果たし状
「ユーリさん、勝利おめでとうございますニャ!」
「ありがとうございます。ナビコ、治癒頼……あれ?」
ナビコはスピカに隠れるようにして俺を見てきた。
「じーーっ」
「な、何だよ。どうした?」
「ねえ。さっきあの子にひどい事しようとしてなかった?」
「ソ、ソンナコトハ、ナイデスヨ?」
何万もの観客が見てるのに、そんな真似をしたら即出禁になるだろ。
しかし、降参してくれて正直助かったと今では思う。
「ナビコちゃん、どうしたんですニャ?」
頭の上に「?」を浮かべるスピカ。
受付の人って決闘を見てる訳じゃないのか。
聞いてみたら、審判が下した勝敗はすぐに情報来るものの、決闘そのものを見てる訳じゃないとの事。受付業務があるし、そりゃそうか。
「もうあんな事しないから、治癒頼むって。な?」
ナビコはジトっとした目で訴えてきたが、謝り倒してようやく機嫌を直した。
ユーリったらボクが付いていないと駄目ねえ! と即ドヤ顔をしてきたが、これも治癒の為だ。我慢だ、我慢しろ俺。
今回は腕が吹き飛ぶ所だったからな。
五体満足で帰れたのは喜ばしいけど、ホントに腕吹き飛んでたらどうなってたんだろう。
蘇生の指輪があるから死にはしないだろうけど、蘇生した後も腕あるのかな。
そう考えると怖い。
ようやく戦う事にも慣れてきたのに、めちゃくちゃ不安になってきた。
「随分青ざめた顔してますニャ。どうしましたニャ?」
「例えばの話ですが。決闘で死なないまでも大怪我したらどうなるのかな、と……」
「どんな怪我でも時間があれば大抵治りますニャ。こないだ足が吹き飛んだ闘技者がいたですニャが、一週間しないうちに足が繋がって退院しましたニャ」
マジで!? どんな超医療だよ!?
……いや待て。傷の治療なら現にナビコがしている。
想像がつきにくいけど、リアルじゃ出来ない治療もここだと出来るのかもしれない。
リアル寄りとはいえ、ここゲーム世界だしなぁ。
「ちょっと安心しました。結構治るのが早いんですね」
「そうですニャ。そうでなければ闘技者が最も危険な職業扱いされて希望者激減ですニャ」
「言われてみれば、そうかも。……そういえば闘技者ってどれくらいいるんですか?」
「んー、そうですニャー。まだ数百人って所ですかニャ?」
数百っ!? 多いとは思ってたけど、そんなにいるのか。
「いやあ、これでもまだまだですニャ。参加者はまだ募集中ですニャから、これからも増えていきますニャ」
多い時は千人を超えますニャーとスピカは言っていた。
マジか。千人とかマラソン参加者レベルだぞ。内容は全然違うけど。
思ってた以上にスケールがでかい大会なんだな。
「ま、お喋りが長いとナビコが騒ぐんで。今日はここらで帰りますね」
「ちょっとー! それどういう意味よー!?」
どういう意味も何も、言葉通りの意味だが。
賞金を貰って帰ろうとした頃に、スピカが声をかけてきた。
「そうそう、ユーリさんにお渡しするものがありましたニャ!」
そう言って受付カウンターに書類を出すスピカ。
なんだろう。ハッ、まさかラブレター!?
受け取った紙には”果たし状”と書かれていた。
……うん。明らかに違うね。期待して損した。
「え。果たし状?」
「そうですニャ。これをユーリさんにと、男性の闘技者に頼まれましたニャ」
いや、何で俺に?
そんな因縁付けられるような事、した覚えないんですけど。
気になったのですぐに開けると、達筆な字で一文が書かれていた。
四日後 決闘場で待つ
……これだけ?
裏表を確認しても、これだけしか書かれていなかった。
「何です? これ」
「んー。決闘の申し込み状じゃないんですかニャ?」
「そんな事、できるんですか?」
「事前に闘技大会運営に依頼しておいて、申し込まれた方が決闘に合意すれば可能ですニャ。確か四日前くらいに頼めば会場を押さえる事が出来ましたニャ」
四日後。まさにここに書いてある日じゃん。
それにしても誰なんだよ!
せめて名前くらい書いておけや!
「これを渡した奴の名前って、分かりますか?」
「そういえば名乗っていた、ようニャ……? あっ、思い出しましたニャ」
「ブレイズ。大鉈使いのブレイズさんですニャ!」
――今思えば、アイツとの因縁はここから始まった。
世界を構成する第二の歯車は、人知れず動き出した。




