大浴場
スピカに特典の内容を聞いてみたら、耳打ちでコッソリと教えてくれた。
よくわからなかったが、どうも王都の様々な権利を得たという事らしい。
土地などの財産を保持する権利、結婚ができる権利、裁判権、選挙権などなど。
要するに王都の市民権。その証明書だった。
王都の、市民権……。
いらねぇぇぇぇ!!!
余程すっぱい顔をしていたのか、スピカが話しかけてきた。
「ユーリさん、ユーリさん。これ自体、皆の憧れのステイタスなんですニャよ? 特に、外から来る事が多い闘技者にとっては垂涎の品なんですニャ!」
「えぇーー?? 全く魅力を感じないんですけど?」
「ガッカリするのはまだ早いですニャ! さらに、王都の大歌劇場で観劇できる上に、あの有名な大浴場に入れるんですニャよ? これは利用しない手はないですニャ!」
「大、浴、場……?」
王都は闘技場がある通り、古代ローマがベースの都市だ。
古代ローマ人は風呂好きとマンガで見たことある。
そのせいか、王都には公衆浴場がそこかしこにある。
現代で言うスーパー銭湯みたいなものだ。
風呂に慣れ親しんだ日本人には非常に助かるのだが……。
今まで通ってた公衆浴場にはめちゃくちゃ人がいた。
例えるなら真夏の市民プールのような。
ぎゅうぎゅう詰めで、騒々しい光景が公衆浴場の日常だった。
まぁ風呂好きってのは清潔な証拠だし、いい事なんだけど。
「広く壮大な建物に、華美な装飾。運動場や娯楽場などもある一大レジャー施設。それが大浴場ですニャ! 王都に着たなら一度は行かないとですニャ」
「それに、こういう所では思わぬ出会いがあるって話ですニャ。お互い裸同士、暑い湯船に浸かり……。視線を感じ、思わず意識してしまうものの、相手の見事な肢体が目に焼き付いて忘れられず、互いに惹かれてしまいいつしか……♡」
「なーんて事があるかと思うと、ドキドキしませんかニャ♪」
……エロ漫画かよ!!
はっ、まさか。その大浴場って混浴なのか!?
「ああっ、何だかすごく汗を流したくなってきた!! 今日は頑張ったし、仕方ないよなー!」
「おおっと、その前に蘇生の指輪の交換と賞金の引き渡しをしますニャ。ちょっとだけお待ち下さいニャ」
スピカに指輪を交換してもらった。
今まで銀の指輪だったが、渡されたのは金の指輪。
蘇生能力は今まで通りだが、この金の指輪は王都市民である証を兼ねているとの事。書類を持ち歩かないで済むので、楽な事この上ない。
今まで保持していた賞金は、全て新しい指輪に移してもらった。
今度の指輪は、念じると小さいディスプレイが宙に出て、残金が分かる新機能付きらしい。
……だから、何でそういう所だけハイテクなんだよ。
賞金を受取った俺はその足で、早速大浴場へと向かった。
――そして、今俺は大浴場の湯船に浸かっている。
「ちくしょおあぁぁぁぁぁ!!!!」
騙された! 混浴じゃねえじゃん!!
大浴場だけあって、今まで見たことない程大きく華美な建物だった。
服を脱ぎ、廊下を渡り、水風呂、温水風呂と入って来たが……。
男しかいやしねえ!!
くそっ、スピカの奴、思わせぶりなこと言い過ぎなんだよ!!
いつまでも悔しがっていても仕方ないので、気持ちを切り替えて風呂を堪能する事にした。
大理石の浴槽に、無駄に豪華な内装が、めちゃくちゃセレブ感を出している。
大浴場と言うだけあって全てがハイグレードだ。その為か利用客はまばらで、快適に過ごせる。
ここがたった3Gで1日入り放題と思うと、悪くない特典なのかもしれない。
……ちなみにナビコはエントランスに置いてきた。
あいつ風呂に執着はないから、別に構わんだろう。
「よう、”百技”サン。こんな所で会えるとは光栄だね」
「…………俺?」
湯船で寛いでいたら、見知らぬ青年から急に声をかけられた。
他の誰かに声をかけたのかと思ったが、周りには誰もいなかった。
それにしても、百技? なにそれ?
「……人違いじゃないッスか?」
「いやいや、見間違えようがない。何せ今日の決闘をこの目で見届けたからな。あの破壊者を倒しちまうなんて驚いたぜ。なぁ、”百技”のユーリさんよ?」
アッシュグレーのくせっ髪ミディアムヘア。
無数の傷が刻まれた、引き締まった肉体。
その男は、ニヒルな笑みをして浴室に立っていた。




