お茶会
やっべ、俺が異世界転移者って事バレたぁ!
……いや待て。これは逆に情報を得られるチャンスじゃないか?
朱ってば意外と口が固くて、この世界に来てからの事あまり教えてくれなかったんだよな。
「その前に聞きたいんですが、以前のクラウディアってどういう子だったんです? 例えば性格とか」
「物静かで、とても研究熱心な子でした」
「親しい友達とかは?」
「そうですね……特別親しいと言われると、いなかったように思います」
ふーむ、聞く限りじゃゲーム版クラウディアとは少し性格が違うように思えるな。
「もう一つ聞きたい。この世界で大きな戦争は? 魔術師が戦争に駆り出される事はなかった?」
「……王都で戦争が起きた事など一度もありません。それに、研究者たる魔術師が戦争の道具になるなど、考えるだに恐ろしいですわ」
……それはおかしい。
『紅玉の瞳/死翼の天使』では魔法戦争が発生して、アナスタシアが連れ去られるストーリーだった。
それが、この世界じゃ魔法戦争も起きておらずアナスタシアもいない。
気になることはまだある。この婆さん、魔術師は研究者と言った。
魔術協会と魔術師ギルド。そんな組織はゲーム内になかった筈だ。
「なあ、婆さ……ウィスマットさん。魔法学校という学校は本当に知らないのか?」
「ユーリさんも、”あの子”と同じ事を聞くのですね。私が学園長だと? ……いいえ。私が経営するのは魔術協会と魔術師ギルド。魔法学校など何処にも存在しません」
きっぱりと言い切る老婆ウィスマット。
……これで決定的になった。
『紅玉の瞳/死翼の天使』の世界は完全ではない。
魔法戦争が起きず、アナスタシアが不在で、魔術師ギルドマスターへと役割が変更された学園長がいる世界。
朱が取り込まれたゲーム世界は部分的に抜き出されてしまったのかもしれない。
となると……もしかして、俺のゲーム世界もそうなのか!?
思い返せば主人公である俺と、チュートリアル妖精のナビコと、エルフ王女のエルクーシアしか存在を確認していない。
この世界が切り取られ、パッチワークのように繋がった世界ならば……。
通りで仲間が見つからない訳だわ!
「何か思い当たったようですね。そろそろ貴方の知っている事を話してくれないでしょうか?」
「あー……。1つだけ約束して下さい。今から話す事は口外しないで欲しいんですが」
「勿論お約束します。セレンも、いいですね?」
「はっ」
2人は畏まって俺の言葉を待つ。
俺も知らないこと多いんだけど、こうなったからには話せるだけ話すか。
「まず俺の事から話そう。俺の名前は戦場遊理。婆さ……ギルマスの推測通り別世界から来たんだが、自力で来た訳じゃない。正体不明な奴に誘われた、というか気まぐれで選ばれた」
「だから何故この世界に来たと問われても答えられない。気付いたらこっちの世界に来てたんだ。元の世界に戻りたいとは思ってるが、方法が分からなくてな」
「やはりそうですか。……”あの子”も同じなのですか?」
「ああ、俺と同じ世界から来たのは間違いない」
「では何故、別世界からの来訪者である貴方達は、この世界の事を知っているのですか?」
うわー、答えにくい質問来たー。
この世界がゲームで、プレーした事があるからとは言い辛いよな。
「なんて言ったものかな……。例えるなら俺はこの世界の事、本で読んだ事がある感じなんだ。そこにはクラウディアとアナスタシアと、婆さ……学園長がいた。しかも、こっちの世界より物騒な世界だ。戦争があり、アナスタシアが改造されて連れ去られ、クラウディアが取り戻しに行くお話だった」
「……けど、今の状況は俺の知ってる内容とだいぶ食い違いがある。アンタも学園長じゃなくてギルマスになってるしな」
ウィスマットは流石に面食らっているようだった。
まあ、そりゃそういう反応するよな。
婆さんはしばらく物思いに耽り、訴えるような瞳でこちらを見据えた。
「では、この世界に居たクラウディアは何処に行ってしまったのですか? ”あの子”は誰なのですか?」
「……それには、俺は答えられない」
老婆の瞳に落胆の色が交じるのが見えた。
「ちょっと待った。この世界のクラウディアが何処に行ったかは本当に分からないんだよ。だから答えられない」
「それにもう1つのは……俺から話すことじゃない。直接本人の口から話すべきだろ?」
「そうですか……」
しゅんと頭を垂れる老婆。
やっべ、なんかしんみりしちゃったな。
どうしようか考えあぐねていると、テーブル上でお菓子を貪り食っていた筈のナビコが立って、この部屋の隅っこの方を指差した。
「どうした?」
「あっち」
「あっちって……何も見えないが」
「……あそこにいるよ?」
いるって何が……と言おうとして、ピンと来た。
そういえばあいつ、魔術師だったな。
俺は何気ない顔で部屋を歩き、ナビコが指差した所で大きく息を吸う。
「わーーーーーっ!!!!」
「きゃあああああああ!?!?」
渾身の驚かせをすると、クラウディア……もとい朱が何もない所から尻餅をついて現れた。
こいつ、透明化の術で隠れてやがったなあ?
「何すんのよアンタ!! バレちゃったじゃない!!」
「いや、お前こそ何でここにいるんだよ」
「学園長の部屋にあるお菓子すっごい美味しいから、ちょっと貰おうと思っただけなのに……!」
アホか。そんな事で透明化してたんかい。
ウィスマットとセレンは朱の存在に気付いていなかったようで、大層驚いていた。
「そんな事より……ホレ、こっち来い」
「ちょちょ、掴まないでったら!」
暴れる朱を抑えながら、婆さんの前に持ってくる。
「俺の話、聞いてただろ? お前の口からウィスマットさんに話してあげなよ」
「でも、私は……! クラウディアを取っちゃったかもしれないのに!」
「それなら俺もブレイズも同じだ。気にするのは今更だし、変えようがない事だろ。……でも、自分を偽ってクラウディアを演じるってのはどうなんだ? お前はお前だろ、”朱”」
「でも、私は……!」
強情なやっちゃな。これは婆さんの一押しが必要と見た。
「って言ってますけど、どう思います?」
「……私は、あなたの事をもっと知りたいですよ、娘にとってもよく似たお嬢さん」
「……!」
「だってよ。素直になったらどうだ?」
「で、でも……!」
慌てる朱の手を優しく包んでテーブルへと案内するウィスマット。
「さあ、こちらへどうぞ。貴方の本当の名前を教えてくれないかしら?」
「え、あ、あの……」
「そんな緊張しないで。ゆっくりでいいですから」
顔を赤らめて名前を告げる朱。
……この感じならもう大丈夫そうだな。
婆さんも最初から俺というより、朱の事を聞きたいって様子だったし……もうお役御免だろう。
「……俺、急用を思い出したんでそろそろお暇しますね!」
道案内の為にセレンを無理やり連れ出して、俺はギルドマスターとのお茶会会場を後にしたのだった。




