宿屋の娘ナズナ
「戦士ランクの2勝目、おめでとうございますニャ!」
「どもっす。ナビコ、治癒頼むわ……」
「しょーがないわねぇ!」
俺は例の如く、報酬を受取りに来ていた。
引っかき傷に噛み跡なんかで体はボロボロだ。
別に致命傷ではないが、傷口が痛むんだよな。
まあナビコのお陰ですぐ回復できるし、俺は恵まれている方だけど。
「お兄さん、怒涛の快進撃ですニャ。今まで無敗なんて凄いですニャ!」
「無敗の闘技者って他にもいるんです?」
「いることにはいますニャ。けど数は少ないですニャ」
やっぱり強者っているもんだな。
まだ勝ち続けていたいけど、強敵との対戦はこれから避けられそうにないなぁ。
ナビコの治癒が終わるまで、スピカとしばらく談笑した。
「それじゃ、今日は疲れたんで帰りますね」
「了解ですニャ! 賞金をお忘れなくですニャー!」
俺はスピカから賞金を受け取り、闘技場を後にする。
これで貯金は1500G以上。ちょっとした小金持ちだ。
昼メシは新しい店を開拓しようと、商業地区を適当にぶらついた。
魚介料理が特徴の店で、味はそこそこだった。また来よう。
宿屋に戻る途中、大きな荷物を抱えた長耳族の少女に出会った。
金髪ロングをリボンで結って、長い耳に羽根の耳飾りをつけた少女。
どっかで見たことあると思ったら、宿屋で手紙を貰った娘だ。
「こんにちわ。買い物の帰りかな?」
「あっ、ユーリさん。こんにちはっ」
ぱっと笑顔を見せる少女。まるで向日葵のような柔らかい表情だ。
両手に袋を何個も抱えている。
「宿屋に戻るんだよね? 半分持つよ」
「あっそんな! お客さんに手伝ってもらう訳には!」
少女の言葉を無視して荷物を奪い取る。
ぐぎぎ、意外に重い。
「へ、へーきへーき。俺も宿屋に行く所だし」
「でも……」
「ここは宿屋じゃないからお客さんじゃないし。それに、こういう時は男に頼っておくもんだよ」
「ユーリさん……」
少女と談笑しながら宿屋へと戻る。
名前はナズナと言うらしい。朗らかな少女だった。
宿屋に着いたが、ついでと言って置く場所まで荷物を運び込む。
買い物は食料品が大半だった。
そういえばお金を払えば食堂でモーニングを食べれるんだっけ。今まで利用したことがなかったな。
買い出しだけじゃなく、ベッドメイクや掃除もあるし、宿屋の仕事って大変だなぁとしみじみ思う。
「ユーリさん。少しお話いいですか?」
ナズナは、もじもじしながら話しかけてきた。
はて、何だろう。
「あの、ありがとうございましたっ!」
頭を下げられた。
「……急に改まってどうしたの?」
「ユーリさんが二つ顔を倒したってお聞きしたんです」
「実は私、闘技者でして。初戦であの男に当たって、それはもう無残に負けてしまって……」
トゥーフェイス?
……ああ、昇格戦で戦ったあの卑怯野郎か。
きっと同じ手で騙し討ちしたんだろう。
初戦で当たったのは、気の毒としか思えない。
「私、あまりのショックにしばらく寝込んじゃいまして。お養父さんにも迷惑かけちゃいました」
「けど、二つ顔が倒されて、しばらく入院していると知りまして。それで何か安心して……宿屋の仕事にも戻ることができました」
宿屋の娘さんが何故戦う必要があるのか分からないが……。
ま、こういう時は元気づけてあげるのが一番だ。
「まぁアイツも大した事なかったよ。俺がコテンパンにしておいたから、安心しなって!」
「すごい! ユーリさんってお強いんですね!」
尊敬の眼差して俺を見るナズナ。
ゴメン嘘。めっちゃ苦戦しました。
「それにしても、闘技者だったとはちょっと驚いたな」
「あはは。私なんかてんで弱くってですね」
「そう言えばスピカ……受付のネコミミお姉さんが心配してたよ。無理に闘う必要はないけど、落ち着いたら顔を見せてあげたらどうかな?」
「はいっ!」
どんなファイティングスタイルか気になるので聞いてみたら、魔力の糸を使って闘う闘技者らしい。
何でも、始点と終点を空中に固定できるんだとか。
罠空間を張って動きを封じるのかな。近接主体の俺にとっては、苦手な部類に違いない。
「所で、俺が倒したって情報は何で知ったの?」
「それは勿論、闘スポです!」
笑顔で答えるナズナ。
……は? 今何て?
「えっ、知らないんですか、闘技者スポット。略して闘スポです!」
どうやら、王都ではそこそこ有名な刊行物らしい。実物をナズナから見せてもらった。
1枚ペラ用紙なものの、書いてある記事が明らかにスポーツ新聞のそれだ。
見出しの文字がデカいし、決闘予想とか書いてあるし。
スポット記事で注目闘技者コーナーとかもあった。
ちっこい記事に、二つ顔が倒されて現在入院中という事が書かれていた。
おい、誰だこんなもの作った奴は。
ファンタジー世界にこんなのある訳ないだろうが!
発行元は、よく分からん名前の団体だった。
怪しい……怪しいな。
もしかして異世界転移者って俺以外にもいるの?
よく見たら、情報提供:情報屋って書いてある。
マジかよ、アイツも関わってんの!?




