闘いの意味
次の日。俺は誰もいない道場へと来ていた。
王都には様々な武術の道場が存在する。
剣術、刀術、槍術、斧術、弓術、馬術、杖術、盾術、格闘術、魔術、等など――。
道場にも隆盛と零落があり、師範代が亡くなったり、弟子が新しい道場を立ち上げるとそちらに人気を取られたりで、閉鎖する道場も少なくないとか。
昨日、俺は情報屋に稽古が出来る場所を尋ねた。
金貨と引き換えに教えてもらったのが、今いる無人の道場だ。
情報料はまたも100Gだった。……あいつ金の亡者だよ。
ここには内装も家具も、何もない。
自己鍛錬の稽古をするにはうってつけの場所だった。
俺は剣を床に置き、準備運動後に徒手空拳のスキル練習から始める。
鞭打、爪撃、双炎拳、紅蓮脚――
スキルを発動して、技の間合いや重心の位置、攻撃のテンポを体に覚え込ませる。
体を動かしながら、俺は情報屋の言葉を思い出していた。
俺が敗北する決定的な理由。
それは”絶対的な切り札”の有無。
一流の闘技者であれば必ず一つは所持しているという、”切り札”。
俺だってスキルはそこそこ所持しているが、情報屋が言うにはそれとは別種のものであるらしい。
――貴方は”絶対的な切り札”を持っているト、自信を持って言えますカ?――
そう問われても、俺は答えられなかった。
俺が所持しているスキルは流刃斬と開眼を除いて全てラーニングで覚えたものだ。
それを切り札と言い張れるかというと、そこまでの自信がない。
「ユーリ、手が止まってるよ」
ナビコの声で、思考に耽っていた事に気づく。
そういえば、見学に付いてきたんだっけ。
気を取り直して稽古を再開する。
ヴェンデッタクロウ、バグベアブロウ、紅蓮双炎拳、狗地牙突、雷火無刀――
同じ技の反復発動と、連続発動をして、連携の練度を確かめる。
組み手の相手がいないから完全に一人演舞してるだけだが、俺はこの稽古をするのが嫌いではなかった。
新しいスキルを覚える度、組み合わせのパターンは増えていく。
この世界で強くなるには、強力なスキルの所持に加え、使いこなす技術とセンスが必要だ。
しいて言えば、状況に応じてスキルを使い分ける闘い方が俺のスタイルで、強みの部分と思ってたけど……。”絶対的な切り札”かと問われると違う気がする。
ふう、と一息をついて持ってきた水を飲む。
今度は剣を使った練習をするか。
流刃斬、一刀繚乱、双迅戦斧、雷火絶刀、ピアシングセイバー、龍炎刃――
……剣の扱いにも随分と慣れたもんだ。最早自分の一部という気がする。
たまたま今まで無敗で来れたのは、ラーニングする異能力と、師匠の修行のお陰だ。
俺はただのゲーマー男子高校生。
運動部には所属してないし、運動能力が高い方でもない。
この世界に来て少し筋肉が付いてきたけど、俺以上の身体能力を持つ奴はゴロゴロいる。
俺のレベルは決闘で勝利する度に上がり、今やレベル20に到達していた。
けど、レベルが上がりステータスが増えた所で、上には上がいる気がする。
……そもそも俺は何で戦うんだろうな。
確かに強くなりたいと願ったし、エルク―シアと出会うため闘技場の上位ランカーになりたいと今でも思っている。
けど、相手を絶命させるような危険なやつ相手に、勝てるかどうか分からない闘いを挑む必要があるのかと思うと疑問符がつく。
ぴたりと俺の手が止まった。
「どうしたのよ? まだ稽古の途中でしょ?」
「……なあナビコ。俺が決闘を断るとしたら、どう思う?」
「別にいいんじゃないの。やりたくないんなら断れば」
軽いなオイ。反発するかと思ったのに、意外だ。
「じゃあ仮に、絶対に勝てない奴に闘いに挑むとしたら、どうしたらいいと思う?」
「そんなの簡単よ。とりあえず闘ってみればいいじゃない!」
「闘って負けるのであれば、自分より優れてる部分があるって事でしょ。なら、その優れた所を真似すれば今より強くなれる。たったそれだけの話じゃない?」
思った以上にまともな回答が来て面食らう。
ああ、確かに。闘ってもいないのに余計な事を考えすぎてたな。
別に死にはしないんだから、やるだけやってみればいい。
「……ユーリは他人の言葉とか、余計な事を気にしすぎなのよ」
ぽつりと呟くナビコ。そいつは耳が痛いな。
「そういえば、お前の弱体化ってどうなったんだ? そろそろ治りそうなのか?」
「王都に来た頃には、元に戻ってたわよ?」
「おいィ、そういう事は早く言えよ!!」
「あれ? 言ってなかったっけ。ま、いいじゃないそんな事は」
「良くないわい! ……そうだ、妖精の契約はどうなったんだ?」
「そーねえ。そろそろ解除しても問題ないんじゃない? 解除する?」
何かノリが軽いのが怖いんだけど。
解除したらいきなり傷口が開くとかじゃないだろうな。
「い、いや、いい。まだ残しておいてくれ」
「何ビビってんのよ。死なすような真似しないってば」
「いいから。……そうだ、腹減ってきたしメシにするか」
「ボク、アップルパイが食べたい!」
「はいはい。じゃあの店に行くか」
剣を振るって、ナビコと共にメシを食べに行く。
いつの間にか、これが俺の日常になっていた。
2日後。
俺は自らの意思で、熱狂渦巻く決闘場へ足を踏み入れた。




