決闘 ☆
「……はっ。うるせえよ、ナビコ」
客席から歓声が聞こえているのに、ちっこい妖精の声はハッキリと俺に届けられた。
……ナビコにあそこまで言われて、クヨクヨしてたらカッコ悪いじゃねえか!!
俺の体から大量の血が出ていたが、まだ四肢は動く。
立ち上がろうとすると、うまく体を起こせれなかった。
体に活を入れ、無理矢理に立ち上がる。
息も絶え絶えだが、何とか立つことができた。
剣は見当たらなかった。超必を喰らった際に落としたようだ。
脳内で警告が鳴り響いている。
HPが危険領域に入った事を知らせているようだ。
恐らくあと数発攻撃を受けたら俺は死ぬ。
ピンチと言えばピンチだが、奴も相当ダメージを受けている筈だ。
決闘はクライマックスを迎えようとしていた。
「まだ諦めネェのか、贋作野郎」
ブレイズはアギトを構え、静かにこちらを見ていた。
口に血が入りうまく喋れない。ぺっと唾を吐き出して奴に答えた。
「……生憎と、体も神経も図太いんでね。このくらい屁でもねえさ」
「随分と大口叩くじゃネェか。ボロ雑巾のナリしてよ」
「へっ。アンタもボロボロだろう。実は結構、しんどいんじゃねえの?」
「俺を舐めてんのか? ……マジに殺すぞ」
……何でだろうな。俺はアイツに勝たないといけない気がする。
アイツに勝ちたいという欲望が体の奥底から湧き出てくる。
脳がフル回転して、俺は極限の集中状態に入る。
雑音は消せ。道筋を考えろ。
観察し、計算し、反応し、行動を書き換えろ――
観客も歓声も雑念もないクリアな空間。
俺と奴しか見えない。聞こえない。
そんな世界で、俺達は同時に動き出した。
互いにグラウンドを疾駆する。
ブレイズは口角を上げた壮絶な顔をしていた。
きっと俺も同じ表情をしている事だろう。
俺は開眼を使うまでもなく、闘いの道筋が見えていた。
迷う事はない。後は実行するだけだ。
『攻略本っ!』
スキルを発動し、奴の行動予測をする。
奴はゲージ消費キャンセルと超必殺技でゲージを全て吐いた。
無理な行動は出来ない今がチャンス!
大薙ぎの行動予測に合わせて、俺は下段からスキルを放つ。
『ヴェンデッタクロウ!』
アギトでの薙ぎ払いを寸前で躱しつつ、放った貫手がブレイズの右脇腹に当たる。
すぐさま斬り上げに移行するブレイズ。
悪いが、それは見えている。
『突進!』
ブレイズの脇を短距離ダッシュで抜けた。
追撃が来ると思った奴は、面を食らっていることだろう。
……俺の目的はこっちさ。
ぱしりと自分の剣を拾い上げ、一回転して奴に振り向く。これで状況は揃った。
睨みつける目をしたブレイズが、すぐそこまで迫って来ていた。
ガキィン! と武器を鍔迫り合いして、至近距離で俺達は睨み合う。
「ユーリィ!!!」
「ブレイズゥ!!!」
相手を潰すという気迫で、何度も何度も互いの武器をぶつけ合う。
二人の間に幾度となく火花が飛び散った。
大振りの攻撃の後に、空白の瞬間を捉える。
あのスキルを使うのは、今しかないッ!
「アンタに風穴、開けてやる!!」
『血華螺旋槍!!』
「黙れェ、偽物風情が!!」
『ランパートコラプスッッ!!』
力と力、超必殺技と超必殺技がぶつかり合う。
明らかに俺のスキル発動が早かったが、後から出したブレイズの超必殺技に競り負ける。
クッソ、あの超必殺技、発生時に無敵があるんだった!!
紅の螺旋が奴を貫くものの、爆炎渦巻く斬撃に当たって上空に剣が舞う。
剣が落ちてグラウンドに刺さる頃、俺はブレイズに片手で首を掴まれていた。
ギリギリと喉元を締められる。
怪力で持ち上げられて、脚が宙に浮く。
「テメェはここで終わりだ」
周囲が暗くなり、ブレイズの体から出た赤い光が、次々と天へ伸びていく。
こ、これは……、絶死招来技の合図!!
剣は弾かれ、首を掴まれ、絶死モードに入られた。
かつてない程の命の危機。迫りくる死の気配。文字通りの絶対絶命。
そんな俺の脳裏によぎったのは、走馬灯ではなく師匠との修行の一場面。
―――絶体絶命、大ピンチ。そんな時こそ不敵に笑え―――
あぁ、分かってるよ。ここで終わりなんかじゃねえ!
喉元を捕まれながらも、俺は不敵に笑ってみせた。
一瞬驚くブレイズ。
ほんの僅かな隙が出来た。
剣はすぐ側の地面に刺さっている。
つまり、まだチャンスはある――!
『欺きの手腕!』
一瞬で剣が手元に舞い戻る。
今こそあの技で、限界を超えろ!!
『千雷・刻冥断!!!!』『デス・バウンド!!!』
全身全霊をかけ、持てる力をスキルに注ぎ込む。
同時に放たれた決死の技は、ほんの僅かな差で俺が打ち勝った。
刻を断つ雷。神速の突きがブレイズの体を切断し、奴の上半身が宙を舞った。
驚愕の表情で無言の叫びをするブレイズ。
その体が地面に着く前に、光の粒子となって消えていった。
瞬く間の決着。割れんばかりの大歓声。
俺は力を使い果たし、膝を地面について崩れ落ちた。




