13話 反省、謝罪……そして、
女子トイレから戻り自席に着く。
岡本さんもおいおい戻ってくる……はず。
私は何事もなかったように仕事を始めた。
私がやったこと……。
それは女性となった岡本さんに、ただ単に女子トイレでの作法をレクチャしただけ。
そう、たったそれだけ……。
……うそです。
岡本さんに、イキんでしまいました。
ごめんなさい……。
確かに岡本さんは変わった……ってゆーか、変わりすぎ。
荒海さんじゃないけど、私も妖怪が出社してくると思っていた……のに。
彼女を最初見た時、おおげさだけど美の女神が降臨したのかと……。
しかも、なんで、わざわざ、よりにもよって……わたし好み直球・ド真ん中・ストライクのいかにも仕事できる風な女性になるのーっ!?
彼女を放っておけるわけがない!
結果、以下のような大胆な行動を実践してしまいました。
・問答無用のLINEアカウント召し上げ
・女子トイレ個室内での論理的放尿プレイの強制
・女子トイレ個室内での同意なしかつ、いきなりのほっこりハグ
それと、なんか余計なことを言ってしまった気がする……思い出せない。
とにかく今冷静に考えると、イキみまくりのやりたい放題・ゴリ押しMAXだった。
このままだとセクハラで訴えられる……かも。
いや、懲戒免職になる……かも。
……。
とりあえず何事もなかったように仕事を続ける。
だけど、頭の中は不安いっぱいで集中できない。
「幡中さん、メールのチェックをお願いします。あと、添付するファイルも」
「承知しました。どこの法人宛てですか?」
それにしても仕事とはいえ、なんでこんなモブ男とメールチェックとかやらなきゃいけないの!?
あぁー、岡本さんと仕事したい……ガチで!
うぅー、荒海さんが羨ましい……羨ましすぎる……殺す、マジで!!
早く課長に席替えの指示を出してもらわないと……。
……それどころじゃなかった。
早く岡本さんに土下座、じゃなかった謝罪しないと手遅れになってしまう。
こうしてはいられない。
とにかく彼女とコミュニケーションしよう。
さっそく全社員用端末のスカイプでメッセージを送る。
「Hatanaka> 岡本さん、少しお時間いただけますでしょうか」
「Okamoto> はい、今度は何でしょうか?」
「Hatanaka> 先ほどの女子トイレでのことですが、大変申し訳ありませんでした。謝罪いたします。許してください。それと今後は課長にフォローしてもらってください。では」
「Okamoto> はぁ!?」
終わった、何もかも……。
これでいい……岡本さんは元々アラフィフおじさんだったんだし……。
明日からは今までどおりのごくごく普通の会社ライフに戻る……特にワクワクすることもなく、日常が過ぎていく……。
あれっ!?
なんで……!?
目頭が熱いよ……涙が……まいったな……。
全社員用端末のスカイプにメッセージが送られてきた。
「Okamoto> 幡中さん、聞いてください。幡中さんがフォロワーとなっていただけると聞いて、ぼくがどれほど安堵し感謝したことか。だから、お願いです。思い直していただけませんでしょうか? P.S.女子トイレでのレクチャはとても勉強になりました。ぼくが言うのもおこがましいですが、ご迷惑でなければ、女性同士これからも仲良くしていただけたらと存じます」
……。
岡本さん、あなたって女性は……ほんとうにあなたって……。
目頭があいかわらず熱い……まいったな、マジで。
「Hatanaka> 承知しました。全言撤回です。今後も岡本さんのフォロワーを担当させていただきます」
「Okamoto> 承知しました。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
……涙が溢れてきた。
目から零れたいくつもの雫が机の上にポタポタ落ちる。
濡れたところにハンカチを置いて隠し、キーボードに手を添え、モニタを見つめる。
私は何事もなかったようにまた仕事を始めた。
<登場人物>
・岡本淳也:主人公、男性、52歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、人格は変わらないが、外観はレイカになっている。会社でLGBT社員として公認された
・川内祥二:男性、55歳、妻子あり、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの上司で課長
・幡中茉莉菜:女性、24歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、隠れLGBT社員
・荒海千春:男性、53歳、独身、IT企業に勤めるサラリーマン、アツヤの同僚、アツヤの隣で仕事がしたい