紅玉の瞳クラウディア その4 ☆
《シューート!!》
巨人の指から二発目の巨大球が放たれる。
雷迅脚を使ってギリギリの所で回避すると、巨大球が観客席へと突っ込む瞬間、見えない壁にぶつかって空中で爆発した。
……観客席って結界で守られてたのね。
観客は興奮した歓声を張り上げていて、誰も驚いた素振りをしていない。
結界は強固に作られているっぽいし、これなら避けまくっても問題ないな。
《ちょっと! 避けるんじゃないわよ!》
「またキャラがブレてるぜ、りんごちゃん?」
《きぃーっ! コイツ、ギッタンギッタンにしてやりたい!》
巨人はこちらに迫って、パンチやキックを放ってきた。
でもこの子、格闘戦に慣れてないな。今なら簡単に避けれそうだ。
《こら! ちょこまかするんじゃないわよ!》
「ははは。動きが単調になってるよ、りんごちゃん?」
《むきぃーっ! コイツ、絶対ぶっ飛ばしてやるわ!!》
俺は補助系スキルと移動系スキルを使い、猛攻をいなす。
避けに専念している間に、炎の巨人が小さく……全長が低くなっている事に気付いた。
心当たりといえば、二発の巨大球。
もしかしたら、あれは炎の巨人の一部を消費して撃っているのかもしれない。
とはいえ巨人には再生能力があるし、もたもたしてちゃ駄目だ。
反撃するなら今しかない!
「断ち切れ、魔竜喰らい!!」
跳躍を使ってキックを回避し、巨人の右足に一刀を浴びせる。
その後も右足に攻撃を集中させた。
《アンタ、足を斬る気ねっ! そうはいかないんだから!》
巨人は姿勢を低くしてアッパーカットを放ってきた。
俺は剣でガードするが、空中へと軽々と吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ……!」
《もう一発!!》
巨人はもう一つの拳で追撃のアッパーカットをかけた。
あまりの衝撃に腕が痺れ、剣を持つ手が震える。
このままじゃ剣が吹き飛ぶと思った刹那、ある事を思いついた。
「ぐわーーーっっ!!」
俺はわざと力を緩めて巨人の拳に吹き飛ばされる。
剣が弾かれてしまい、弧を描いて後方へと飛んでいった。
《ふん、これで終わりよっ!!》
巨体を揺らして接近してくる巨人。
徒手空拳の俺に対し、必殺の蹴りを放つ巨人――
……絶体絶命、大ピンチ。そんな時こそ不敵に笑えってな!
「来いッ、コアブレード!!」
俺が名前を呼ぶと、剣が一瞬で手の内に舞い戻った。
俺のロマン溢れるアイデアによって設計され、新進気鋭の若き鍛冶師によって鍛造された、全ての”中核”となる剣――それがコアブレード!!
実は魔竜喰らいはコアブレードの一形態にすぎないのだ。
……しかし、まずはこの局面を乗り切らないと!
「切り落とせ、魔竜喰らい!!」
迫りくる巨人の右足に向けて渾身の斬撃を放つ。
ダメージが蓄積されていたお陰で、巨人の右足は綺麗に切断された。
* * *
「何よアレ!? まるで魔法みたいじゃない!」
ユーリが剣を呼び寄せたのを見て、観客席にいた私はつい驚きの声を上げてしまった。
「おかしい、ユーリに魔法の才能はなかった筈。どうしてあんな事が出来るのかしら……」
「ユーリが持っている剣、中々面白いじゃないか」
「……?? アンタ、誰?」
「おいおい、冒険者ギルドのクエストで一度会っただろう。クラベスだよ、”至妙”のクラベス!」
灰色の髪の男はそう言った。
まるで記憶にないけれど、クラベスと名乗った男は私とユーリの事を知ってるみたいだった。
「ナビコちゃん。ユーリと一緒にいる君の方が、あの剣に詳しいだろう?」
「そりゃ大体は一緒にいるけど。ユーリはあの剣作る時、子供のようにはしゃいで、馬鹿みたいに沢山のアイデアを出して、鍛冶師と長々と話ししてたのよね。ぶっちゃけつまらないから、話の最中は大抵寝てたわ……」
「ふうん、アイデアねえ。……そういえばブレイズとの闘いでも剣を引き寄せてたなぁ、アイツ」
「あー、そういえば鎖剣の発想を取り入れたいと言っていたような……?」
「成程、アイツは盾を持たない主義だから武器は生命線だ。剣を落としてもすぐに手元に戻せるようにしたかったんだな」
髭を手でなぞりながら闘いを観戦する男。
うちのユーリをアイツ呼ばわりするとか、馴れ馴れしいんですけど。
「そうだなぁ。魔法の才能がない人でも、魔道具は使えるからな。何か仕掛けが……。例えば、あのブレスレットが剣を引き寄せてるとか」
「え? ああ、いつの間にか付けてたわね」
ユーリは最近右腕にブレスレットを着けていた。
新しい剣が来てからだったかな、着けだしたの。
ふと決闘場に目を向けると、ユーリが巨人の脚を切断している所だった。
「おおっ、やるじゃないユーリ!」
「あんな大きな召喚生物をどうにか出来てしまうとはな。やっぱりアイツは”持っている”な」
「……何それ?」
「闘うための特別な才能のことさ。そういうのを”持っている”奴がこの大闘技場に何人もいるって噂だぜ」
「えぇーー? ユーリがぁ?」
「そこは立ててあげなよ。ナビコちゃんの主人だろ?」
「何言ってるの、逆よ逆! 私がユーリの主人なんだから!」
灰色の髪の男は口を開けてあんぐりとした。
……なんで驚くのよー!!
* * *
「切り落とせ、魔竜喰らい!!」
俺は巨人の左腕を切り落とす。
これで炎の巨人は両手両足のない達磨状態になった。
右足を切った後はあっけなく事を運べた。
バランスを崩せたのが大きかったようだ。
でもこれで終わりじゃない。操ってる本人……クラウディアが負けを認めない限り、決着は着かないからな。
彼女は巨人の胸辺りに魔力球として埋め込まれていた。
かなり手こずったが、ようやく対面できる。
彼女の全身を包んでいた魔力球は薄い膜のようだ。剣でアッサリと切れた。
中にお邪魔すると、彼女は端正な顔を歪めて睨みつけてきた。
「何!? アンタ何なの!?」
「……ただの高校生だよ。君と同じゲーマーのね」
「その武器、卑怯くさくない!? 炎の巨人を倒しちゃうなんて想定外よ!!」
「チート級魔力の君がそれ言う?」
俺だって勝利のためにあれこれと手を尽くしてきたのだ。
文句言われる筋合いはないよな。
「さあ、降伏してくれりんごちゃん。女の子はあまり傷つけたくないんだ」
彼女に剣を向けて、そう言った。
特にりんごちゃんは美少女だからな。
傷つけるような真似は出来る限りしたくない。
「……。……だ」
「うん?」
「……やだ、やだやだ! 負けるなんて絶対に嫌ッ!」
彼女は大粒の涙を流しながら、紅い瞳をひときわ輝かせた。
……マズい、何かする気だ!!
『メルトイラプション!!』
悲痛な顔で呪文を叫ぶ。
すると、炎の巨人の身体がぼこぼこと膨れ上がり、全身から眩い光を放った。
まさか爆発――!?
跳躍のスキルを使い緊急脱出すると、鼓膜が破れそうになりそうな程大きな炸裂音を出して巨人が爆発した。
「ぐうううぅぅぅぅっっ!!」
魔竜喰らいで掻き消せれない大魔術を受け、為すすべもなく後方に吹き飛ばされる。
何回か地面をバウンドし、何十回と回転して、ようやく止まることができた。
「痛ってぇぇぇ!!」
運良く爆発によって丸焼きとなる事態は避けれたようだ。
地面に当たったダメージは受けたが、まだ身体は動く。
見ると、闘技エリアの中央で爆発の炎と煙が上がっていた。
自爆とか無茶な事するなあ! 危ないじゃねえか!
「あの子……無事かな?」
決闘相手を心配するなんて可笑しな話だが、先程の悲痛な顔と涙がどうにも気になる。
彼女は何か負けられない理由があるのか?
ゆらゆらと炎と煙が立ち込める中心地で、人型のシルエットが立ち上がった。
コツ、コツと、靴音が辺りに響く。
煙の中から現れた少女……クラウディアは頬に涙を流していた。
彼女の服は所々破れ煤けていたが、まるで意に介していないようだった。
「お、おい! 大丈夫か、りんごちゃん!?」
「私は負けない……私は落ちこぼれじゃない……私はグズじゃない……」
生気のない赤い瞳で、うわ言を喋る少女。
彼女の異様な姿を見て、言葉が詰まる。
「……禁忌解放伍式」
『同響調和』
彼女は全身を蒼い炎に包んで、そう呟いた。




