鎖剣使いロゼット その2 ☆
一体何が起きた!?
吹き飛ばされた俺は、起き上がって少女の方を見る。
少女を中心として、糸のような、紐のような何かが渦巻いていた。
侍女服は破れ、スカートが裾からどんどんと短くなっていく。
いや違う。スカート自体が解けて一本の線になっている――!
やがてスカートは完全に無くなり、少女は白いレオタード姿になった。
何とは言わないが、食い込みがすごい。
……いやいや、ドキッとしてる場合じゃないよ俺!?
チャキリと細長い柄を掴み、構える少女。
あれは糸でも紐でもない。剣だ!
ピシュン!
何かがこちらに飛んできた。
本能的に避けると、頬に軽く傷が出来る。
な……。どんだけ切れ味あるんだよ!
こんな隠し玉を持ってたとは!!
彼女が手を動かすと、剣は糸のようにしなり、不規則な軌道で襲いかかってきた。
「な、なんじゃこりゃああああ!!」
こんなの、アニメやゲームでしかありえない!
あ、ここゲーム世界だったわ。
なら問題ない……じゃねえええ!!!
あの剣……鎖剣(チェインソード)だったか?
どれだけの威力と間合いがあるか分からない。
見極めるまでは逃げの一手だ。
鎖剣は彼女を中心として、渦巻くように空中を漂っていた。
『波紋』
鎖剣による、超長距離の斬撃波が襲い来る。
まるで長さ無限の剣閃だ!
『雷迅脚!』
俺は闘気を雷氣に変換して、闘技エリアを駆け回る。
斬撃波は、何度も何度も押し寄せて来た。
クソッ、避けてもキリがねえ!
蛇腹剣は構造上、攻撃したら剣状態に引き戻すもんだろうが!
斬撃波が何度も来るなんて、おかしくねえ!?
ゲーム世界だからか!? 何でもアリだなぁオイ!
とうとう斬撃波が二つ同時に襲いかかってきた。
いや、おかしいよね。どんだけ長いんだよ鎖剣!
突進を使って斬撃波を躱す。
俺の必死の回避を見て、少女はぽつりと呟いた。
「貴方、強いですね……困ります」
その言葉に、ゾクリと寒気を感じた。
コイツ、何か仕掛けてくる!
『波紋』
またも斬撃波が襲い来る。今度は三つ同時だ。
回避して分かった事だが、このスキルは直線的な斬撃で読みやすい。
多数出せる代わりに、細かい調整は出来ないのかも。
俺は雷迅脚を使い、攻撃の軌道を見切って次々と回避していく。
三波目を回避した先に、四波目が押し寄せて来ていた。
そんな所だろうと思ったよ!
『突進!』
俺は直撃を逸らす形で緊急回避をする。
斬撃を少し受けたが、幸いダメージは少ない。
次の波はやって来なかった。
流石に、同時攻撃の後はディレイがあるのか?
鎖剣が飛んで来ない今が反撃のチャンス!
雷迅脚で一気に加速して近づく。
少女の顔には、驚きも焦りも見えなかった。
……待て。何かおかしくないか?
俺は嫌な予感を感じ、周囲を見回す。
彼女の周りに伸びていた鎖剣が、なくなっていた。
「……ごめんなさい」
数歩で彼女に届く距離で、俺の腕に”見えない何か”が巻きついた。
はっと息を飲む俺。
少女の表情。不自然な攻撃の空白。消えた鎖剣。不可視の術。
”見えない何か”の正体を察し、脳内で警鐘が鳴る。
しまっ―――
『……切断』
『頑健!!』
シュガッ!!!
右腕に、刃物が通り抜ける感覚を感じた。
ばっと腕を見やる。俺の右手はまだ繋がっていた。
よかったああああああ!!!
もし頑健を使うのが少しでも遅かったら、右腕が吹き飛んでいた事だろう。
俺は相手を睨みつける。
「てめえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
腕を千切ろうとする奴に、何をちんたらしてるんだ俺は!
コイツは敵だ! 倒せ!! 倒せ!!
心拍音が急上昇し、鼓動が鳴り響く。
今までの闘いで分かったことがある。
コイツは力押しするタイプでも、スピードで翻弄するタイプでもない。
技量に自信を持っている。
その自信をへし折ってやる。全部力で捩じ伏せてやる!
鎖剣の透明化は解除されていた。
いつの間に透明化の術を使ったのか分からないが、もう同じ手は受けない。
流石に相手も分かっている事だろう。別の手で来るはずだ。
少女は柄を巧みに操り、鎖剣を蛇のように動かし俺の体へと巻きつけてきた。
『……牢獄』
特に抵抗もせず、体ごと鎖剣に縛り付けられる俺。
恐らく拘束した後に切り刻むスキルだろう。
だからどうした。
俺は右手でガシリと鎖剣を掴む。
喰らわせてやるよ。俺の最大火力のスキル――
『フェネクスブレイバー』
体内に最大まで闘気を巡らせ、全て火氣へと変換する。
一瞬のうちに、体全体が燃え盛るような熱を帯びる。
右手に掴んだ鎖剣が熱で溶けていく。
彼女は初めて、驚いた顔をした。
バキン! ガキン! ボタボタッ
火氣を集中させた手で、鎖を力任せに引き千切る。
体内から発せられる熱に、縛る鎖も溶けていった。
彼女はすっと手を上げた。
なんだ。今度は何を仕掛けてくる。術か! 技か!
まだ勝負は付いちゃいない。とことん闘り合おうじゃないか!
もっと破壊したい。あいつをめちゃくちゃにしたい。
もっとこの瞬間を楽しみたい――
いつの間にか俺は、邪な衝動に支配されていた。
「……あの、負けました」
「!?」
沈黙を破り、彼女は口を開く。
彼女へと伸ばした手がぴたりと止まった。
「勝者、ユーリ!」
あ、あるぇ――!?
一旦ブレーキがかかると、ひゅーんと熱が正常に戻っていく。
いつの間にかスキルは解除されていた。
……はっ。
俺さっきヤバイこと考えてなかった!?
このスキル、凄い強力なんだけど稀に意識が飛んじゃうのが難点だな。
暫く封印しとこう……。
俯く少女になんと声を掛けたら良いかわからなかった。
ゴメンと言い、気まずいまま俺は会場を後にした。
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