”攻略本” ☆
そういえば、前にもこんな事があった。
修行三日目に言われた”独力で技を取得しろ”という無茶振り。
どうにかして師匠から一本取りたい俺は、師匠の一挙手一投足を観察した。
「視る」事を突き詰めた結果、スキルとして昇華されたのが『開眼』だ。
という事は、「識る」事を突き詰めたのが『攻略本』?
だせえ! 致命的なネーミングのダサさだ!
こうなったらヤケクソだ! やれる所までやってやる!
『攻略本!!』
俺は開眼を解除し、即座に新技を発動する。
その瞬間、アークテンダロンの”攻略情報”が脳内に インストールされた。
あががががが!!
情報の洪水に立ちくらむが、ぐっと堪えてブレイズを見ると、ブレイズの姿が二重になって見えた。
いや、違う。ブレイズと同じ姿の幽霊が同じように動いている。
しかも、奇妙な事に幽霊のほうが先に動いている……!?
幽霊は俺に向けてグランドヴォルケイノで突進した後、対空技・ライジングテンペストを放ってきた。
幽霊だから俺に攻撃は当たらず、そのまま通り抜けていく。
そして、幽霊と全く同じ動きでブレイズが突進をしてきた。
まさかこれ……攻撃予測のスキルなのか!
『霞渡り!』『……春時雨!』
突進技がぶつかる寸前、俺は思い切って前に出た。
体が霞のように消えて一歩分先――丁度ブレイズの背後に出現した。
俺はブレイズに向けて突きの連打を放つ。
ブレイズは攻撃を受けつつ接近し、ぬっと腕を伸ばして来た。
……投げ技だ!
しゃがんで回避すると、ブレイズは眉を顰め、大鉈を逆手にして斬り上げて来た。
『バックファイア!!』『風車!』
『カタパルトパイルッ!』『ピアシングセイバー!』
ガキン! ガキン! と技がぶつかり合い火花を散らす。
……見える。奴の動きが見えるぞ!
名前こそアレだが、攻略本はかなり正確な攻撃予測を誇るようだ。
攻撃予測は、ネロの基本コンボを先出しリプレイで見ている感じだ。
コンボが終わったら幽霊はふっと消え、別のコンボが開始されたら幽霊は先出しリプレイとして現れる。
今からこのコンボを使いますよと親切に教えてくれる幽霊、こいつがあれば負ける気がしねえ!
「クソ雑魚が一瞬で一流プレーヤーの動きに変わっただと? ……ようやく面白くなって来たじゃネェか! こいつは実に、喰いごたえがありそうだ!!」
ガチンガチンガチン!!
大鉈が無数の突起の付いた、凶悪なフォルムの大型斧に変形する!
これは……解放術式・アギトだ!!
「喰らい尽くせ、アギトォオオオオ!!!」
だがその動きすら、見切る!
変形してリーチが延びた武器……アギトの動きもバッチリと脳内にインストール済みだった。
ブレイズは大薙ぎで斧をブン回すが、俺は的確に躱していく。
攻撃予想を告げる幽霊が、脳天をカチ割るかの如く両手で大型斧を高く振り上げた。
今なら俺の攻撃の方が早い!
『戦魔――』
俺がスキル発動に入った瞬間、ガシリとありえない速度で胸ぐらを掴まれた。
なっ――!? 攻撃パターンが、急に変わった!?
ブレイズの体から一瞬、赤いリングが出たのが見えた。
これはアークテンダロンの、ゲージ消費キャンセル――!
ぞわり。俺は”攻略本”で、次に垣間見た最悪のビジョンに慄いた。
『解放弐式・軻遇突智!!!』
ネロの持つ第二の超必殺技。
アギト解放済みという条件があるため、全キャラトップクラスの破壊力を誇る超必だ。
その超必を、超重量のアギトによる打撃を、避けることも許されず己の身に受ける。
アギトの無数の牙に、体をズタズタに擦り下ろされた。
――ああ。俺、負けるのか。
吹き飛ばされながら、俺はそんな事を考えていた。
ドンッと音が聞こえた。
暫くして、俺が地面に落ちた音だと気がついた。
視界が狭い。……それは、俺が地面に伏せているから。
何だか寒い。……それは、体から血が流れているから。
起き上がれない。……それは、俺が心折れかけているから。
たった一度のミスで取り返しの付かない程のダメージを受ける。
格ゲーにはよくある事だが、それが自分の身に起きているだなんて、脳が理解を拒む。
痛い。限りなく体が痛い。
起き上がらない俺に対して、ブレイズは馬鹿にするように嘲笑ってきた。
「どうした、借り物野郎! 手品はもう終いかぁ!?」
「さあ立てよ。俺はここにいるぞ。早く次の手品で挑んでこい!」
「人のスキルを奪うしか能のない贋作野郎が!!」
「悔しかったらお前が編み出した技を使えよ。どうせ出来ねえんだろ? お前は”偽物”だからなぁ!!」
男はゲヒャヒャヒャヒャと下品に笑った。
……そうだ、俺は。
この世界に来てから一度も、自分の力で闘ったことなんてなかった。
全部借り物。全部紛い物。
表面をなぞり、掠め取り、模倣しただけの贋作者だ。
俺に芯はなく、軸もなく、ましてや、この世界の住人ですらない。
こんな俺が、俺より強い異世界転移者に勝てる訳が……。
「逃げるな!!」
凛と、聞き覚えのある声が聞こえた。
「負けるな!!」
必死に、一心に、魂に訴える叫び。
「闘え!!!」
「闘ぇぇぇぇぇえええええ!!!!」
その声は、俺の闘志を呼び覚ました。




