ゴーレムマスター・アスカ その3 ☆
「アグ、急停止!」
「ラジャー!」
重戦車のように動いていた蟹ゴーレムは大きな音を立てて減速する。
執事がコアブレードを手放すと、俺は大きく後ろへ吹き飛ばされた。
……慣性の法則か! 接近できたのに離されちまった!
「アグ、砲撃準備!」
「ラジャー!」
執事が人の形を崩し、蟹ゴーレム本体と一体化していき……蟹の口に当たる部分に砲塔が出来た。
蟹戦車。とっさにそんな単語が浮かんだ。
「方向・仰角補正よし。装填よし。……発射!!」
お姉さんが片手を振り下ろすと、ドンッという音を出して発射され、直径1メートルほどの砲弾が飛んできた。
「そんなんありかーーっ!?」
砲弾を緊急回避をすると、そのまま観客席へと飛来して轟音を出した。
「か、壁にめり込んでる……」
恐ろしい威力だが、爆発しなかった?
火薬の入った砲弾だと思ってたが、どうも違うらしい。
「ちぇっ、仕留め損ねちゃったか……。アグ、最接近射撃!」
《ラジャー!》
蟹ゴーレムはガチョガチョと突進しながら、俺に向けて連続射撃をしてきた。
「ひょえええ、もう無茶苦茶だーーっ!?」
移動スキルを連続使用して、砲弾の嵐から逃げ回る。
隙あらば突進で轢こうとしてくるの、タチが悪いな!
考えろ、考えろ俺!
どうすれば勝てるのか? 勝利条件は何か?
しかし、移動に専念しないと体当たりを喰らい、砲弾を打ち込まれるのが目に見えていた。
……ええい、こうなったら!
『――開 眼!!』
スローモーションの世界で、改めて状況を観察する。
相手はゴーレムマスター。
結晶のような赤いゴーレムコアを使い、砂から無尽蔵にゴーレムを生成する。
見る限りでは、マスターである彼女自体の身体能力は特段優れてるように思えない。
マスターの身体能力を補っているのが、執事ゴーレム・アグリオスだ。
俊敏で戦闘能力が高く、頭が切れる。おまけに再生持ち。
広範囲攻撃があったら倒せてたかもしれないが……剣士がそんなもの持ってる訳ないだろ!
そして、カルキノスと呼ばれる蟹戦車モード。
すれ違い様に斬ってみたが、思った以上に硬くて弾かれてしまった。
お姉さんを攻撃しても執事が守ってくるし、一番の攻略方法……マスターを倒すという方法が取れない。
あれ。俺って防御が固い敵に弱い?
有効な手段が思いつかないあたり、割とマズい事態だ。
とはいえ、状況整理したおかげで彼女の傾向が見えてきた。
……彼女、魔法攻撃をしてこない。
魔法を使った物理攻撃がこの決闘相手の持ち味だ。
そこを逆手に取れないかな。
物理攻撃で攻撃するという事は、物理法則に縛られるという事。
クラウディアみたいに急に爆発したり、空を飛んだりは出来ないだろう。
そんな相手が、俺を確実に仕留めてくるとしたら……?
――足止めした上での重量圧殺。それらを全部ゴーレムを使って行う。
彼女ならそういう選択をするんじゃないか。
根拠はないが、そう思えた。
という事は……あの手しかないか。
腹は決まった。後は目論見通りにいくよう祈るしかない。
俺は開眼を解除する。
「キミ、逃げ回ってばかりじゃ勝てないよ!」
「だったらソイツの弱点、教えてくれません?」
「私が作ったゴーレムに弱点なんてある訳ないじゃない」
しれっと言い張るお姉さん。そりゃ大層なご自信で。
「追いかけっこはもう終わり。そろそろ勝ちを獲らせてもらうよ。……アグ、包囲準備!」
《ラジャー!》
ドドドドドドッ! と蟹ゴーレムは無数の砲弾を空中に発射する。
俺を取り囲むようにして、弧を描いて砲弾が飛来した。
「キミが今まで避けてた砲弾、あれもゴーレムなの。だから……こんな事も出来る」
お姉さんがパチンと指を鳴らす。
すると、今まで打ち込まれた砲弾全てに手足が生えて、俺の周りを取り囲んだ。
「ゴーレム軍団、アイツを閉じ込めなさい!」
彼女の号令の元、ゴーレムが立体スクラムをしていき、俺の全周囲に高い石壁を構築した。
かろうじて天井が空いているが、あまりにも高くて逃げられそうにない。
「アグ、決めに行くよ!」
《イエス、マイマスター!! 反重量推進の起動まで3…2…1…起動》
《反重量推進、稼働。1…2…3…4…5…》
ズボボボボボボボという、ゴーレムにあるまじき爆音が聞こえてきた。
何、何やってるの!? すげぇ気になる!
天井を見ると、ゴーレムが脚から白煙を出して……空を飛んでいた。
蟹、蟹が飛んだあああ!!
「ありえねえだろーーーっ!!!」
空中にいるお姉さんと目が合った。
お姉さんはこの上なく悪戯な表情をしていた。
「スラスター停止! 目標、剣使いの子っ!」
《反重量推進、停止。これより落下シークエンスに入ります》
《目標地点までのカウントダウン、10…9…8…》
クッソ、やりたい放題やってくれるなぁ!
やってやるよ。最大威力のスキルで、お相手してやろうじゃないか!
俺はコアブレードで右手首を裂き、零れる血を剣へと注いだ。
鬼の闘技者がしていた動作を完全再現すべく、剣を大回転させる。
「コレを使わせた事は褒めてあげる。キミ、中々良い被検体だったよ?」
《5…4…3…》
「でも、これでお終い!」
《2…1…0》
『サテライトフォールダウン!!』
『対空・血華螺旋槍!!!』
逃げるのも負けるのも、俺がする事じゃねえッ!
超重量のゴーレムが墜落するなら、真正面からぶち抜いてやる!!
紅蓮の螺旋を纏った剣が、ゴーレムの本体に当たる。
力と力がぶつかり合い、空中に激しいスパークを産み出した。
「ちょっとキミ、本気!?」
「俺は負けねえ! こんなことで折れてたまるかぁぁぁ!!」
気合だ! 気合を入れろ、俺!!
スキルに渾身の闘気を注ぎ込むと、赤く捩れた螺旋が勢いを増してゴーレムを削り取る。
まるで掘削機。岩をも貫く赤きドリルだ。
削られた先からピシピシとヒビが入り、蟹ゴーレムの全身にヒビが伝播していくのが見えた。
「貫けええェェェェェ!!!」
赤き螺旋が蟹ゴーレムの胴体を貫通し、螺旋の光が空中に軌跡を描く。
胴体に大穴が空いた蟹ゴーレムは形を維持出来ず、ボロボロと崩れて砂へと還っていった。
「ハア、ハア、ハア……。や、やった……」
両膝を地面に付け、肩で息をする。
これ以上は無理。マジで無理。
「何てことしてくれるのよ、キミ」
声のした方を見ると、お姉さんが執事ゴーレムに抱きかかえられていた。
うわーー、あんだけ頑張ったのにお姉さんも執事ゴーレムも無傷なの?
執事ゴーレム万能すぎかよ。
「まだ、やる気ですかね?」
……いや無理、絶対無理。剣も持てねえもん。
という本音は胸の内に仕舞い、出来るだけポーカーフェイスを装って尋ねた。
「もう私の負けでいいわ。今日はおーしまいっ」
お姉さんは執事ゴーレムから下りて、人差し指をくるくると回した。
まだ余裕がありそうに見えるけどな。執事ゴーレムも健在だし。
「全く、とんだ誤算よ! 手の内を見せた上に壊されちゃうだなんて……大赤字ったらないわ!」
「力及ばず申し訳ありません、マスター」
「アグのせいじゃないわ、私が相手を見誤ったってだけ。……まあ、面白い被験体に出会ったと思えば、悪くはないけど?」
このお姉さん、何か怖いこと言ってるんだけど。
「それじゃあね、少年。またお会いしましょう」
そう言って彼女は決闘場を後にした。
こうして俺は、勇士ランク初の白星をもぎ取ったのだった。
……あ、あぶなかったああああ!!




