エントランスでの一幕
大浴場で出会った男は、クラベスと名乗った。
こいつも勇士ランクへと進んだ闘技者で、片手剣・片手盾を持つグラディエータースタイルらしい。
「で、その百技ってのは何?」
「今日決まったから、知らないのも無理ないか。勇士ランクに上がった奴には闘技大会運営から二つ名が付くんだぜ?」
「そんなのがあるのか。……アンタは何て二つ名なんだ?」
「”至妙”のクラベスだ。よろしくな、百技のユーリさんよ」
どうも俺はブレイズとの決闘に勝利したことで、思った以上に有名になったらしい。
「それにしても百技って。俺、そこまでスキル使ってないんだけど」
「ほう? まだ奥の手を隠し持ってると、そう言いたいのかな?」
「いやそんな……」
クラベスのニヤついた目を見て、はっとした。
……こいつ、情報を引き出そうとしてる?
スキルは俺の生命線だ。所持スキルがいくつで、どんな能力かなんて情報を漏らしたら対策されちまう。
ここは適当にはぐらかしておくか。
「ま、百技ってのは案外外れてないかもな?」
「それはお前さんの"他者の技を盗む"って特技のお陰かい?」
「………!」
急に核心を突かれてぎょっとする。
俺が異世界転移者ってことがバレている……だと!?
いや、カマかけてるだけかもしれない。
なるべく顔に出さないようして答えた。
「何のことか分からないな。アンタ、闘スポのゴシップ記事に踊らされてるんじゃないか?」
「ハッそうかい。そう言うなら追求はしないが……。ま、もうちょっと表情を抑える練習をした方がいいと思うぜ?」
……ぬぐ、表情でバレてたか。
それから俺は、話題に気をつけつつもクラベスと話をした。
来月までどうするか聞いたら、冒険者ギルドの討伐クエストに自主トレ、決闘観戦と、ナンパとの事。
今まで同ランクの知り合いはいなかったので、クラベスの話はそこそこ参考になった。
風呂の後トレーニングでもどうかと誘われたが、怪しい感じがしたので連れを待たせてると言って丁重にお断りした。
湯上がりの水分補給をして、エントランスへと戻る。
すると、ナビコが女児……少女達に囲まれていた。
すわ誘拐かと思ったが、声を聞く限りでは談笑しているようだった。
多分妖精が珍しいのだろう。注目を浴びたからか、ナビコがドヤっていた。
少女達の中のひとりが、俺を見て声を出した。
「あーっ、闘技場でアーちゃんに酷いことしようとした男の人!!」
「……ん?」
聞き覚えのある声と、見覚えのある顔だった。
ウェーブかかった栗色のミディアムヘア。ぱっちりとしたブラウンの瞳。
服装は違うが、以前決闘で闘った弩使いの子だった。
「あむちゃん、知り合いの人?」
「ちょっと聞いてよ、ゆんちゃん。このお兄さんったらひどいのよ。アーちゃんをメチャメチャにする気で襲いかかって来たんだから!」
ぷんすこ、という感じの栗毛の少女。隣の銀髪の子は友人だろうか。
アーちゃんって例の弩だよな。何だこの言いようは。
「あ、あのー? アーちゃんって弩だよな? まるで俺が女児に酷い事したように話すのは、流石にやめてもらえるかなー……?」
「あたしのアーちゃんを傷物にしようとしたくせに、何言ってるんですかー!」
「まあまあ。落ち着きなよ、あむちゃん」
間で仲裁する銀髪の少女。
この娘は話を分かってくれそうだ……!
「えーっと…君。ゆんちゃんだっけ? ちょっと事情を聞いてくれるかな」
俺は銀髪の女児に決闘の経緯を説明した。
彼女……ミリアムは遠距離使いとして、(年の割に)強者だった事。
勝つためには弩を無効化する必要があった事。
そして彼女が弩をかばった為、急転換して弩を守った事。
途中意地悪をしたのも、彼女と弩を傷つけない為だと力強く訴えた。
俺の証言に、ナビコも味方してくれた。
「成程。お兄さんは悪くないわ」
「なんでっ!?」
ショックを受ける少女……もといミリアム。
マジでこの娘は弩を大切にしすぎだろ。
「ごめんなさい、お兄さん。あむちゃんはお気に入りの子に過保護すぎまして……」
「もー。ゆんちゃんってば。謝る必要ないじゃないー」
思いっきり拗ねるミリアム。
しかし、友人だけでも俺の苦労が伝わってくれてよかった。
ミリアムは暫くぶーたれていたが、ナビコの妖精よもやま話と空中パフォーマンスでころっと機嫌を持ち直し、友人と一緒に女性用入口へと入っていった。
……やっべー。とんだ風評被害を受ける所だった。
とんだ再会だったな。ナビコには感謝しなくてはなるまい。
大浴場では、そんな一幕もあった。




