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番外編1 大歌劇場の歌姫

 そう、今でも鮮明に思い出せる。

 この世界にやってきた日の事を―――


 あたしの名前は才波さいば美羽みう

 抜きん出た才能もない、特別かわいい訳でもない、何処にでもいる女子中学生……要するに普通の女の子だ。


 中学に入って程なくして親から携帯型ゲーム機を買ってもらった。

 ゲーム機についてきたソフトは、ポップでキュートな電子の妖精が歌って踊るリズムゲーム。

 それが、あたしと電子の妖精・ミューちゃんとの出会いだった。


 ミューちゃんは歌が上手なだけじゃなく、色んな衣装を着こなす歌姫だ。

 何しろステージ衣装がとってもかわいいのだ。

 曲は可愛くポップなものから、ロマンス色のあるバラード、ロックでかっこいいものまで様々あった。

 あたしはミューちゃんの歌声に魅了されて、ゲームをやりこんだ


 ミューちゃんは電子の妖精としてネットでも有名だった。

 プロアマに関わらず様々なアーティストが曲を作って、ミューちゃんに歌わせたり、踊らせたりしていた。

 あたしはミューちゃんの世界がどんどん広がっているのを感じたものだ。


 ミューちゃんの世界を知るたびに、お気に入りが増えていった。

 いつしかあたしは、ミューちゃんの歌を口ずさむようになっていた。

 あんたはいつも歌っているわねと、お母さんによく言われたっけ。


 そして時は経ち高校受験を控えた頃、ミューちゃんのリズムゲームの最新作が発売された。

 あたしはお父さんに勉強を一杯頑張るからと頼み込んで、そのゲームを買ってもらった。

 その新作ゲームは思っていたよりも面白く、あたしはすぐ夢中になった。


 そんな、何てことない日常を過ごしていたはずなのに―――

 どうしてこうなっちゃったんだろう。

 今となっては記憶が朧げだ。

 確かゲームをクリアして、何かの選択肢を選んだような……。


 気が付いたらあたしは、知らない場所へとやってきていた。

 知らない街の真ん中で目を覚ましたのだ。

 訳も分からずパニックになって、その場で延々と泣き続けた。

 けど、日が傾いて、お腹が空いて、これが夢じゃないんだと理解した。


 状況を理解しても、どうすればいいかはわからなかった。

 淋しい……怖い……不安……。

 色んな感情がごちゃまぜになって、あたしという存在が今にも消えてしまいそうだった。


 気がつくとあたしは歌っていた。

 ミューちゃんと出会って最初に聞いた、今でもお気に入りの曲。

 不安な心に押し潰されないように、あたしは何度も、何度も歌い続けた。


 ぽんと肩を叩かれて、あたしは顔を上げた

 知らないおばさんがパンを持ってきて、お食べよと言ってくれた。

 あたしは、おばさんにしがみついてわんわんと泣いた。

 あたしは歌と、おばさんの優しさに助けられた。

 あの日食べたパンとポタージュの味は、今でも忘れられない。


 根無し草のあたしは、おばさんの家の子供になった。

 家事や料理をするのはとっても大変だったけど、歌があるから辛くはなかった。

 歌はいつでも側にあった。

 知らない世界に来ても、あたしが歌うことには変わりはなかった。


 路地裏で子供達と歌った。

 青空の下の草原で歌った。

 荘厳な光が差し込む街の教会で歌った。


 あたしの歌は、街のみんなに評判がよかった。

 平凡で普通な歌声のはずなのに、あたしの歌を聞くとみんな笑顔になった。

 あたしはこの世界に来てから、歌う最中に流れる音符が空中に視えるようになっていた。

 その音符とタイミングが合うように歌うと、いつもより上手に歌うことができた。

 丁度ミューちゃんのリズムゲームと同じ感じだった。


 歌の腕前が上がるにつれ、流れる音符の種類が増え、どうすればいいんだろうと試行錯誤していたら、歌だけじゃなく踊りもできるようになっていた。


 最初は数人だった観客はどんどんと増えていった。

 いつの間にかあたしは、みんなから歌をせがまれるようになっていた。

 あたしの歌で良いのならと、色んな所に行き歌った。


 街の一角で歌った。

 酒場のフロアで歌った。

 劇場のステージで歌った。


 歌声を気に入ったというオジサンに誘われて、あたしはこの場所へとやって来た。

 この世界の中でも唯一の大きさを誇る 王都の大歌劇場へ。

 まさかあたしが、ミューちゃんのようなステージ衣装を着て歌うことになるとは思わなかった。


 あたしは、特別なことはしていない。

 大好きなミューちゃんの歌を歌ってるだけだ。

 けど、歌を聞いたみんなは、あたしの歌声に元気や勇気をもらったと言い笑顔になってくれた。

 あたしは純粋に嬉しかった。


 歌には力がある。

 あたしはミューちゃんみたいに可愛くはないし、歌だってホントは上手くなんてないけど。

 歌の力を信じている。


 この世界に来て、まだたったの一ヶ月ほどなのに、あたしの生活は大きく変化した。

 大歌劇場だいかげきじょう歌姫ディーヴァ 

 それが今の、私の呼び名だ。


 もうあたしは寂しくない、悲しくない。

 路頭に迷うあたしが歌に救われたように、救われる誰かにあたしの歌が届いてほしい。

 そう思いを込めて、あたしは大歌劇場で歌い続ける。


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