトコ:男性、イケメン

電車女デンシャオンナ:女性

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ