紅玉の瞳クラウディア その3 ☆
* * *
『――いでよ黄昏の番人、炎の巨人! あの男を踏み砕け!!』
ローブを着た赤髪の少女クラウディアは、瞳を一層輝かせてそう言った。
突如地面に大型の魔法陣が展開されて、そこから燃え盛る巨人がゆっくりと姿を表した。
「な、なんだコイツーー!?」
現れたのはどっしりとした体型の巨人だった。全長10メートル程だろうか。
燃える鉄兜を被り、表情は伺いしれない。
こんなの体験版じゃ無かったぞ……!?
魔術パねえ。俺もそんな力欲しかったなぁ、チクショウ!!
「さあ、覚悟する事ね。炎の巨人、やっちゃいなさい!」
いつの間にか巨人の肩に登っていたクラウディアが命令すると、巨人が動き出した。
……そこに居て熱くないんだ!
巨人が歩く度にずしん、ずしんと大地が揺れる。
眼前のエキサイティングな光景に、客席は大盛りあがりの様子だった。
巨人の動きは緩やかだが何せデカい。一歩動くだけですぐに距離が縮まった。
「踏み潰しなさい、巨人!」
大きな足が頭上へと振りかぶり、振り下ろされる。
そんなの喰らったら本当に死ぬっての!
背を向けて急いで逃げる俺。ズシン、と地震のような揺れが襲った。
「パンチよ、巨人!」
地面に這いつくばる俺に追撃をかけるクラウディア。
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!」
『跳躍ッ!』
大ジャンプでその場を脱すると、ぶうんと風切り音が間近に聞こえた。
あ、あっぶねえな!
その後も巨人の猛攻をすんでの所で回避する俺。
勇士ランクの闘技エリアは決闘場の半分の大きさ(前のランクの2倍)だけど、広すぎると思ってた闘技エリアが狭く感じるほどの逃亡劇だった。
とはいえ逃げ回ってただけじゃない。いくつか分かったことがある。
恐らく、炎の巨人は単純な命令しか実行できない。動きに精密さがないからな。
その代わり再生能力が備わっていた。
魔竜喰らいで斬ってみたが、全身を斬り落とす前に再生が始まっていた。
そもそも、生物って感じがしないからなぁ。どこに弱点があるか予想出来ない。
という事で巨人攻略はスッパリ諦めることにした。
要するに呼び出した本人を倒せばいいのだが……。
クラウディアは巨人の肩、即ち10メートル上空に居る。
どうやって攻撃したものかなぁ。
こんな大魔術の行使、どう考えてもMPをドカ喰いすると思うんだが……彼女は涼しい顔をしている。何か秘密が?
「なあ、りんごちゃん。そんな巨人を呼び出せるのは驚きだけどさ。何で君のMPは尽きないんだ?」
「りんごちゃ……! フン、何だ貴方知らないのね。ゲーム本編をプレーしてないのかしら」
何。俺の知らない情報か?
「仕方ないから一つだけ教えてあげる。私の異名、紅玉の瞳。この特異な”魔眼”は魔力を無尽蔵に増幅させる。MPなんて使った傍から回復してるわよ。私に魔力切れなんて期待しない事ね?」
「何じゃそりゃあ、卑怯くせえ!!」
俺のSPは減りっ放しの上、0になったら動けなくなるんだぞ!
魔力使い放題とか羨ましいな!
「とはいえ、このままじゃ埒が明かないわね。アレを使うしかないか……」
クラウディアは目を瞑り、ぶつぶつと詠唱をし始めた。
また知らない魔術か! 今度は何だ!
「禁忌開放参式、精神意向OK、同響管制クリア」
『同調!!』
彼女の体が輝き、光の球体となって炎の巨人の体……その中央へと吸い込まれる。
「何いぃ!? 合体しただとぉ!?」
魔術って最早何でもありだな!
《失礼ね、合体じゃないわ。同調よ》
巨人の体からスピーカーで流したような声が聞こえる。
《私と炎の巨人は同調……リンク状態にある訳。これ、どういう意味か分かる?》
「動きが早くなったり、魔術が使えたりする……とか?」
《正解》
当たって欲しくなかったなあ!
パイロットが搭乗した巨大ロボットのように、俊敏に動く炎の巨人。
あっという間に距離を詰めて、蹴りを放ってきた。
《潰れちゃいなさいっ!》
超質量の炎の脚が眼前に迫る。
こんな奴相手に有効なスキルなんかねーよ!
『跳躍ッ!』
僅かでもダメージを減らそうと、後ろに飛び退きながら剣を構える俺。
接触の瞬間魔竜喰らいを起動して脚に攻撃するが、案の定全てを削り取る事が出来ず吹き飛ばされる。
ぐっは……、痛ってえ! 体がちょっと焼ける音がした!
後方へと吹き飛んだ俺にクラウディアは追撃を仕掛けてきた。
《ブレイジングショット!》
巨人の指で銃の形を作り、時間をかけてチャージすると巨大な炎球が出来た。
オイオイ、そんなのありかよ!
《シューート!!》
轟音を出して迫りくる巨大球。
あんなのカスっただけでも蒸発しちまう!
俺は全身全霊をかけて、この局面を乗り切る事に決めた。
「吠えろ、魔竜喰らい!」
『竜の咆哮――!!』
俺は剣に蓄えられた魔力を開放し、輝く刀身から光刃を迸らせた。
そう、魔竜喰らいはただ魔力を切り裂くだけの剣じゃない。
斬った魔力を刀身に蓄えて、一定まで溜まったら必殺技……輝く光刃、竜の咆哮を放つ事が出来るのだ。
光刃は炎の巨大球を真っ二つに切り裂き、俺の背後で爆発が起きた。
うわあ、観客席大丈夫かな。
《何よソレ! 卑怯じゃない!?》
「チート魔力のお前に言われたくねーよ!!」
《もー、頭来た! もう一発撃ち込んでやる!》
その言葉にはっとする俺。
魔竜喰らいによって剣に蓄えられた魔力はさっき使い切ってしまった。
本来なら刀身が赤く光って残魔力量を示すけど、スッカラカンなので全く光っていない。
……二発目防ぐのは無理だって!!




