紅玉の瞳クラウディア その6 ☆
彼女は飛翔魔術を使い、上空から容赦ない猛攻を仕掛けて来た。
魔竜喰らいのお陰で何とか渡り合うことが出来ていたが、術の精度は徐々に冴え渡っていくようだった。
彼女はゲームの主人公、クラウディアそのものだ。
恐らく、りんごちゃんが使った術が、クラウディアの人格を呼び起こしてしまったんだろう。
……操作する側が、操作される側になっちまうなんて笑えない冗談だぜ!
「りんごちゃん! おい、聞こえないのか!!」
彼女は答えない。
涙を流したまま、憎悪の瞳で見てくるだけだ。
「何だ? 瞳がさらに輝いて……?」
眩い程瞳を輝かせ、彼女は呪文を詠唱する。
「……理を捻じ曲げ黒天より飛来せよ灼熱の流星! 罪深き者に死の烙印を! 穢れた大地を灰燼と帰せ!!」
『メテオスウォーム!!』
これは……クラウディアの必殺技!!
特大範囲に流星群を落とす大魔術だ!
「洒落にならねえぞ、オイィィ!!」
天から降り注ぐ隕石を必死に回避する俺。
避けた傍から爆発が起き、グラウンドを穴だらけにする。
流星なんて綺麗なものじゃない。
クラスター爆弾の雨あられじゃないか!
「ひいい、ひいぃぃぃぃっっ!!! ……あ」
「あ」
スキルを使って必死に逃げ回っていた俺は、ジャンプした真横……観客席にいる馴染みの妖精と目があった。
「ナビコ! おいナビコ! ちょっと聞きたいことが……っておわぁ!」
近くに飛来した隕石を緊急回避する。
くそ、観客席と距離が離れちまった。
ナビコに聞きたいことがあったのにな。
《……何。このボクに何か用なの?》
頭の中にナビコの声が聞こえてきた。
テレパシーか!? すごいな!
《何よテレパシーって》
《超能力の一種で……ってそんな事はいい。俺の声が聞こえるのか?》
《聞こえてるわよ。で、何なの?》
原理とか理屈とかはこの際置いとこう。今はあの子を何とかするのが先決だ!
《あの子、一体どういう状態になってるんだ?》
《ボクも詳しくは分からないって。見る限り暴走してるようだけど》
《それは俺でも分かる。魔術的にどうなってるか知りたいんだが、分からないか?》
《ふむん……》
こんなやりとりをしながらも飛来する隕石を躱し続ける。
《飛翔魔術の他に、もう一つ魔術が発動してる。心に作用するタイプ……恐らく他者の精神と共鳴する術ね》
《ハーモニクスなんちゃらか。……それ、解除できないのか?》
《ボクが分かるわけないじゃない。使ってる本人じゃないんだから》
ハァー、やっぱそうかぁ。流石にムチャ振りだったか。
《……何であの子を助けようとしてる訳? さっさと倒せばいいじゃない》
《うん? 俺は助けようとなんて……》
《してるわよ。今のアンタ、あの子を攻撃する気がないでしょ》
《う゛っ》
ナビコに見抜かれるとは不覚。
そういえば、契約が結ばれてるから感情が分かるって言ってたか。
テレパシーが出来るのは契約のお陰かもな。
それにしても、理由……理由ねえ。
せっかく元の世界から来た子……しかも同年代の女の子と出会えたのに、暴走したまま倒してもなぁ。
クラウディアは俺の言うこと聞かないし。
……それに、女の子の泣いてる姿を見ると、あの日を思い出すんだよな。
《泣いてる女の子を放っておけないから……かな?》
《ハァ? 何それ。アンタ女の子が泣いてたら誰彼構わず助けるっての?》
《そうじゃねえけど……。今の状況はおかしい。何とかしてやりたいんだよ。上手く言えねえけど》
《なぁナビコ。魔術の事で頼りになるのはお前しかいない。あの子を助ける方法があるなら教えてくれ!!》
《……………》
長い長い沈黙。俺はナビコの言葉を待つ。
《他者の精神と共鳴する術は、まだ発動したままよ。もしかしたら……触れるほど近づけば、ユーリの声が届くんじゃない?》
《そうか!! りんごちゃんを呼び起こす事が出来れば……!》
《ちょっと! 確証はないわよ!》
《十分だ。ありがとよ、相棒!》
《……フン! ボクは知らないからね。もう勝手にすれば?》
やるべき事は決まった。後は実行するだけだ。
彼女は10メートル程上空で静止していた。
隕石の嵐は降り止んでいたので、何とか避けれたようだ。
「おい、クラウディア! りんごちゃんは何処だ。りんごちゃんを返せ!」
「……忌々しい男。貴方こそアナスタシアを返しなさいッ!」
頬を涙で濡らし、憎悪の目でこちらを見下すクラウディア。
彼女が蒼い炎に包まれた掌を横に振り払うと、炎槍が次々と現れた。
『フレイムジャベリン……イグニッション!!』
鋭く尖った炎槍が上空から飛来する。その数十二。
魔竜喰らいで薙ぎ払うが、捌ききれない炎槍に体を貫かれた。
……痛ってえな!!
『リプレイ!!』
彼女は蒼い炎に包まれた掌を再度横に振り払う。
いくら捌いてもキリがない。
そろそろ腹を決めろ、俺!!
『跳躍!!』
跳躍して詰めれた距離は半分ほど。
クラウディアが放った十二の炎槍は間近に迫っていた。
「ビビってんじゃねぇぞ俺! 頼む、魔竜喰らい!!」
『竜の咆哮――!!』
俺は剣に蓄積された魔力を開放した。
飛来する炎槍……ではなく、地面に向けて。
コアブレードの刀身から魔力の光刃が迸り、ロケットブーストのように俺を上昇させた。
……当然、炎槍は避けれず、殆ど喰らう訳だが。
「届けえぇぇぇーーーっ!!」
「なっ―――!?」
クラウディアは驚愕に目を見開いた。
体当たりのような形で、空中で衝突する俺達。
彼女のローブを掴んで、一瞬見つめ合う。
憎悪より驚いた顔の方がずっとマシだ。
そう思いながら、彼女の額にガツンと頭突きをお見舞いした。
「クラウディア! お前いつまで暴走してんだよ! いい加減正気に戻れ!!」
「りんごちゃんも、引き篭もってないで戻ってこい!! ゲームキャラに気持ちで負けてるんじゃねーよ! 調子狂うからさっさと戻ってこい!!」
俺の言葉を聞きクラウディアは放心していたが、急に呻き出した。
「ぐあっ、ぐううう……! 誰だ、お前は誰だ。お前なんて知らない」
「俺はユーリだ、クラウディア。……りんごちゃん、そこに居るんだろ? 返事をしろ! いいから早く戻ってこい!」
「ぐうう、頭が……! やめろ、揺らすな。私はりんごちゃんなど知らない!」
クソ、失敗か?
この感じだと主人格はクラウディアだ。りんごちゃんじゃない。
「落ち着け。落ち着いて術の解除を……」
「何かが私の中に居る……!? あ、頭がっ……! 頭が割れそうだ!」
「お、おい! 大丈夫か!?」
「嫌だ! 怖い! ……私が消える!」
彼女は錯乱して暴れまわる。
抑えようとした瞬間、彼女の瞳が紅く輝くのが見えた。
「ちょっと待――」
『プロミネンスエクスプロージョン!!』
周囲の光が彼女を中心として集まって凝縮し、飽和して一気に大爆発が起きる。
俺は直撃を受け、受け身も取れずに地面へと落とされた。
耳鳴りがして、意識が朦朧とする。
全身が痛くて、手足の感覚がない。
俺は生きているのか……?
一体どうなったんだ……?
血だらけの腕に何とか力を入れて上半身を起こすと、燃え盛る決闘場の中心に彼女が座り込んでいた。
「助けて、アナスタシア――」
大粒の涙を流して呆然とするクラウディア。
彼女にはもう俺が見えていないようだった。
その姿が在りし日の少女に重なる。
追い詰められ、逃げ場を失ったあの少女の姿に。
……駄目だ、こんな形で終わっちゃ駄目だ。
俺があの子を助けないと。
俺は力を振り絞り、燃え盛るグラウンドを進む。
泣き続ける彼女を抱きしめて、在りし日と同じ言葉を紡ぐ。
「俺がお前を助けてやる。だから泣くな!」
ぎゅっと力を込めて彼女を抱きしめる。
彼女はほんの少し抱きしめ返し、ありがとうアナスタシアと呟いた。
燃え盛る炎が身体を包み込んだ。
流れる血と共に意識も暗闇へと落ちていき……俺は初めて決闘で敗北した。




