朱の少女
ウォルフラムに剣のメンテナンスをしてもらったが問題ないとの事だった。
俺は工房を後にして、商業地区で昼メシを取ることにした。
何故か工房に行くと、ナビコが不機嫌になるんだよな。
あんなに面白いものがあるのに……。
この気持ちを共有できないとは残念だ。
腹一杯で帰路についている途中、少女に遭遇した。
白のメッシュが入った赤髪の少女。
その姿は見間違えようもなかった。
「よっ、りんごちゃん」
「りんごちゃ……! ンンッ、やっと見つけたわ、ユーリ!!」
大声で俺を指差す少女。
この感じだとりんごちゃんが戻って来てるな。よかったよかった。
「アンタ、なんで負けたのよ!!」
りんごちゃんはこちらを睨んできた。
暴走状態の憎んでいるような目つきではない。
何か真剣な表情だし、はぐらかすと怒りそうだなぁ。
「負けるつもはなかったよ。暴走を止めようとしたらああなっただけで」
「何でアンタがそんな事する必要あるのよ!」
「……君、泣いてただろ。負けたくないって。俺気になっちゃってさ。もっと君と話してみたかったんだよ」
「んなっ……!!」
顔を赤くして驚くりんごちゃん。
「ん? どうかした?」
「あの時言った事は忘れなさいっ! 今すぐに!!」
「……お、おう?」
「それにアンタ、私に抱きついたらしいじゃない!? 私は全然憶えてないけど、新聞に書かれちゃって……どうしてくれるのっ!?」
真っ赤な顔でゆさゆさと俺の肩を揺らすりんごちゃん。
わー、見られてた上に闘スポに載っちゃったかー。それは悪い事をした。
「あはは。ショック療法だと思えばいいじゃないか。おかげで無事帰ってこれたろ?」
「アンタねえーー!!」
ひとしきり体を揺らされた後、りんごちゃんは手を止めて話しかけてきた。
「……何でヘラヘラしてられるの。私の暴走に巻き込まれて、アンタ負けたのよ!」
「別にいいさ、こうして話が出来てるんだし。りんごちゃんもあまり気にするなよ」
「あーもう、なんで逆にこっちが心配されるのよっ!?」
「そりゃま、りんごちゃん美少女だし? ……あ、言い忘れてたけどコスプレ、バッチリ似合ってるな!」
「んなっ……!!」
りんごちゃんは数歩後ずさった。
どうしたのかと思って待っていたら、俯いて話してきた。
「……朱」
「ん?」
「村雲朱! 私の名前。……今後はりんごちゃんって呼ぶな!」
顔をさらに赤く染めて彼女はそう言った。
あれ、レイヤー名気に入ってないのかな? 可愛いと思うんだけど。
「えーっと、朱ちゃん?」
「赤ちゃん言うな!」
「じゃあ村雲さん?」
「……何か他人行儀でイヤ」
じゃあどう呼べばいいんだよ。呼び捨てでいいのか?
「フン、もういい!」
「お、おい……」
朱と名乗った少女は背を向けてダッシュで何処かへ行ってしまった。
い、一体何だったんだ……。
「ふーーん」
「おわっ、ナビコ居たのか」
「良かったわね、あの子が無事で」
「お、おう。そうだな」
「あの子もしかして……。ふふん、これは面白くなってきたかも」
ナビコがやけにニヤニヤしているのは何故だろう。良く分からんな。
何だか色々あったが、りんごちゃん……もとい朱が無事だったのは少し安心した。
同じ闘技者なのだし、また何処かで会う事もあるだろう。
その時はもうちょっと話しをしたいものだ。
* * *
次の日、俺は闘技場受付へとやって来ていた。
目的はもちろん決闘だ。
試してない戦術もあるし、まだまだ勝ち進まないといけないからな。
スピカを見つけ、軽く挨拶する。
「ユーリさん、心配してましたニャ! ……その、落ち込むことはないんですニャよ? 闘技者の大半は一進一退するものですニャ。一敗くらいどうって事」
「あ、別に落ち込んでないんで慰めは大丈夫ッス」
「そ、そうですかニャ? それならいんですニャが」
「それより決闘の申し込みをお願いしたいんだけど……」
「かしこまりですニャ! ふふん、いつものユーリさんで安心しましたニャ」
鼻歌交じりに端末を操作するスピカ。
そんなに落ち込んでと思われてたのか……。
「丁度良く決闘依頼が届いてましたニャ。さてさて、今回のお相手は……」
「闘技者名アスカ。ゴーレムマスター・アスカさんですニャ!」




