貴族街
翌朝の正午。
俺は貴族街との境にあるアルゴンの門へとやって来ていた。
「うわー、でっけえ門。馬車数台でも通れそうだ」
「そうね。この先はどんな所なのかしら」
「……ナビコ、お前付いてこなくてもよかったんだぞ?」
「ユーリだけ楽しい思いするなんて許せないもの。私も行くに決まってるでしょ」
「いいか、ナビコ。くれぐれも急に飛び出したり、話しをややこしくするんじゃないぞ?」
「何子供みたいな扱いしてるのよ。呼び出されたのはユーリなんだから変な事はしないわよ」
本当か? 最近あいつ大人しいけど、いつかやらかしそうな気が……。
ま、そうなったら保護者として謝るか。
今となってはナビコはこの世界に来た時以来の相棒だ。
治癒してくれるし、クエストじゃ結構助けられたしな。
門に近づくと門番に呼び止められた。
「待て、ここより先は許可なき者が立ち入る事は許されん!」
「いやぁ、コイツで呼び出されましてね?」
「……ギルドの紋章? お客人でしたか。失礼しました!」
封筒を見るや否や門番は姿勢を正して畏まる。
こちらにどうぞと言われ、通用口から通してもらう事になった。
……門は開けないのね。馬車とか大型荷物専用かぁ。
通用口をくぐって見えてきた光景に、俺は王都に来て二度目の衝撃を受けた。
広く間隔の開けられた通り。碁盤のように整然と区切られ、左右対称となっている街並み。
そのどれもが異国情緒に溢れた建物ばかりだった。
和風の建物だけでなく、地中海にある白壁の建物やトルコの寺院っぽい建物もある。
「……これ全部、貴族様の住宅地か? とんでもない広さだな」
「すっごーい! 何アレ!! 全然建物が違う!」
「おい、あちこち飛び回るなよ? ここではぐれたら流石にマズいからな」
「もー、わかってるわよ!」
それにしても無国籍すぎないか?
よく見たら奥の方に10階くらいはありそうな高層建築物と、その奥には例の双塔がはっきりと見えた。
……この世界の建築技術どうなってるんだよ、全く。
まじまじと貴族街を観察していたら、後ろからハキハキとした声をかけられた。
「ようこそお越しくださいましたユーリ様」
「あ、どうも」
「ユーリ様をお迎えする為に参りました、セレンと申します。以後お見知りおきを」
金の刺繍がされた純白のジャケットを着た、青髪のイケメン青年は爽やかに笑って頭を下げた。
……何かコイツ、キラキラしてるんだけど! 王子様かよ!!
「えーっと……セレンさん? よく分かってないんですが、俺何で呼ばれたんでしょーか?」
「それは私からお話すべき事ではありません。マスターがお待ちですし、早速参りましょうか」
セレンが手を向けた先には、いかにもお貴族様が乗りそうなタイプの馬車が止めてあった。
セレンの丁寧なエスコートで馬車に乗り込まされ、馬車の中で間近に対面する。
イケメン王子はこちらの視線を感じて、周囲をキラキラさせて爽やかに微笑んだ。
……何かコイツ苛つくんですけど!
そんなイケメン王子との会話は地獄だった。
何を言っても好意的に解釈されるのだ。
守秘義務でもあるのかギルドマスターについて聞いても答えてくれないし。
なのに俺の事を聞きたがるから、はぐらかすのが大変だった。
途中ナビコが出て話し相手になってくれてマジで助かった。
結構長いこと馬車移動して、ようやく着いたかと思ったらイケメン王子に黒頭巾を渡される。
「ユーリ様。しばらくの間、これを被って頂けませんか?」
「おいおい、流石に客人に対する扱いじゃないだろ!」
「申し訳ありません、機密の高い場所ですので何卒。……ユーリ様の安全は、このセレンが命に賭けて守りますから!」
「そうじゃないっつーの! つか、そんな所に呼ぶなよ!」
「おっしゃる通りですが……そこをなんとかお願いします!」
何度も頭を下げるセレン。その熱意に負けてしぶしぶ了承した。
「わかったよ。被ればいいんだろ被れば」
「はいっ! ……失礼しますね、ユーリ様!」
頭巾を被って周囲が真っ暗になると、ぐいと体を掴まれた。
体が浮く感覚と、両手で抱きかかえる感覚を感じる。
まさか……お姫様抱っこされてるのか、俺!?
「うおおおい! 何してんじゃあああ!?」
「何ってユーリ様をマスターの所にお連れするだけですが。あ、暴れないでください! 怪我しますよ!」
「そういう問題じゃねええええ!!!」
もがく俺を無視して、セレンは馬車から下りた。
こいつ俺を軽々持ち上げて……じゃねえ! 野郎にお姫様抱っこされるとか寒気がするわ!
しかも黒頭巾被せてるから、見た目は誘拐じゃねえか!!
「下ろせー! こんな羞恥プレイするとか聞いてねえぞー!!」
「あはは、そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。ほんのちょっとの距離だけですから!」
セレンは俺の静止をまったく聞かず軽快に走り出した。




