医務室の女医エレクトラ
意識が朦朧として、何処にいるか分からない。
どこだ……ここは……。
体のあちこちを触られる。
周囲で話し声が聞こえるが、全く聞き取れない。
誰だ……何を話している……。
鉄のように重い瞼をどうにか開くと、得体のしれない何かがこちらを覗きこんできた。
骨と皮だけの体に、ドクロの顔。
死霊のようなそいつは眼が無いにも関わらず……眼孔の奥を光らせた。
* * *
「おわあ―――っ!?」
俺は無我夢中で起き上がった。
「生きてる? 俺、生きてる!?」
体のあちこちを触って確かめるが、ちゃんと感覚がある。
見る限り特に外傷はなかった。
よかった! 俺、生きてる!
辺りを見ると、白く染められた明るい部屋。
そこのベッドに俺は寝ていたようだ。
「また、医務室か……」
ここに居るという事は、決闘で倒れたという事。
ぼんやりとしていると、何が起きたか徐々に思い出してきた。
確か、クラウディアの暴走を止めようとして……爆発に巻き込まれて……。
――俺がお前を助けてやる。だから泣くな!――
そう言った後の記憶がない。
……もしかして俺、助けてやるとか言っときながら死んじゃった?
「ぐわあぁぁぁぁっ、クソ格好悪いぃぃぃぃ!!!」
俺は頭を抱えて悶絶した。
何であんな事言っちゃったんだろう。しかも大勢の観客の前で。
後悔の念に駆られ、のたうち回る。
……まあ、やっちゃったもんは仕方がない。
長い溜息をつき、何とか気持ちを整理させた。
初めて負けちまったなぁ。
コスプレイヤーの異世界転移者。アクションRPGの流派使いに。
彼女の身に一体何が起きたのか、俺には分からない。
あの後りんごちゃんはどうなったんだろう。
ベッドに寝転んで色々と考える。
程なくして、医務室がやけに静かな事に気付いた。
あれ、誰もいないのかな?
傷もないし問題なく体が動くので、白いカーテンを開けてみると……近くに立っていた女性と目が合う。
彼女はにっこりと笑った。
「……い、居たんですか?」
「ああ、居たよ。キミが大声を上げて起きる前からね」
「なら声かけてくださいよ!」
「いやいや、これも仕事でね。患者が正常に判断を下せるかどうか、観察してたのさ」
そう言った女性は笑いながら、眼鏡をくいと上げた。
ウェービーなサイドアップヘアで、切れ長の目の妖艶な女性。
白衣は羽織っているような形で、下に黒のボディコンを着ていた。
ボディコンから胸の谷間が見えてセクシーだ。
彼女はアルキオネ達と似たデザイン……赤色のラインが入った帽子を被っている。
服装はナースに見えない。女医だろうか。
褐色の肌で、赤髪で深緑眼で、眼鏡をしたセクシー女医……って属性多いな!
「えーっと……女医さん?」
「いかにも、私は医者だ。名をエレクトラと言うが……私の事は呼び捨てでいいよ。妹達と面識があるだろう?」
「ああ、アルキオネのお姉さんですか。姉妹揃って医者とナースだなんて凄いですね」
「凄いも何も、私達にとってはこれが日常だからね。……さあ、そこに座って。容態を見せてくれないか、ユーリ君?」
「あ、はい」
俺は着席を促され、診断のため体のあちこちをチェックされた。
美人に体を触られる事なんてそうそう無いから、緊張するな。
「フム、問題ないようだね」
「有難うございます。……あの、俺一度死んだんですよね?」
「そうだよ。蘇生の指輪で飛ばされてすぐに緊急オペをして、容態が安定したら医務室に運び……。先程目覚めたという訳さ」
死んだ実感は全く湧かなかった。
相当ダメージを受けたのに、体には傷一つもないもんな。
本当にこの世界の超医療技術には恐れ入る。
「そういえば……。死霊みたいなおどろおどろしい奴に触られた気がしたけど、お姉さんがオペをしたのなら俺の勘違いですね」
「なんだ、憶えていたのか?」
「……んん!?」
そんな言葉が返ってくるとは思わず、驚いてエレクトラを見る。
彼女は何でも無いというように、静かに笑った。
「ああ、済まない。そんな事を聞いたら不安になってしまうな。けど、気にしくて良い。あれは悪いモノじゃないからな」
「はあ……そっすか……」
その後エレクトラは、にこやかに雑談をしながらもカルテをまとめていた。
男勝りな口調はともかく、エレクトラの動作や表情には常に余裕があって、とても大人な感じだった。
「……所で、貴方と同じような赤髪の子は医務室に居ませんか? クラウディアって名前の闘技者なんですけど」
「ふむ。確か3日前にキミを訪ねてきた子が赤髪だったかな……?」
「本当ですか! ……ん、3日前?」
「そうだよ。キミがココに運ばれて今日で3日目になる」
「うえぇぇぇっ!?」
そんな感覚はないから驚いた。
ナビコ怒ってるだろうなぁ……。
「ま、まあいいです。その子はどんな感じでした?」
「キミを心配していたよ。面会謝絶と告げたら、落ち込んでいるようだった」
という事は、暴走は収まったのかな?
いちごちゃんが戻って来たのならいいんだけど。
そう思っていたら、エレクトラが俺の肩に手を置いて話しかけてきた。
「事情は知らないけど、これだけは言える。ユーリ君、キミは格好悪くなんてないよ。……あの子を助けたんだろ?」
そう言って、エレクトラはウィンクをした。
……うわ。俺、美人に褒められた?
慣れない事態に顔が熱くなる。
「照れるだなんて案外可愛い所があるじゃないか、キミ」
「か、からわかないで下さいよ!」
ははは、と朗らかに笑うエレクトラ。
エレクトラは不思議な魅力を持った女医だった。




