ゴーレムマスター・アスカ その1 ☆
次の対戦相手はゴーレムマスター・アスカ。
物々しい二つ名に反して、黒髪ツインテールの可愛らしいお姉さんだった。
黒色のケープにコルセット、腰には大きなポケット付きベルトという、アンバランスな服装をしている。
武器を持っていないし、明らかに術者タイプ……。
などど観察していると、お姉さんが声をかけてきた。
「ねえ、キミ。率直に言うと降参して欲しいんだけど……駄目かな?」
「……はあ!?」
何を言うんだこのお姉さん。
これ以上負けるつもりはないっつーの!
「そんなこと、俺が素直に聞くと思いますか?」
返事とばかりにコアブレードを引き抜くと、お姉さんはやれやれというジェスチャーをする。
「いやー、熱いねえ。けど残念ながらキミの相手は私じゃないの」
お姉さんは腰のベルトポケットから何かを取り出し、種蒔きのようにばら撒いた。
赤い結晶のような物が地面に転がると、グラウンドの砂を巻き上げて、人の姿を形作っていく。
砂製の即席ゴーレムと思いきや、現れたのは執事服姿のゴーレム。
……何故か顔は西洋兜になっているが。
「出番だよ、アグ」
アグと呼ばれたゴーレムの目が光り、動き出した。
「畏まりました、マスター」
「喋ったぁぁーーっ!?」
「うんうん、良いリアクション。もっと褒めてもいいのよ?」
満足気に頷くお姉さん。
この人、部下に任せて自分は戦わないつもりだな。
決闘開始のゴングが鳴る。
執事服のゴーレムは体の調子を見るように両手首を動かした。
「それでは、私がお相手仕ります」
執事ゴーレムは徒手空拳のまま俺に向けてダッシュする。
……こいつ、格闘戦する気か!?
執事ゴーレムはあっという間に接近して、手刀で襲いかかってきた。
キン! キキン! キン! キキン!
オイオイ、こいつ砂のゴーレムだろ?
何で剣と対等に渡り合えるんだよ!
「お前、本当にゴーレムか!?」
「申し遅れました。私、マスターにお仕えする執事ゴーレム・アグリオスと申します」
攻撃の手を緩めず、流暢に答える執事ゴーレム。
デカい、ノロマ、単純な命令しか聞けないというイメージとまるで真逆だ。
何度か至近距離で切り結んで気付く。
ゴーレムにしては鋭い攻撃……だがブレイズの方が何倍もやばかった。
このくらい何ともないじゃないか。
「はっ、手ぬるいな!」
『龍炎刃!!』
俺は回転しながら闘気を火氣に変換し、赤熱した剣を執事ゴーレムに叩き込む。
執事ゴーレムの胴体は上下真っ二つにされるが、奴は斬られた上半身から攻撃してきた。
『春時雨!』
素早い突きの連打を何度も叩き込むが、どうも手応えを感じない。
……赤い結晶みたいなのを壊せば止まると思ったが、闇雲じゃ無理か!
執事ゴーレムは形を維持出来ず砂へと還るが、程なくして再構成された。
「復活するのかよ!」
「ええ、ゴーレムですので」
いかん、相性が悪すぎる。
……一気に吹き飛ばすか? と思っていたら、遠くからのんびりした声が聞こえた。
「アグ、まだ勝てないのー?」
お姉さん、座り込んでるとか完全に観戦モードなんですが。
「マスター、武装の許可を」
「もー、仕方ないなぁ。……ほらっ!」
お姉さんが赤い結晶を二つ投げつけ、執事ゴーレムが片手ずつ受け取る。
すると、グラウンドから砂が勝手に集まり、二周りほど大きい拳へと変わった。
大きなボクシンググローブみたいだ。
「それでは、仕切り直させて頂きます」
ゴーレム執事はその大きな拳で殴りかかって来た。
ガイン! ガキン! ゴガン!
かってええええ!!!
何なの!? 実は鉱石なのその拳!?
剣で防御するが、拳の衝撃を相殺できず押し込まれてしまう。
ゴーレム執事はこちらの体勢が崩れたタイミングを見逃さず、懐に入ってきた。
『ゴーレムインパクト!』
ゴーレムがスキルを使う……だと!?
嫌な予感を感じ、俺は咄嗟に剣を手放す。
『頑健!!』
ガイイイイイインンン!!!
……いってえええ!!
眼前に両腕を出した防御の構えでスキルを発動するが、防御の上から衝撃が襲ってきた。
こりゃ防戦してちゃ駄目だ。攻めに転じないと!
『ゴーレムインパクト!』
『螺旋空!!』
ゴーレムパンチをジャンプ回避し、執事の首を掴んだまま空中で大回転すると、奴の首が捻り切れた。
並の相手じゃこれだけで勝負が付くが、ゴーレム相手じゃ全く足りない!
『星落とし!!』
空から降り注ぐ流星のような踵落とし!
俺は捻じり切った執事の頭ごと、真っ二つに体を両断した。
クソ、結晶を破壊した感覚がない!
砂を吹き飛ばさないと駄目か!!
「来いッ、コアブレード!!」
『虎魂!』
『龍炎…風車!!』
俺は咄嗟の思いつきで、龍炎刃と風車のスキルを掛け合わせた。
火氣を帯びて赤熱した剣を持ちながら勢いよく回転すると、周りに熱風の竜巻が発生する。
「吹き飛べぇぇぇ、砂ァ!!」
そのまま回転し続けていると、砂に混じって赤い結晶が舞っているのが見えた。
あれを破壊すれば、勝ったも同然だ!
「流渦そ…ゴヘアッ!!」
視界外から何かをぶつけられ、スキルが不発になる。
「何だよいってえな! 誰だよ!」
投げられた方向を見ると、黒髪ツインテールのお姉さんがバスケットボール大の丸いものを持っていた。
……あれ? 何か怒ってらっしゃる様子。
「ちょっとキミ、うちのアグをどうする気……?」
「どうも何も、倒すに決まってんでしょーが!」
「ふうん。そんな事出来るわけないけど、アグを苛めるなんて気に食わない。……アグを苛めていいのは、私だけなんだから!」
な、何言ってるのこの人――!?




