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ギルドマスター

 強引に連行されてやって来たのは狭い小部屋だった。

 文句を言ってもセレンは爽やかな笑顔でのらりくらりと言い逃れる。

 セレンは扉付近を何やら操作すると、ゴウンという音と共に浮遊感に似た上昇を感じた。


「まさかこれ、エレベーター!?」

「おや、魔力昇降機エレベーターをご存知とは珍しい。……さて、目的地はもうすぐですよ」


 今更突っ込むのもアレだが、古代ローマにエレベーターって。

 長い上昇の後、ポーンという音と共に扉が開きだす。

 扉が開いた先は日の光が多く差し込む明るい部屋。

 広々としたその部屋には、天井から無数の植物が吊るされていた。


 ……ここがギルドマスターの部屋? 想像と随分違うな。


「ギルドマスター、ユーリ様をお連れしました」

「ご苦労様、セレン」


 書類が沢山積み上げられた大きな机に、背の低い人物が座っていた。

 ……今、婆さんみたいな声が聞こえたが。


「魔術師ギルド本部へようこそ、ユーリさんに小さな妖精さん。歓迎いたしますわ」


 金の刺繍がされた紺色のローブを着た老婆は、柔らかな笑顔で俺を歓迎した。


「アンタがギルドマスター!?」

「魔術師ギルド・ギルドマスター兼、魔術協会アカデミー会長のウィスマットと申します。どうぞお見知りおきを」

「って、冒険者ギルドじゃなかったんかい!」


 ギルドというからてっきり冒険者ギルドかと思ってた。

 言われてみれば婆さんの服装は魔術師っぽい。


「あら、私とした事がうっかりしていました。ごめんなさいね?」


 ころころと笑う婆さん。わざとじゃないだろうな。


「ではユーリさんも到着された事ですし、始めましょうか」

「……何を?」

「勿論、お茶会ですよ?」


 * * *


 テーブル上に色とりどりのケーキや洋菓子が並べられ、紅茶が用意される。

 何故か妖精サイズのティーカップも用意され、ナビコが感動していた。

 給仕は全部セレンがこなした。見た目は王子様なのに執事並の鮮やかな手際だった。

 婆さん……ウィスマットからどうぞと勧められてしぶしぶ手を付ける。

 あ、この紅茶美味いな。


「……ではなく! 何で俺を呼び出したんですかね!?」

「ほほほ、そう焦らなくても良いですのに」

「俺達って接点ないですよねぇ?」

「ありますよ。クラウディアは私の娘ですから」

「……んんっ!?」


 驚きのあまりむせる所だった。紅茶を吹き出さなくて良かった。


「といっても血は繋がっておりませんが」

「ああ……成程」


 何となく思い出してきた。

 クラウディアは幼い頃に魔力を暴走させて天涯孤独になった。

 彼女を引き取って育てたのが魔法学園の学園長だった。

 ……あれ、学園長? この人学園経営までやってるのかな。


「クラウディアが、最近貴方の事をよく話していましてね。それはもう毎日のように話すんですよ」

「そんなに!? ……でも言われてみれば決闘してから、何故か出会うことが多いような」

「ふふ。ですので、貴方とちゃんとお話したいと思いお茶会にご招待したのです」

「はあ、そっすか。……でも、実際の所は俺に聞きたい事があるんじゃないですか?」


 ケーキを食べながら問いかける俺。

 ギルドマスターは紅茶を一口飲み、迷ったように俯く。

 気にせずケーキを食べて待っていると、しばらくして彼女は話しだした。


「そう……ですね。本来ならば部外者の貴方にこんな話しをすべきでは無いのかもしれませんが……」

「クラウディアは幼い頃とても辛い事故があり、それ以来私が引き取って育ててました。もう5年前の事です。あの子の事は私が一番よく分かっています」

「ですが、二ヶ月ほど前にクラウディアは妙な言動をするようになったのです。ここにあるもの全てに驚き、自分が魔術を使える事に驚き……。毎日が新鮮というような様子でした」


 それは朱がこっちの世界にやって来た瞬間だろうな。

 俺でもこの世界に来た時ははしゃいだし、想像に難くない。


「そして奇妙な事を言いだしたのです。ここを魔法学園と言い、私がその学園長だと。特に、アナスタシアという少女については何度も尋ねられました。……そんな少女はここに居ないというのに」

「……え?」


 待て待て。アナスタシアは『紅玉の瞳(クリムゾンルビー)死翼の天使(デスエンジェル)』のヒロインだぞ。いないとかありえなくないか!?


「アナスタシアが居ない……それ、本当ですか!?」

「やはり貴方は知っているようですね。ギルドマスターの私ですら知らない何かを。これは私の推測ですが……クラウディアに貴方は、別世界からの来訪者ではありませんか?」


 老婆はまっすぐに俺を見てそう話した。

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