特典
受付のお姉さんに渡された謎の用紙。
これは、とある場所で見せるものらしい。
きっと気にいると思いますニャーと、お姉さんは言っていた。
まるで訳が分からないが、気になるものは気になる。
毒を受けたりで流石に体力を消耗したので、次の日に行くことにした。
その場所は、商業地区の大通りから3区画ほど進んだ所にあった。
「ま、マンション……?」
目の前には5階ほどありそうな建物。
ここなんだろうか?
俺は入口のガラス扉を開け、建物の中に入る。
フロントらしき所に、青年が立っていた。
……あれ。入る所、間違えたかな。
「いらっしゃいませ。宿泊をご希望ですか?」
「あいや、そうではなくて……。闘技場の受付の方から、ここの紹介を受けたんですが」
「成程、紹介状はお持ちでしょうか?」
「紹介状? ……あ、これかな?」
俺はお姉さんから渡された用紙をフロントマンの青年に渡す。
青年はしゅるりと紙を広げ、ものの数秒で読み終えた。
「確かに拝見しました。では、こちらをどうぞ」
かちゃり。鍵のような物を青年が差し出す。
……ん? なんで鍵?
「説明させて頂きます。当宿屋は戦士ランク以上の方に宿泊する部屋を提供しています」
「こちらは部屋の鍵となります。因みに、闘技大会の開催中であれば、無料で宿泊いただくことが可能です」
「ええっ!? 本当ですか!?」
「左様でございます。宿泊費は闘技大会本部から頂戴しておりますから」
なんじゃそれ、好待遇だな!?
これが”特典”。
確かに勿体ぶるだけあるなー。
宿代0円とか、財布を気にせず泊まり放題じゃん。
「それでは、お部屋にご案内いたします」
フロントマンの青年に付いていった先は、最上階の角部屋。
早速入ってみると、そこは掃除の行き届いたシングルルームだった。
昨日までの安宿とは違って、部屋の広さがまるで違う。
窓を見ると、王都の街並みが見えた。
おおっ、すげえ! 眺めがいい!
こんな部屋に泊まれるなんてラッキー。
「ここ、ホントに無料で泊まっていいんすかぁ!?」
「ええ、それが闘技大会本部との契約ですから」
にこり、と控えめに笑う青年。
すげえ。闘技大会の権力パねえわー。
俺は青年から諸注意を聞き、鍵を受け取った。
青年は、ごゆるりとご滞在ください、と言い退室した。
ぱたん。
扉が閉まった後、すぐさまベッドにダイブインする俺。
わっほーい! ふかふかだぁ!!
「何、はしゃいでんのよ」
「いやー、これは感動するだろ!」
ナビコが突っ込みを入れるが、それは野暮というものだ。
広く眺めの良い部屋。家具にインテリア。ふかふかなベッド。
ちょっと前まで森の中で雑魚寝だったのに、比べ物にならない程文化的な生活だ。
少しくらいはしゃいでも良いじゃないか!
しかし、闘技大会に感謝だな、これは。
序盤の特典でこれとか、さらにランクアップしたらどうなるんだろう。
楽しみが増えたな。
「住む所がグレードアップしたんだぞ。お前、嬉しくないのか?」
「ボクにとってはさほど……。別に、前の所も狭くなかったし」
これが人間と妖精の感覚の違いかー。
この感動を分かち合えないなんてな。
その後、俺は部屋の中を探検した。
室内の別部屋には、鏡と洗面台とトイレがあった。
流石に風呂やシャワーはないようだ。
トイレは洋式だった。しかも水洗式。助かるぅ!
しかし、探検はそれで終わりとなる。
テレビもパソコンもない。
娯楽に関しては、紛れもなく現代の方が優れていた。
……いや、だからこそか。
この世界では、闘技場の闘いこそが最大の娯楽なんだろう。
通りで闘技者の待遇が良い訳だ。
ま、暫くは王都の中を探検するだけで暇は潰せるし問題ない。
王都に来たのは大当たりだったな。
次の日。
俺はいつものように闘技場受付へ来ていた。
「おはようございます、お姉さん」
「おはようですニャ、ユーリさん! 特典はお気に召しましたですかニャ?」
「勿論!」
「それは紹介した甲斐がありましたニャー。……所で、闘技場に来られた、という事は決闘の申し込みですかニャ?」
「いや、その前にこのランク帯についてもう一度教えて欲しいんですが」
「かしこまりですニャ!」
「戦士ランクは、4勝を勝ち取った方が集うランクですニャ。闘技者ランクでまぐれ勝ちした人も、ここでは通用しない事も多いですニャ」
「決闘では、熱い戦いを繰り広げる光景も多く見かけられますニャ。当然観客の注目度も違いますニャ。ここで大きな活躍をすると、注目選手になれるかもしれないですニャ!」
別に、そういうのはいらないんだけどな。
注目度が上がると俺が修得出来る事、バレそうだし。
「次のランクまでの条件は、前と同じく”4勝”ですニャ。今回から降格もあって、戦士ランクに在籍している間に”4敗”すると闘技者ランクに逆戻りですニャ」
「まだ戦士ランクの闘技者は少数ですニャ。大多数が闘技者ランクの在籍ですから、ユーリさんはかなり速いペースで昇格されましたニャ」
「あれ、じゃあ申し込み出来ないんですか?」
「いる事にはいますニャ。今だと……そうですニャー」
「お相手は、槍使いの女性、短剣使いの女の子、半人狼の少年、などの闘技者がいらっしゃいますニャー」
ほう。何だかんだでいるじゃないか。
それじゃ、昨日トレーニングした成果を見せるとしますか。
といっても、公園で所有スキルを確認がてら練習をしただけだけど。
「お姉さんが選んだ相手でいいですよ」
「はいですニャー! それじゃ、早速決闘相手をマッチングしますニャ!」
かちゃかちゃと端末を動かすお姉さん。
程なくして、お姉さんはこちらを振り返った。
「お相手が出ましたニャ! 闘技者名はシルシ。大槍使いのシルシさんですニャ!」




