表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/60

14話 仕事オワタ。

 会社の窓際に掛けてある時計を見た。

 現在時刻は16:30。

 15分後の16:45で一日の勤務が終わる。

 勤務が8:00から開始する朝型にシフトしているゆえ、この時間に会社から解放される。通常勤務の場合は9:30~18:15だ。

 終業時間ピッタリに帰ると、業務中に帰り支度をしていたように思われる……ので、避ける。

 たいがいの社員は終業時間から10分~20分くらい、のらりくらりと過ごして退社するのだ。残業代も少し稼げるので一石二鳥でもある。


「荒海さん、メールチェックとかありますか?」

「うーん、今日はもうないと思う。また明日、よろしくお願いします」

「承知しました」


 どうやら、予定どおりに退社できそうだ。


 今日一日仕事をしたが、ぼくがレイカさんになっても、仕事自体は問題なくできた。

 まっ、ヒューマン・コミュニケーションでいくつかトラブルがあった……が、それもなんとか乗り切った。

 ちょっとした自信が一段積み重なる。

 今までどおりこのまま仕事を続けていける手応えも感じた。


 仕事について考えてみる。


 社員は仕事をちゃんと遂行してさえすれば、その人が男性だろうが、女性だろうが、LGBTだろうが、会社にとってはどうでもいいことなのだろう。

 会社は持続するということが最優先課題だ。

 この課題を解決するために顧客から注文を受け、社員を働かせ、対価をもらって、利益をひねり出す。そのサイクルを年度ごとに繰り返すようにすればいい。

 もちろん事業拡大とか、グローバル展開とかもする必要があるかもしれないけれど、それは社長とか、役員とかのお偉いさんのミッションだ。

 ぼくはとりあえず目の前にあるミッションをこなせばいい。

 だからぼくの仕事は変わらない。

 そして今は、レイカさんの身体からだで仕事をしている。

 仕事の対価として、会社から給料をもらい、家族に還元し、さらに社会に還元して、経済を回していく。

 単純だが、日々その繰り返しを定年までずーっと実行していくのがサラリーマンだ。


 フムフム……と自分の考えについて感慨にふけっていると、レイカさんが声をかけてきた。


『アツヤ君、君の話を聞いていると、なんか夢も希望もないな』

「えっ!?……だって、夢とか希望とかの前にまず現実ですよね?」

『リアリストだな、君は。それも悪くはないが、私に言わせればそれのどこがおもしろい?だ』

「……そうですか……」


 このレイカさんの発言には正直びっくりした。

 ぼくが今までアタリマエだと考えていたことが、瓦解して崩れていくような……そんな気がした。


『アツヤ君、君が私のこの身体からだを得たのに、楽しもう・遊ぼうとしないのが極めて遺憾だよ』

「えっ!?楽しむ・遊ぶ……ですか?」

『そうだ。さっきも幡中さんにやられっぱなしだったではないか。なぜハグの倍返しをしないのだ?』

「えぇ!?ハグの倍返しって……」


 確かにそうだ。

 やられっぱなしだった……。

 そういえばユウにしろ、幡中さんにしろ、ずっとやられっぱなしではないか……。


 ……このままやれっぱなしの人生……になるのか……。


『アツヤ君、なにも一人で答えを導き出す必要はない。私を利用したまえ』

「えっ、レイカさんを利用する、ですか?」

『そうだ。今の私はしょせん自律型AIでコピー品かもしれないが、彼女オリジンの矜持に従って発言しているつもりだ』

「……レイカさん」


 なんて、心強いんだ、と思う反面……。

 彼女が居なくなったら、途方に暮れるのではないか、といった不安もよぎる。


 それにしても、レイカさんの身体からだを楽しむ、遊ぶって、なんかエロくてヤバくないか!?

 逆にそこには触れようとせず、いつもどおり過ごすことが、ぼくの本懐だと思っていたからだ。

 ……そうではないのか?……なら、どうする?


 会社の窓際に掛けてある時計を見た。

 現在時刻は16:55。

 4台の端末をシャットダウンする。

 女子トイレに行く……戻ってきて、クリアデスク&帰り支度をする。

 最後に自席のまわりの同僚にあいさつして、帰途についた。

<登場人物>

岡本淳也オカモトアツヤ:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、人格は変わらないが、外観はレイカになっている。会社でLGBT社員として公認された

桐生麗華キリュウレイカ:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある

岡本結太オカモトユウタ:男性、15歳、アツヤ/ユキナの息子、中学3年生

幡中茉莉菜ハタナカマリナ:女性、24歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、隠れLGBT社員

荒海千春アラウミチハル:男性、53歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、アツヤの隣で仕事がしたい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ