鎖剣使いロゼット その1 ☆
次の対戦相手は、白黒のメイド服を来た少女だった。
いや、フリルがないし侍従服かもしれない。
頭にカチューシャを挿し、茶色の髪をショートに切り揃えている。
今までの闘技者と比べると、ものすごく村娘っぽい。……まあ、手にナイフを持っているけど。
試合開始のゴングが鳴る。
女の子にいきなり襲いかかるのは変態っぽい気がしたので、抜剣して出方を伺う事にした。
少女は俯いたまま、か細い声を発する。
『……トランスルーセント』
彼女の姿は風景と同化するように透けていき、やがて完全に姿が消えた。
なっ! 透明化のスキル! いや、術か?
ぐるりと見渡しても全く姿が見えない。
こういう奇襲向きスキルは、すぐに死角を狙って来るものだが……。
だけど、一向に襲って来る気配がない。
足跡は見えないし、足音もしない。
例え透明化していても、普通は人の気配まで隠せないのだが、それが全く掴めない。
本当に消えてしまった……?
いや、そんな筈はない。
見えないが、必ずこの決闘場にいる。
けど、何処から襲って来るかまるで分からない!
ど、どこにいるんだ!?
「……ごめんなさい」
何もないはずの真横から、少女の声がした。
クソ、そこかよ!!
声のした方に向けて斬りかかるが、手応えがない。
「ぐっ!!」
脇腹に熱を感じる。
クソ、やられた!
斬りかかったのとは逆方向に、ナイフを持った侍従服の少女が見えた。
少女の透明化は解除されていた。
見えちまえばこっちのもんだ! このユーリ、女だろうと容赦はせん!
「よくもやってくれたな!」
『流刃斬!!』
『……トランスルーセント』
俺の十八番は透明化した少女に躱されたようだ。またも手応えがなかった。
透明化、何度も使えるのかよ!
俺は背後を取られまいと警戒する。
しかし、彼女はどこにも見えず、どこにも気配を感じられない。
じりじりと時間だけが過ぎていく。
「……ごめんなさい」
目の前の何もない場所から、唐突に少女が現れた。
驚いていると、少女はナイフで俺の太ももをザクッと刺してきた。
痛ってええええ!!!
半ば反射的に斬りかかると、少女は難なく躱してこちらから距離を取った。
くそ、すげえ痛え! しかも急に現れるとかビックリするだろ!
……いや待て。何で透明のまま攻撃しないんだ。
もしかしてあの透明化、攻撃の度に解除されるのか?
傷はそこまで深くないが、体を動かす度に足と脇腹に痛みが走る。
マズイ、完全に相手のペースだ。
「……まだ、やるんですか?」
俯いたまま、少女は話しかけてきた。
負けを認めてもらえません? とでも言いたげな声。
初めて見せた少女の意思に、どことなく卑屈さを感じた。
これはただの勘だが。
彼女の言葉の裏に何か、隠れている気がする。
……よし。そろそろアレ、いっとくか。
「悪いけど、負ける訳にはいかんのよね!」
俺は少女に向かってダッシュをする。
少女は再び透明化をする所だった。
「させるかぁ!」
『開眼!!』
スローモーションの世界で少女を観察する。
少女の姿は既にうっすらとしていた。
暫くして、まるで空気になったかのように完全に見えなくなった。
だああああぁぁっ! やっぱりダメかーー!!
透明になると全く見えねーー!!
透明技は見通せない。またも開眼の弱点が発覚してしまった。
いやいや、まてまてまて。このままだと二の舞どころか三の舞だ。対策を練らないとマズい。
俺はスロー世界で一人、作戦タイムをする事にした。
彼女の透明化闇討ちは驚異だ。
何処から、どのタイミングで来るか予想がつかない。
特に厄介なのは気配がない事。何故感じられないんだろう。
そういえば透明化の際、闘気に闇氣が混じるのが少しだけ見えた。
透明化と同時に、何らかのスキルを併用しているのかもしれない。
それにしても、攻撃する時のごめんなさいって発言。何で謝るんだ?
はて、何か引っかかるな。
現状打破の糸口がそこにあるような――。
考えろ。彼女は何故、あんな行動をするのか。何故、あんな事を言うのか。
俺はこの決闘を思い返し、思考を巡らせる。
そして一つの推測に行き当たった。
……そうか。彼女、殺意が薄いんだ。
相手を打ち倒すという強い感情。それをあまり感じない。
そもそも、不意打ちできるなら心臓を狙った方が楽だろうに。
攻撃もあえて急所を外している。
となると、次も致命傷は避けて攻撃するはず。
こういう時は……逆転の発想だ。
攻撃を受けて、ナイフを奪う。
そうすれば彼女の対抗手段は無くなる。
がちゃがちゃと脳内でシナリオを構築する。
よし、あの手でいこう。
俺は開眼を解除した。
当然ながら、透明化した彼女は見えないままだ。
という事は最早、目を開ける必要もなし。
俺は剣を鞘に仕舞い、目を瞑る。
両手を広げた構えをしてスキルを発動した。
『虎魂!』
俺は水氣と雷氣を練りながら、感覚を鋭く研ぎ澄ます。
自分を中心として波紋を広げるイメージ。
長い時間、その構えを続けた。
突如、別の波紋が現れるのを感じた。
ごめんなさいという声と共に、俺の右腕にナイフが刺さる。
この速度、この角度。……そこにいるな。
ならば、もう外さない!!
『狗地牙突!』
左手で瞬速の手刀を放ち、ナイフを弾く。
カキン! と音を出し飛んでいくナイフ。
現れた波紋の中心に、間髪入れず腕を突っ込む。
すると、指先に肌の感触が伝わった。
「ようやく、掴まえた」
目を開けると、俺は少女の首根っこを後ろから掴まえていた。
逃さないよう、指に力を込める。
「今度は俺の番だな。負けを認めてくれ」
「じゃないと、君の首がどうなっても知らんぞ」
「…………」
少女は何も語らない。
後ろから掴んでいるので、表情は伺いしれない。
しばらく沈黙が続いた後、少女はいきなり屈んだ。
コイツ、何を!?
『鎖剣……起動』
俺は体に衝撃を受け、その場から吹き飛ばされた。




