【ゲームクリアのその先へ】
――これは、俺が忘れていた記憶の一欠片。
……………
………………………
「ふあ~あ……」
大きな欠伸が出る。
ここは俺の部屋。五畳半のせまい我が城だ。
部屋の幾分かを占拠しているテレビには、エンディングのスタッフロールが流れていた。
俺は心地よい満足感に包まれていた。
そう、今しがたゲームをクリアした所なのだ。
楽しみにしてた新作RPGだったこともあり、なんだかんだで寝る間も惜しんでプレーしてしまった。
金曜日からぶっ続けだから……ほぼ二徹だな。
カーテンを開けて外を見ると、夕日が沈む所だった。
うわ、もう夜かよ。明日の学校だりぃなぁ……。
ファンファーレが鳴る。
テレビの方を振り向くと、エンディングが終わっていた。
俺はカーテンを閉め、再びゲームへと意識を戻す。
やーー、面白かった。
ストーリーも王道だったし、バトルも爽快で良かった。
やっぱこのメーカーのゲームはキャラがいいねぇ。
なんて言うかキャラが生きてるって感じ?
あそこのあれは名シーンだったなー。
色んな思い出がリフレインする。
余韻に浸って残り少ない休日を過ごそうと思っていたら、急にテレビの映像にノイズが走る。
ザザッ、ザーーーーー
どうしたのかと思っていると、突如テレビから男の声が聞こえてきた。
「「やぁやぁ、どうも。聞こえるかな?」」
少年にも青年にも聞こえる声が、テレビのスピーカーから流れた。
まるで多重音声を同時に聞いているような。
随分と変な感じだ。
「「おーーい? 聞こえる? 聞こえてるよね。無視しないでおくれよー!」」
「うわっ」
思わず声が出る。
なんだこいつ。というか誰?
「「なんだい、聞こえてるじゃないか。驚かせないでくれよ」」
驚いたのはこっちの方じゃ!
というか、まるで俺の声が聞こえたみたいな反応だな。
……はは、まっさかぁ。
画面には乱れたノイズが走っていて、そこに人の影らしきものが落ちている。
なんなのこれ。この影が語りかけてきてるの?
本当に誰なんだよ。
「「やぁ、挑戦者くん。初めまして。僕の名前は■■■■だ」」
あ? なんだって?
名乗ったところ、よく聞こえなかったんだけど。
それに俺のことプレイヤーって言った?
「「あれ? 聞こえなかった? そうかー。 ああ、いいよいいよ気にしないで。僕の名前なんて今はどうでもいいし」」
いいんかい。というかノリが軽いなこの男。
「「そうそう、今日は君にとても良い知らせがあって来たんだ」」
「「おめでとう! 君はーーー選ばれたんだ!」」
うわぁ、胡散臭い。
これ宗教の勧誘だよね。
それかボッタクリ品売りつけられる奴。
「「あれ? 疑ってる? やだなぁ、そんな警戒しなくてもいいじゃないか。僕はね、ある提案を持ってきたんだよ」」
「「そうだねぇ、いきなり本題に入るのも何だし、ひとつ尋ねようかな」」
「「君はこのゲームの”先”があったらどうするかな?」」
なに? どういう事だ?
「「エンディング後の世界、可能性の世界、新たなる世界。……言い方はなんだっていいさ」」
「「つまり、このゲームの”先”のことさ」」
このゲームの先? 何言ってるんだこいつ。
二周目のこと? クリア後のおまけシナリオ?
それとも……。
実はクリアしたのは第一部で、エンディング後に第二部が開始されるのか!?
だとしたらすっげぇ!
想像以上のボリュームじゃん!
「「はは、興味が出てきたみたいだね」」
「「君はそんな世界を見たいと思わないかい? そんな世界に飛び込みたいと思わないかい?」」
そりゃあ、まあ。
ゲーマーなら見てみたいと思うのが当然でしょ。
「「……じゃあ、提案だ」」
「「新たなる混合世界を。新たなる白熱する戦いを。新たなる人との出会いを。新たなる世界の法則を」」
「「エンディングを越えた世界へ。世界が織りなす物語へ。物語が紡ぐ地平へ。可能性のその先へ」」
「「君をそこに誘いにきた。ひとりの挑戦者として、ね」」
「「君はそこで何をしても良い。どう振る舞っても良い。僕はただ、君の軌跡が見たいんだ」」
「「これが僕の提案だ。どうするかは君の意思で選択してほしい」」
男がそう言うと画面のノイズが次第にクリアになっていき、選択肢が出てきた。
シンプルな二択だ。
この提案を…
「受ケ入レル」 「受ケ入レナイ」
ははっ。
なんだこれ。なんだこれ!!
選択肢で一気にゲームっぽさが出てきた。
これ、おおかた二週目に突入するための特殊演出なんだろ?
すげえ期待させておいて実は大したことなかった、ってオチが待ってるに違いない。
斬新で馬鹿げている。
変な労力をエンディング後に使うもんだ。
だけど、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ。
ゲームクリアのその先を。
その先の世界を夢見てしまった。
このゲームがもうちょっと続いたらどんな世界が見れるのか、なんて思ってしまった。
俺の選択は決まった。
「受ケ入レル」で決定キーを押す。
たとえガッカリしようが構わねえ!
この馬鹿げた演出の最後まで、こうなりゃとことん付き合ってやんよ!
「「素晴らしい。君の選択を歓迎しよう」」
男の声が聞こえた後、テレビ画面が一瞬カラーノイズへと変わる。
その後、目まぐるしく映像が出ては変わり出ては変わりを繰り返し、しまいには強烈な光を放ってきた。
「うおっ、まぶしっ!!」
たまらず目の前に手をかざす。
ん? あれぇ!?
すぐにおかしい事に気付いた。
手が……ない。
よく見ると、粒子となって光を放つテレビへと吸い込まれていた。
「お、俺の腕ぇーーーっ!?!?」
俺の混乱をよそに、俺の体はどんどんと粒子となり吸い込まれていく。
「一体全体、どうなってやがるんだあああああああああああ!!!!????」
なす術もなく、俺はすべて吸い込まれる。
キイインという音が部屋に響いていたが、次第に小さくなると共に、光も収まっていった。
テレビ画面にノイズと男の影が映る。
ぽつりと男の声が響いた。
「「期待しているよ、挑戦者2番」」
やがて男の影は消え、主がいなくなった部屋だけが残された。




