医務室の幼女メロペ
かくして二人の男の闘いは決着した。
闘技場はかつてない程の熱狂に包まれていた。
賭けに勝ち狂喜する者、落胆する者、闘いの熱に当てられ興奮する者。
その中で、ユーリに注目する者達がいた。
「へえ。あの炎使いを倒しちゃうなんて意外ね」
「特別な力を持った、ヘンな闘い方をする決闘者……」
「対戦することになったら、どう焼いてやろうかしら?」
ローブを着た赤毛の少女は口に指を当てて、くすりと笑った。
「千雷・刻冥断……。何故、あのお方の技を使える?」
「使えるスキルの多さといい、アイツは調べる必要がありそうだ……」
白い鎧に身を包んだ中世的な顔の騎士は、そう言って観客席を後にした。
「決闘など野蛮な見世物だと思っていましたが、思わぬ収穫でした」
「あの男、ユーリと言いましたか。それにあの妖精も。覚えておきましょう」
新緑の瞳をしたエルフの少女は、背を向けて貴賓席の奥へと消えていった。
* * *
ぱちりと目を覚ました。
見覚えのある白いカーテンに白いベッド。……医務室か。
なんだか、夢を見ていた気がする。
この世界に来る直前のこと。
俺がゲームクリアした時に、”謎の男”の提案を受けたことを、唐突に思い出した……気がする。
同じ異世界転移者と闘ったせいかな。
天井を眺めながら、ぼんやりと決闘を思い返す。
ブレイズと死闘を繰り広げ、何度かの攻防の末……奴の上半身を吹き飛ばした光景がフラッシュバックした。
うわ、やっちまったぁ……。
いくら復活できるとはいえ、殺しちまった。
とはいえ、加減して何とかなる相手ではなかった。
師匠の技があんなに威力あるとは知らなかったし、仕方ないよな。うん。
ブレイズも対戦相手潰してるし、文句言われる筋合いはないってことで。
それにしても、あの後倒れたのはSP0になったからかな。
毒は受けてないから体調はすこぶる良い。
体にはぐるぐると包帯が巻かれていた。
……アルキオネが看護してくれたんだろうか。
起き上がろうとすると、近くから声がした。
「これ、まだ寝とらんか!」
辺りを見回すが、声の主が見当たらない。
……あれ、どこだ?
「どこを見ておる、ここじゃ!」
真隣から声が聞こえた。
声がした場所をよく見ると、ナースキャップと幼女の顔が見えた。
背が小さい。小学生くらいか?
「こ、子供……?」
「こりゃ! 子供ではないぞ、これでも立派な施療神官じゃ!」
口を膨らませる金髪金眼の幼女。
ピンクの白衣を着て、黄色のラインが入ったナースキャップのサイドからツインテの髪が出ていた。
背格好は全く違うが、服と帽子はアルキオネと似たデザインだ。
「クレリックって。君、医務室の職員なの?」
「そうじゃ。言っておくが、只の子供ではないからの。あちきの名前はメロペじゃ! お主には特別に呼ぶことを許してやろう」
「……お主、決闘場で倒れたじゃろう。そこそこ怪我をしておった故、あちきが治癒魔術でぱぱっと治したのじゃ。感謝するがよいぞ?」
平らな胸を張り、ふんすと鼻息を出すメロペ。
のじゃロリって、リアルに存在していたのか……。いやここゲーム世界だった。
看護された事は覚えてはいないが、特に痛みもないし本当なんだろう。
感謝の言葉を述べたら、メロペは満足げに頷いた。
「所でアルキオネは? 今日はいないのか?」
「ああー、あの乳袋女かの。お主もあの女にお熱なのかえ?」
……んん? 何だこの発言。
幼女がこんな事言うとは思わなかったな。
「その言葉、どういう意味だ?」
「どういう意味も何も、入院する男はみんな乳ぶ……アルキオネにお熱になるからのう」
どうも、男性患者はアルキオネの献身的な介護に心絆されるらしい。
まあ、その気持ちは分からないでもない。
アルキオネ、優しいし。胸でかいし。
アルキオネの事をちょっとつついてみたら、メロペは不満をぽろぽろと溢しだした。
こっそりお菓子を食べて怒られたとか、シーツの畳み方が雑と文句を言われるとか。
ちっちぇえー。話のスケールがちっちぇえー。
益体もない愚痴を聞いていると、ふとカーテンの外から声がかかった。
「……興味深い話をしていますね、メロペ?」
「はひゃあ!! ね、姉様ッ!? おつかいに行ってたのではないのかっ!?」
ゴゴゴゴゴという音が出そうな表情で、メロペを見つめるアルキオネ。
笑顔なのに全く笑ってない顔だアレ。
「ちょっとメロペをお借りしますね、ユーリさん」
「ままま待て、たすけ――」
有無を言わさず連行されるメロペ。
暫くして、何かを叩く音が部屋に響き渡った。
ぺしーん! ぺしーん!
「悪かったのじゃっ! ごめ、ごめん!」
「謝る時は、ごめんなさいでしょう?」
「ごごご、ごめんなさいのじゃーーっ!」
うわあ。とんでもない事になってしまった。
カーテンに二人のシルエットが映っている。
お尻ペンペンの刑だな、これは。
程なくして二人は戻ってきた。
アルキオネは笑顔だが、メロペは涙目でお尻を擦っている。
……ナムサン。
「忙しなくて申し訳ありません、ユーリさん」
「あいや、いいんですよ。……そ、それにしても、姉妹だったんですね?」
「はい、メロペは末妹でして。まだ看護師として日も浅く未熟です。私からよく言い聞かせますので、至らない点はご容赦頂けないでしょうか?」
「だ、大丈夫ッス。メロペちゃんは良くやってると思うッス。治療してくれて感謝してるッス」
「そうですか? ご配慮痛み入ります。……所で、ユーリさんは何故そのような口調に?」
「いえ、何でもないッス!」
怒らせると怖そうだし、アルキオネには逆らわないでおこう。




